TCKコラム

TCK Column vol.39

偉業 ジョージモナーク(全5話)

生命力の分かれ目編

交流競走がなかった時代に大井から中央出走8回を成し遂げ、
重賞勝利と2度のコースレコードという偉業を打ち立てた芦毛の英雄がいた。
ミルジョージ産駒というイメージからダート馬と思われるかもしれない。
しかし、公営での重賞制覇は関東盃のみ。
一転、芝ではオールカマー優勝、ジャパンカップに2度も出走。
オグリキャップと並ぶコースレコードタイ、
新潟1,800mではコースレコードを樹立。
その芦毛の英雄の才能を見出した調教師がいる。
自身がジョッキー時代の経験が己の筋肉に刻み込まれる。
ジョッキー時代に成し遂げることができなかった夢を追い求める。
その夢を具現化する才能を持つジョッキーがいる。
複雑骨折という絶望の最果てから復帰する芦毛が、
成し遂げた偉業の物語。

秘めた夢

入厩したばかりのジョージモナークはとにかくおとなしい馬だった。
「馬場に入ってもカラスやハトを見たら、戻ってきてしまうほど臆病であり、怖がりで優しい馬だった」
 デビューは入厩した年の2歳11月。デビューレースは2着であったが、その後年内に2連勝する。
2歳で3戦2勝、2着1回ならばだれでもがクラシックへの期待をする。
「当然、どの馬も入厩すればクラシックを取る夢はみるもの」
 年明け3歳になり、4戦目となる準重賞ゴールデンステッキ賞では、デビューから同じくこれまでどおりの1番人気に推されるも、3着であった。ところが、その後の調教中に重大な故障を発生してしまった。
「その日、調教が終わって厩舎に戻ってきたときには、脚を引きずるようなことはなかったが、少し歩き方がおかしいと思ったので、すぐにレントゲン撮影をしたら、骨折が判明した」

その昭和61年に開催された第32回オールカマーでは、初の地方馬招待が行われた。赤間は5歳のカウンテスアップを出走させていた。
 公営勢は大井から、南関東黄金時代を支えたカウンテスアップをはじめ、公営馬初の3億円を突破したテツノカチドキ、後に中央で厩舎を開業したばかりの藤澤和雄調教師が自厩舎へ移籍させたガルダン、名古屋からは7連勝中のジュサブロー、笠松からはテイオーカン、荒尾からはカンテツオーと名の知れた強豪がそろった。一方、中央からは6頭が出走したが、有力馬は見当たらなかった。

カウンテスアップの父フェートメーカーは、赤間調教師が騎手時代に6戦騎乗して6勝した思い出の馬でもある。
カウンテスアップの鞍上は的場文男騎手であった。
 的場文男騎手はこのオールカマーの出走が、初めての中央騎乗、初めての芝レースででもある。

 3番人気に推されたカウンテスアップであったが、7着に終わった。優勝は名古屋のジュサブローである。
 赤間はレースを回顧する。
「芝の適正はもうひとつ。カウンテスアップは530kgある大型馬。それなのに爪が非常に小さかった。レース前、追い切りで中山に行った際に、ゲート試験では、力はあっても爪がとても小さいだけに、芝に穴を空けてしまったほど。当日は雨が降って、コースが悪くなり重くなってしまった。そうなればなおさらであった」
 爪の小さいカウンテスアップは、重馬場が不利であった。たしかに芝の適正はもうひとつだったかもしれないが、当日のコース状況を考えると、良馬場ならそれなりの結果を出していた実力馬にかわりはない。
 赤間は騎手時代からも含め、秘めたる夢を持って果敢に芝へ挑戦し続けていた男である。それは翌昭和62年に入厩するジョージモナークへとつながるのである。

絶望の世界

入厩したばかりのジョージモナークはとにかくおとなしい馬だった。
「馬場に入ってもカラスやハトを見たら、戻ってきてしまうほど臆病であり、怖がりで優しい馬だった」
 デビューは入厩した年の2歳11月。デビューレースは2着であったが、その後年内に2連勝する。
2歳で3戦2勝、2着1回ならばだれでもがクラシックへの期待をする。
「当然、どの馬も入厩すればクラシックを取る夢はみるもの」
 年明け3歳になり、4戦目となる準重賞ゴールデンステッキ賞では、デビューから同じくこれまでどおりの1番人気に推されるも、3着であった。ところが、その後の調教中に重大な故障を発生してしまった。
「その日、調教が終わって厩舎に戻ってきたときには、脚を引きずるようなことはなかったが、少し歩き方がおかしいと思ったので、すぐにレントゲン撮影をしたら、骨折が判明した」

左脚が3つに割れる複雑骨折であった。さらに左ヒザ脱臼までも重なっていたのである。クラシックを目の前にしての重傷である。「獣医からは絶対にダメだ(予後不良)と言われた。その場にオーナーと幼い娘さんが来ていて、娘さんがオーナーに『治してあげて』とやさしく声をかけた。娘さんも馬が好きで、英語を勉強して外国の血統も調べることもできたほど。そしたらオーナーが知り合いに預け治療をすることに決まった」
 馬が骨折するとすぐ予後不良と思ってしまうかもしれないが、程度により回復の見込みはあるものだ。骨がバラバラになっていたのでは、回復の見込みはないが、骨の形が残っていれば、完治できることもある。

 ある程度回復するまでは、大井の厩舎で治療することにした。故障発生から10日ほどしたとき、それまで立ち続けていたジョージモナークが初めて横になったのである。
「馬は自力で起きられるという生命力がない限り、絶対に横にならないからね。故障発生からずっとそばについて見ていて横になったとき、ここで起きられるか、起きられないかが、生命力の分かれ目だと思った。その場から離れずずっとそばにいたよ。2時間近く横になったあと、自力で起き上がってくれた。それはもう万々歳だった。自力で起き上がってくれたことで完治する確信が持てたからね」

 自力で寝起きができるようになり、ジョージモナークは完治するためにオーナーの知り合いのところで預かることとなった。
 赤間は、そこへ厩務員を1人、付き添わせることにした。
「馬の骨折など故障に詳しい厩務員がいたので付き添ってもらうことに。厩務員は、毎日ジョージモナークの左脚を湯洗いして、マッサージを施した。馬の生命力はそのような知識があり、ベテランの厩務員がいるかいないかで決まるものだ」
 その後、奇跡的な回復を見せ、育成牧場を経て、見事1年ぶりに、大井のダートへ戻ってくるのである。まさに絶望の世界からの生還である。
そして、4歳春にして戦列復帰を果たすのだ。獣医が見放したにもかかわらず、オーナーの幼い娘さんの一言が、すべてを動かしたのである。当然、赤間を始め、付き添った厩務員や関係者の努力も偉大である。

(赤間の経験と左回り編へ続く)

ジョージモナーク 血統表

牡 芦毛 1985年5月14日生まれ 北海道門別・古川牧場生産
ミルジョージ(USA)Mill Reef(USA)
Miss Charisma(USA)
レッドシグナル(FR)Roan Rocket(GB)
Red Poppy(FR)

ジョージモナーク 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
S62.10 .21 大井 能力試験 800 的場文男 50.6
11.10 大井 2歳新馬 1000 的場文男 53 (1) 2 1:02.9
12.08 大井 2歳 1400 的場文男 53 (1) 1 1:31.3
12.20 大井 2歳 1500 的場文男 55 (1) 1 1:37.4
S63.1.7 大井 ゴールデンステッキ賞 1700 的場文男 54 (1) 3 1:51.5
12.30 大井 能力試験 1200 的場文男 1:19.8
H1.2.6 大井 C4 1400 的場文男 55 (1) 1 1:29.1
3.2 大井 蔵前特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:53.0
3.30 大井 爽春特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:48.5
5.10 大井 目黒区特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:49.4
6.6 大井 オリオン座特別 1800 的場文男 55 (1) 1 1:55.2
7.2 大井 サンデーナイト賞 1800 的場文男 55 (1) 1 1:57.3
8.2 大井 関東盃 1600 的場文男 51 (1) 6 1:44.5
10.16 大井 おおとり賞 2000 堀千亜樹 50 (3) 5 2:10.1
11.1 大井 東京記念 2400 石崎隆之 51 (4) 4 2:39.0
11.24 大井 ロイヤルカップ 1600 石崎隆之 56 (1) 4 1:42.9
12.29 大井 東京大賞典 2800 石崎隆之 56 (7) 7 3:07.8
H2.2.5 大井 ウインターカップ 1800 田部和廣 56 (1) 3 1:54.1
5.21 大井 隅田川賞 1800 田部和廣 51 (3) 2 1:53.6
6.3 大井 ブリリアントカップ 1800 的場文男 56.5 (1) 1 1:56.5
6.27 大井 大井記念 2500 的場文男 53.5 (2) 4 2:44.0
8.1 大井 関東盃 1600 的場文男 53.5 (8) 4 1:42.0
9.16 中山 オールカマー 2200 的場文男 56 (1) 2 2:13.4
11.11 東京 富士ステークス 1800 的場文男 57 (15) 4 1:48.2
11.25 東京 ジャパンカップ 2400 的場文男 57 (7) 15 2:25.9
12.13 大井 東京大賞典 2800 田部和廣 56 (6) 9 3:05.7
H3.2.26 大井 金盃 2000 早田秀治 56.5 (8) 6 2:07.5
4.3 大井 帝王賞 2000 早田秀治 55 (2) 2 2:05.4
5.15 大井 隅田川賞 1800 早田秀治 56 (6) 7 1:52.9
6.20 大井 大井記念 2500 早田秀治 57 (3) 4 2:40.9
7.29 大井 関東盃 1600 早田秀治 57 (6) 1 1:39.6
9.15 中山 オールカマー 2200 早田秀治 56 (2) 1 2:12.4
11.10 東京 富士ステークス 1800 早田秀治 57 (1) 3 1:47.8
11.24 東京 ジャパンカップ 2400 早田秀治 57 (14) 15 2:27.8
H4.1.9 大井 東京シティ盃 1400 早田秀治 58 (1) 7 1:26.5
2.11 川崎 川崎記念 2000 佐々木竹見 57 (2) 5 2:10.9
3.4 大井 金盃 2000 佐々木竹見 57.5 (4) 9 2:06.4
4.15 大井 帝王賞 2000 早田秀治 55 (8) 14 2:10.3
6.18 大井 大井記念 2500 早田秀治 57 (6) 7 2:44.4
7.26 新潟 BSN杯 1800 早田秀治 56 (3) 2 1:46.2
9.20 中山 オールカマー 2200 早田秀治 56 (6) 5 2:12.8

第37回オールカマー競走成績

枠番 馬番 馬名 年齢 斤量 騎手 馬体重 タイム 着差
5 7 ジョージモナーク 牡6 56 早田秀治 490 2:12.4
1 1 ホワイトストーン 牡4 57 田面木博公 450 2:12.5 1/2
6 9 モガミチャンピオン 牡6 56 小島 太 486 2:12.6 1/2
6 10 ハシノケンシロウ 牡4 57 大塚栄三郎 420 2:12.8 1・1/2
2 2 スイフトセイダイ 牡5 56 田中勝春 542 2:12.9 クビ
4 6 ユキノサンライズ 牝4 55 増沢末夫 474 2:13.0 1/2
3 3 キョウエイタップ 牝4 55 坂井千明 468 2:13.2 1・1/4
8 13 セントビット 牡5 56 的場 均 440 2:13.6 2・1/2
7 12 クラシックダンサー 牝4 55 岡部幸雄 474 2:13.8 1・1/4
3 4 メイブラスト 牡6 56 竹原啓二 488 2:13.8 ハナ
8 14 タキノニシキ 牡5 56 井上俊彦 466 2:14.5 4
7 11 チャンピオンスター 牡7 56 高橋三郎 512 2:16.1 10
5 8 タケデンマンゲツ 牡5 56 中野栄治 482 2:18.5 大差
4 5 ベルクラウン 牡6 56 中舘英二 442 2:18.6 クビ

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。