TCKコラム

TCK Column vol.35

記録、記憶、そして運命 コンサートボーイ(全5話)

船橋遠征編

勝つ味を覚えれば、この馬は必ずやそのパワーを不動のものにする。
名伯楽が考えた勝つための秘策とは……。
そして、夏場に弱い体質のために試みたある秘策とは……。
ドバイの砂上で逝ったホクトベガが国内最後のレースに臨んだ川崎記念。
ホクトベガの強さばかりがクローズアップされるなか、公営馬最先着を果たし大器晩成の片鱗を見せつけた。
その豪脚は、1人のジョッキーを虜にする。
大井の長い直線ならば必ずやきっと……。

勝ちグセとドライブ

 「クラシック3冠すべてが2着に終わった時、父も何で勝てないのかと悩んでいた。
コンサートボーイの祖父にあたるアリダーもアメリカ3冠をすべ2着だったから、その血までも受け継いでしまったのかと父と話していた。だが、アリダーは古馬になって大成した。ならば……」

 名血アリダーは、通算26戦14勝、GIは6勝もした名馬だが、アメリカ3冠レースはすべて2着。しかし、種牡馬ではケンタッキーダービー、ブリーダーズカップクラシックを勝ったアリシーバーなど数々の名馬を輩出している。
その仔でありコンサートボーイの父カコイーシーズは、イギリス、フランス、アメリカ、日本で走り14戦4勝。GIは優勝1回、2着2回、3着2回。そのうちの3着1回は、1990年のジャパンカップ出走時の成績だ。中長距離を得意とし、スピード、スタミナがあり、ダートもよく走る。

 東京王冠賞の後、どうしても勝ちきれないレースが続いていた。年が明けて4歳の1月までに、平成6年12月6日の川崎で行われたローレル賞以降、9戦連続勝ち星がない状態が続く。この間、2着5回、3着1回、4着2回、8着1回。
8着1回は3歳時の東京大賞典での成績であり、このころは指定交流のGI級の古馬との間にはまだ力の差があったのだろう。だが、これで終わる逸材ではない。

 「そこで何とかひとつ勝ちグセをつけてやりたいと父が、メンバーの薄いレースを狙って、G3の報知グランプリカップ出走のため船橋遠征を決めた。周りはすべてオープン馬だから、メンバーが薄いというのは語弊があるかもしれないが、今までのG1級と対戦することはないからね」

 鞍上を石崎隆之騎手に替えたコンサートボーイは、栗田繁調教師の目論見どおり快勝する。しかも続いてG2の金盃、GIのマイルグランプリと3連勝する。G1馬の称号をも手に入れ、栗田繁調教師の策が功を奏した瞬間でもある。マイルグランプリでは、宿敵のヒカリルーファスが4着、ジョージタイセイが5着と負かすことができた。

 ところがマイルグランプリの次戦となる2ヵ月後の帝王賞では、14着と惨敗。
「強いときは強いのが特徴。自分の力が8割出せれば必ず勝つ。ところが夏場に弱く、あまりレースを使えなかった。熱発もして、調整にものすごく苦労した。夏場に弱いから汗をかかなくなり、どんなに攻め馬をしても体を絞れなくなってしまう」
気温が上がるとすぐバテてしまう。やむを得ずレースを使わないと体重がすぐに増える。増えるとなかなか絞れないという悪循環。
「父とどうやって馬体を絞るか常に考えていた。そこで、大井でレースをするにもかかわらず、レースの1週間前から10日前になると、船橋や川崎に運んでそこで追いりをかけ、また、ただ川崎までドライブして、大井へ戻ってきて大井で攻め馬をすることで、輸送減りを狙ったこともあった。このクラスの馬になれば、度胸もあるし、落ち着いているし、馬運車に乗せても多少のことではびくともしない。だから馬体重が大幅に減ったということはなかったが、人間でもただ座っているだけのドライブでも、少しは疲れるもの。だから効果がまったくなかったわけではない」

レース前ではその調整の苦労が絶えることはなかった。

大器晩成の片鱗

 帝王賞の惨敗後、なかなか勝てないレースがまたも続くことになった。それでもこの年の暮れの東京大賞典では、中央馬キョウトシチーから1馬身差の2着、年明け5歳の2月5日、川崎記念では、前年ダート界を席巻したホクトベガの3着であった。この交流競走2戦で、中央馬2頭に次ぐ公営馬最先着を果たす。

 また、川崎記念の鞍上は的場文男騎手に乗り替わった。報知グランプリカップから手綱を取ってきた石崎隆之騎手は、お手馬が重なり的場騎手に声がかかったのである。当時、的場騎手は1985年から12年連続して大井競馬のリーディングジョッキーを独走しており、勝ち鞍も通算2500勝に迫る勢いを見せていた。大井だけでなく、公営競馬を代する騎手として君臨していた。
「メンバーがメンバーだけに、たとえ3着でもこの馬はよく走ると思った」このレースでは、直線でものすごい脚を使っている。川崎の200mちょっとの直線で、7馬身から8馬身後方から、2着のキョウトシチーをあわや差しきるところまで追い詰めたその豪脚。その脚を見ただれもが感嘆するものだった。
「これが大井の直線(386m)だったら間違いなく交わしているだろうね。それより3馬身前にいたホクトベガには馬体を並べるところまでいったのでは」

祖父アリダーのように、大器晩成の片鱗を見せた豪脚だった。

 騎手ならだれでも強い馬に乗りたいと思う。ましてやコンサートボーイのような馬なら格別だろう。的場騎手も同様であった。

 だが、次戦の金盃では石崎隆之騎手に戻り、1ヵ月後のマイルグランプリからは、内田博幸騎手が主戦騎手となった。的場騎手は、自厩舎の馬に騎乗するなどで乗れる機会がなかったのだ。

 そのマイルグランプリでコンサートボーイは、連覇を果たすこととなる。実に昨年の同レース以来、1年ぶりの勝ち星であった。内田博幸騎手は乗り変わり直後に結果を出す大役を果たしたのだ。

 次戦のかしわ記念では、中央馬のバトルラインに6馬身差の3着と離されてしまった。
(3番枠の夢編へ続く)

コンサートボーイ 血統表

牡 鹿毛 1992年4月29日生まれ 北海道門別町・船越三弘生産
*カコイーシーズAlydar
Careless Notion
コンサートダイナ*ハンターコム
*コンサーテイスト

コンサートボーイ 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
H6.7.19 旭川 2歳新馬 900 堂山直樹 52 (2) 1 55.7
8.18 旭川 2歳 1000 堂山直樹 52 (1) 6 1:01.8
9.8 旭川 2歳 1000 井上俊彦 53 (1) 1 1:02.5
9.29 札幌 2歳 1100 佐々木一夫 55 (1) 1 1:06.5
10.12 札幌 ジュニアカップ 1700 佐々木一夫 54 (3) 4 1:47.5
11.10 帯広 北海道2歳優駿 1800 國信滿 54 (2) 2 2:00.3
11.23 川崎 能力試験 800 山崎尋美 53.0
12.6 川崎 ローレル賞 1600 山崎尋美 54 (2) 1 1:44.9
12.29 川崎 全日本2歳優駿 1600 山崎尋美 54 (2) 4 1:43.1
H7.2.9 大井 京浜盃 1700 山崎尋美 55 (6) 2 1:49.2
4.12 大井 黒潮盃 1800 山崎尋美 56 (4) 2 1:54.2
5.4 大井 羽田盃 2000 山崎尋美 56 (3) 2 2:06.4
6.8 大井 東京ダービー 2400 山崎尋美 56 (2) 2 2:35.4
9.27 大井 東京盃 1200 山崎尋美 53 (7) 3 1:12.5
11.9 大井 東京王冠賞 2600 高橋三郎 57 (1) 2 2:51.3
12.21 大井 東京大賞典 2800 高橋三郎 54 (7) 8 3:03.2
H8.1.18 大井 東京シティ盃 1400 山崎尋美 58 (2) 4 1:26.8
2.21 船橋 報知グランプリカップ 1800 石崎隆之 57 (2) 1 1:51.3
3.5 大井 金盃 2000 石崎隆之 56 (1) 1 2:06.3
4.11 大井 マイルグランプリ 1600 石崎隆之 57 (2) 1 1:39.0
6.19 大井 帝王賞 2000 佐藤隆 56 (5) 14 2:07.1
8.26 大井 アフター5スター賞 1800 石崎隆之 57.5 (2) 3 1:53.6
9.26 大井 東京盃 1200 石崎隆之 57 (2) 8 1:13.3
10.30 大井 グランドチャンピオン2000 2000 石崎隆之 57 (1) 3 2:05.5
11.18 大井 東京記念 2400 石崎隆之 58 (1) 2 2:35.5
12.29 大井 東京大賞典 2800 石崎隆之 56 (4) 2 3:01.4
H9.2.5 川崎 川崎記念 2000 的場文男 56 (4) 3 2:07.3
2.27 大井 金盃 2000 石崎隆之 58.5 (1) 3 2:06.9
4.9 大井 マイルグランプリ 1600 内田博幸 57 (2) 1 1:39.2
5.28 船橋 かしわ記念 1600 内田博幸 58 (2) 3 1:39.1
6.24 大井 帝王賞 2000 的場文男 57 (4) 1 2:04.9
9.24 船橋 NTV盃 2000 内田博幸 57 (1) 7 2:09.1
10.29 大井 グランドチャンピオン2000 2000 内田博幸 57 (2) 2 2:05.7
12.9 大井 かちどき賞 1800 内田博幸 59 (1) 1 1:54.1
H10.10.2 大井 能力試験 1500 的場文男 1:35.3
10.28 大井 グランドチャンピオン2000 2000 的場文男 56 (3) 3 2:06.2
11.12 大井 東京記念 2400 的場文男 59 (2) 1 2:35.1
12.23 大井 東京大賞典 2000 的場文男 56 (5) 3 2:06.0
H11.10.13 大井 能力試験 1500 内田博幸 1:38.9
10.28 大井 グランドチャンピオン2000 2000 早田秀治 56 (5) 6 2:08.7
11.30 大井 東京記念 2400 早田秀治 58 (3) 9 2:38.7
H12.1.10 大井 東京シティ盃 1400 的場文男 58 (6) 8 1:27.3

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。