TCKコラム

TCK Column vol.59

帝王賞有力馬の紹介

 今年で28回目となる帝王賞がいよいよ迫ってきました。ここでは、地方の代表ナイキアディライトの近況と有力馬たちの紹介をしていきます。 (6月22日現在)

■ ナイキアディライト  船橋 出川龍一厩舎 牡5歳
主な勝ち鞍:
かしわ記念、日本テレビ盃、羽田盃、東京ダービー、マイルグランプリ、京浜盃、ブルーバードカップ


アディにとって心の友・金子厩務員と


昨年の判定写真 (上:アディ 下:ドン)

 昨年の帝王賞が思い出されます。王者アドマイヤドンにハナ差2着。その差は15cmほどだった、と。親指と人差し指で、15cmに開いてみた・・・たったこれだけの差で、帝王賞の歴史に名前を残すことができなかった(涙)考えれば考えるほどに、フツフツと悔しさがよみがえってきました。今年は何とか帝王の座を奪って欲しい!!
 かしわ記念(3着)後は3日間ゆっくりすごして、調教を開始しました。引き続き、石崎隆之騎手(騎乗できないときは石崎駿騎手)が付きっ切り。この間は、軽いものも入れれば5本の中間追い切りを消化しました。わたしも数回立ち会いましたが、直線軽く気合いを入れただけにもかかわらず、ピューンと黒い弾丸が飛んでいくかのような迫力とスピード。これから本追い切りが行われようとしているのに・・・昨年の帝王賞はデビュー以来最高の状態でしたが、今回も確実にそれに近い状態。さらには馬体重を見てもわかるように(帝王賞時463キロ、現在は470キロ台)、体も増えました。前走のかしわ記念よりも調整は順調に進み、毛づやや身体の切れは上向き。
 あとは、自分のペースで逃げられるか・・・そこが最大の注目点。最近は折り合いにすっかり不安がなくなったため、道中自分のペースで楽に行ける分、最後の粘りに繋がるようになりました。自分のペースで行けた時はとてつもなく強く、他馬に迫られても抜かさせない渋太さがあります。だからこそ、同系との兼ね合いが気になりますが、相手がいようがいまいが、「逃げる」そこに尽きるでしょう。名手・石崎隆之騎手の手綱さばきとナイキアディライトの踏ん張りを信じたいと思います。
 「アディは本当に丈夫なんですよ。2歳で芝を使った頃に、少しソエが出掛かったくらいで、あとは脚元に不安が出たことないんです。マイルグランプリ(優勝)のレース中に少しぶつけたところがあったんですが、すぐ治ったし。これだけ丈夫な馬も珍しいと思います」と金子厩務員。~無事これ名馬~という言葉がありますが、まさしくナイキアディライトのこと。心底丈夫だからこそ、陣営が思うとおりの調教を重ねられる・・・ハードな調教をこなしていくからこそ、逞しさを増していく・・・競走馬たちにとって、実は本当に大変なことなんです。しかも、トップクラスの競走馬たちならなおさら・・・それを当たり前のことのようにサラッとこなしちゃう。それが、ナイキアディライトの強さなんです。

■ トーシンブリザード 船橋 佐藤賢二厩舎 牡7歳
主な勝ち鞍:
ジャパンダートダービー、全日本2歳優駿、かしわ記念、羽田盃、東京王冠賞、東京ダービー、京浜盃


大和田厩務員と仲良く運動中のトーシン

 前走のさきたま杯は59キロを背負いながら、トーシンブリザードらしい末脚を見ることができました。馬体重(488キロ)を絞ったのも、好走の要因です。レース後、「一叩きして動きもさらに軽くなったよ」と調馬手の原田さん。大和田厩務員も「例えば同じヤンチャな動きをしたとしても、前走よりも俊敏さが出てきたよ。体つきも気合乗りもいい」引き続き精神面の落ち着きもあり、非常にいい雰囲気です。
 「ブヒヒーン」あれ? 久しぶりにトーシンブリザードのいななきを聞きました。以前、イライラしている時は他馬を威嚇して怖いくらいでしたが、ここ最近はそんなことがなかったのに。だからといって、威嚇しているような怖さでもない。どうしたんだろう・・・「玉井勝厩舎のマルヒロゴールドとマルヒロジョウオーのことが好きみたいなんだよなぁ。見ると、すぐ鳴く(笑)」と大和田厩務員。
 「蹄の不安などで休みながら使っているから、7歳と言っても馬は若いよ。年齢は感じさせないね。あとは、内臓面が戻ってくるかどうか・・・3、4番手でじっくり我慢して、どれだけ最後に伸びるかがポイント。胸を借りるつもりだけど、いい状態でレースに使えれば、きっとチャンスはあると思う」と佐藤賢二調教師。

■ ケージーチカラ 大井 岡部盛雄厩舎 牡5歳
主な勝ち鞍:
大井記念


大井記念のパドックで

 中央から南関東に移籍し、約10ヶ月。見事重賞ウィナーの仲間入りを果たしたケージーチカラ。「一発あると思うよ」とレース前から的場文男騎手は自信を持っていましたが、期待通りの走りを見せてくれました。最高に仕上げられていた大井記念の状態を、そのまま保ち続ける調整が続いています。
 引き運動をしているケージーチカラを見かけると、のんびりと心地良さそうに歩いています。レースでも折り合いがつき、鞍上の言うことをよく聞きますが、普段から手の掛からない優等生。そんなのんびり屋さんも、追い切りをし始めるとピリッと気合が乗ってきて、レースを察知。非常に賢いタイプです。
 「調子に波がないので、引き続きいい状態ですよ。2000メートルもまったく心配はいりません。外回りでゆったりいけるのはこの馬向きです。相手が急に強くなりますが、何とか地方馬で1番を目指したいですね。無事に走って、先に繋がる競馬を見せてくれれば・・・」と岡部厩務員。

■ ニューシーストリー 兵庫 尾原強厩舎 牡4歳


躍動感溢れる走り
(写真協力 兵庫県競馬組合)

 ミツアキタービンの回避は非常に残念でしたが、他地区からは兵庫代表としてニューシーストリーがかかんに参戦。やはりこういう交流戦は、他地区からも参戦してくれるからこそ盛り上がります。
 全国的にはまだあまり馴染みのない馬ですが、地元では非常に堅実な走りを繰り広げています。昨年暮れから一度も連は外さず、トータルしても大崩れのないタイプ。しかし、今回は全国レベルの馬たちとの対決、さらにはすべてにおいて初物づくし。そんな大きな試練が立ちふさがりますが、強い相手と戦って、さらには大きな困難を乗り越えて、お馬さんたちは強くなる!!ニューシーストリーのガッツ溢れる走りを期待します。

■ タイムパラドックス JRA 松田博資厩舎 牡7歳
主な勝ち鞍:
ジャパンカップダート、川崎記念、平安S、アンタレスS、ブリーダーズゴールドカップ、白山大賞典


川崎記念の時の洗い場でのワンシーン

 振り返ってみると、松田調教師はこの馬の素質を重賞ウィナーになる前から感じとっていました。弱いところがあり出世は遅れましたが、不安が解消されるとメキメキ頭角を表し、6歳で大輪を咲かせた遅咲きのタイプ。前走の東海Sは、59キロを背負い最後まで伸びながらも、止まらないサカラートの逃げに屈し、3着でした。川崎記念優勝後、フェブラリーS4着、ダイオライト記念2着、かしわ記念2着と惜しいところで優勝は逃していますが、7歳という年齢的な衰えは見られません。
 どんな砂質でもコースでも距離でも展開でも、常に安定した成績を発揮できる百戦錬磨の走り。意外にも、大井コースで勝ち星はありませんが、今回ももちろん中央勢では1番手の存在でしょう。武豊騎手がタイムパラドックスをどのように導くのか・・・非常に楽しみです。

■ ストロングブラッド JRA 増沢末夫厩舎 牡6歳
主な勝ち鞍:
かしわ記念、群馬記念、さくらんぼ記念、カブトヤマ記念


かしわ記念の口取り

 ダートのGⅠ馬という称号を引っさげて、初めて大井コースに乗り込んできます。かしわ記念は、直線内をつく見事な差し切り勝ちでした。増沢調教師は「乗り役さんがコースを熟知しているし、うまく乗ってくれましたね。馬も一番いい状態で出走できたから、ひょっとすると・・・とは思っていたんですが。(チークピーシーズに関して)最近年齢のせいか行きっぷりが悪くなってきたので、根岸S(4着)の時からつけ始めたんです。いい所につけられるようになったし、効果はあると思います」
 その後、さきたま杯に向う予定でしたが、残念ながら直前で回避。前向きに考えれば、かしわ記念の疲れをしっかり取ることができたでしょう。増沢調教師は「2,000メートルは少し長いかなぁ・・・」という話しもしていましたが、その辺りは大井を知り尽くす内田博幸騎手が鞍上というのも、非常に心強い!!

■ ユートピア JRA 橋口弘次郎厩舎 牡5歳
主な勝ち鞍:
南部杯、ダービーグランプリ、ユニコーンS、全日本2歳優駿

 昨年のマイルチャンピオンシップ南部杯から勝ち星が遠ざかっているユートピア。しかし、芝・ダート問わず堅実な走りを見せ続けています。その要因としては、昨年の安田記念から着用しているブリンカー。それまではスムーズな競馬がついて回った馬でしたが、揉まれても逞しく走りぬくタフさが身につきました。今回もハナには拘らないでしょうが、ユートピアの出方次第で、展開がガラッと変わることも大。一度も勝っていない大井コースで、何とか結果を出したいところ。

■ スターキングマン JRA 森秀行厩舎 牡6歳
主な勝ち鞍:
東京大賞典、日本テレビ盃

 休養などをはさみ、今年のマーチS(11着)から戦線復帰。ちょうど3戦目にあたった前走の東海Sは、59キロを背負って2着に敗れはしたものの、久しぶりにスターキングマンらしい走りを見ることができました。「返し馬からいい状態が感じられた」というコンビを組んでいた赤木騎手。2年前の東京大賞典馬。アドマイヤドンなどの王者たちと互角に渡り歩いた砂上での戦い。状態が完全に戻っているとするならば、やはり怖い1頭でしょう。2001年の帝王賞馬マキバスナイパーの手綱をとったケント・デザーモ騎手が、騎乗予定です

■ クーリンガー JRA 岩元市三厩舎 牡6歳
主な勝ち鞍:
マーチS、サラブットチャレンジカップ、名古屋大賞典、佐賀記念

 昨年暮れの東京大賞典は、逃げるアジュディミツオーの3番手につけ、積極的な競馬で3着と大健闘。前走の東海Sは距離の壁もあり、勝ち馬とは2秒3差の5着に敗れました。が、ここ最近の成績を見ると、それ以外は1着と1秒以上離されていません。前に行ける脚もあり、追って渋太い伸びる脚もある。非常にタフなタイプです。2走前のマーチSは、6歳にして中央で重賞初制覇。まだまだ進化を遂げているクーリンガーです。

■ モエレトレジャー 川崎 足立勝久厩舎 牡4歳
主な勝ち鞍:
浦和記念、埼玉新聞杯、戸塚記念、しらさぎ賞

 前走の大井記念は、58キロを背負いながら、2600メートルが堪えたモエレトレジャー。仕上がりは良かったものの、熱発明けということもありましたから、この12着という成績は度外視していいでしょう。これまで大井コースは7回走り、羽田盃の4着が最高着順。これは、常に交流戦などのトップクラスとの対戦で相手が強かったこともあり、決して右回りが不得手という訳ではありません。逃げて結果を出している馬ですが、陣営としては逃げにこだわってはいません。

★★まとめ★★

 1995年の交流元年から昨年まで、10頭の帝王賞馬が誕生しました。ライブリマウント、ホクトベガ、コンサートボーイ、アブクマポーロ、メイセイオペラ、ファストフレンド、マキバスナイパー、カネツフルーヴ、ネームヴァリュー、アドマイヤドン。名前を書いているだけでも、ズシーッと重みを感じさせるメンバーばかり。アドマイヤドンのような絶対王者不在の今年、混沌とした戦いが繰り広げられようとしています。
 実は、帝王賞はわたしが好きなレースの一つ。この仕事をして最初に見た帝王賞馬はメイセイオペラでした。知っている人も多いと思いますが、オペラはわたしが大好きな馬。カクテル光線にピカピカと照らされたオペラが、後続たちをどんどん突き放していく・・・これでもかぁ!と言わんばかりの力強さ。その強さに感動して、ボロボロ涙がこぼれ落ちました。この時期になると必ず思い出す、わたしのアルバムの一ページです。今年はどの馬が、どんな想いを抱かせてくれるのでしょうか?
 ちなみに・・・ここ数年の勝ち馬所属は、地方&中央が仲良く順番にきています。その法則から言えば今年は・・・地方なんです(笑顔)!!

高橋華代子
東京シティ競馬中継レポーター
厩舎関係者にファンも多い。