TCKコラム

TCK Column vol.38

記録、記憶、そして運命 コンサートボーイ(全5話)

最高傑作編

待ち望んだ頂点を極めた。
さらに、公営競馬歴代収得賞金1位にも輝く。
しかし、その名馬を襲う故障。
速い馬と故障は紙一重だ。
放牧を繰り返すものの、ついにその時が訪れる。
重い決断をしたその言葉。
「並んで抜かせないものすごく強い勝負根性を持っていた」と絶賛するジョッキー。
「最高傑作」というこれ以上にない賛辞の言葉を残し、後を追うようにダートを去った名伯楽。
記録にも、記憶にも残り、大井の名馬となる。

語り継がれる大井の名馬

 帝王賞後、3ヵ月の休養を挟んで、9月のNTV盃(船橋)では、鞍上が再び内田博幸騎手に戻り7着。次戦の10月29日、大井で行われたグランドチャンピオン2000ではアブクマポーロに敗れ2着となるものの、総収得賞金を4億2575万円として、公営競馬歴代賞金1位となった。ここまで32戦9勝である。そして、12月9日のかちどき賞を勝ってから、予定していた東京大賞典をまじかに控えた12月19日、脚部不安が発生。場所は左前脚の球節であった。
北海道で休養することとなった。完治するまでに10ヵ月を費やした。

 平成10年10月2日、長期休養後の調教試験では、キャニオンロマンとレースさながらのマッチレースをひろげ、関係者をほっとさせた。
復帰第1戦は10月28日、グランドチャンピオン2000。鞍上には的場騎手が三度戻り、アブクマポーロとの対決で注目されたが、そのアブクマポーロの3着となる。
次の東京記念では、長期休養明け2戦目でありながらも、トップハンデの59kg。対して断トツの1番人気である2冠馬サプライズパワーは57.5kg、そして鞍上は石崎隆之騎手。決して楽なレースではなかった。

 直線では、この2頭による争いが展開され、ゴール前のコンサートボーイは執念のような走りを見せ、半馬身差の勝利を手にした。ゴール後、的場騎手は小さいがしっかりとしたガッツポーズを見せている。これが最後の勝利になるとはまだだれも想像する余地はなかった。

 1ヵ月の後の東京大賞典ではアブクマポーロが優勝し、コンサートボーイは3着であった。ここで、再び脚部不安から、前回と同じく10ヵ月休養に入る。復帰後3戦したところで、栗田泰昌をはじめ陣営は決断をする。
「これだけの成績を挙げてくれた馬。父と相談して引退を決めた。出走すれば、過去の実績から人気になるのは分かっていたし、ファンの期待にこたえるのが難しくなっていた」

 まさしく、祖父アリダーと同様に大器晩成型だった。馬体重も徐々に増えていき、比例するかのようにパワーも付け、帝王賞という最高の舞台で、強豪を相手に最強の競馬で勝利した。そして、種牡馬にもなれることが決まった。
栗田厩舎という名門に来たのも運命、帝王賞で的場騎手が騎乗することとなったのも運命、そしてその運命がもたらした勝利と名誉。記録に残る馬は数多くいるが、記憶に残る馬はほんのわずか。コンサートボーイは、この両方を持ち合わせ後世に語り継がれるだけの競馬をしてきた。

 大井競馬歴代1位の総取得賞金5億645万円を手に入れ、実に6年半もの競走生活を2000年1月31日、大井で行われた引退式で幕を下ろした。引退式には、優勝した1997年の帝王賞のゼッケンを着けて登場。中央馬と違って、公営馬が引退式を行うのはそれほどあるものではない。引退式の翌日には、種牡馬として繋養先の北海道門別町・トヨサトスタリオンセンターへと旅立った。

トヨサトスタリオンセンターでは、父のカコイーシーズも隣の馬房で繋養されている。

 コンサートボーイは大井の名馬と言う的場騎手。
「調教では気性が難しくて乗りづらかったけど、レースでは引っかかることもなく乗りやすかった。反応も的確ですばらしかった。並んで抜かせないものすごく強い勝負根性を持っていた」

 栗田泰昌は父である栗田繁調教師の言葉を回想する。
「これだけの馬はもう持てないだろう。最高傑作だろう」

 そして、名伯楽・栗田繁調教師はコンサートボーイの引退を見届けるかのように、
その2ヵ月後に引退をした。

コンサートボーイ 血統表

牡 鹿毛 1992年4月29日生まれ 北海道門別町・船越三弘生産
*カコイーシーズAlydar
Careless Notion
コンサートダイナ*ハンターコム
*コンサーテイスト

コンサートボーイ 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
H6.7.19 旭川 2歳新馬 900 堂山直樹 52 (2) 1 55.7
8.18 旭川 2歳 1000 堂山直樹 52 (1) 6 1:01.8
9.8 旭川 2歳 1000 井上俊彦 53 (1) 1 1:02.5
9.29 札幌 2歳 1100 佐々木一夫 55 (1) 1 1:06.5
10.12 札幌 ジュニアカップ 1700 佐々木一夫 54 (3) 4 1:47.5
11.10 帯広 北海道2歳優駿 1800 國信滿 54 (2) 2 2:00.3
11.23 川崎 能力試験 800 山崎尋美 53.0
12.6 川崎 ローレル賞 1600 山崎尋美 54 (2) 1 1:44.9
12.29 川崎 全日本2歳優駿 1600 山崎尋美 54 (2) 4 1:43.1
H7.2.9 大井 京浜盃 1700 山崎尋美 55 (6) 2 1:49.2
4.12 大井 黒潮盃 1800 山崎尋美 56 (4) 2 1:54.2
5.4 大井 羽田盃 2000 山崎尋美 56 (3) 2 2:06.4
6.8 大井 東京ダービー 2400 山崎尋美 56 (2) 2 2:35.4
9.27 大井 東京盃 1200 山崎尋美 53 (7) 3 1:12.5
11.9 大井 東京王冠賞 2600 高橋三郎 57 (1) 2 2:51.3
12.21 大井 東京大賞典 2800 高橋三郎 54 (7) 8 3:03.2
H8.1.18 大井 東京シティ盃 1400 山崎尋美 58 (2) 4 1:26.8
2.21 船橋 報知グランプリカップ 1800 石崎隆之 57 (2) 1 1:51.3
3.5 大井 金盃 2000 石崎隆之 56 (1) 1 2:06.3
4.11 大井 マイルグランプリ 1600 石崎隆之 57 (2) 1 1:39.0
6.19 大井 帝王賞 2000 佐藤隆 56 (5) 14 2:07.1
8.26 大井 アフター5スター賞 1800 石崎隆之 57.5 (2) 3 1:53.6
9.26 大井 東京盃 1200 石崎隆之 57 (2) 8 1:13.3
10.30 大井 グランドチャンピオン2000 2000 石崎隆之 57 (1) 3 2:05.5
11.18 大井 東京記念 2400 石崎隆之 58 (1) 2 2:35.5
12.29 大井 東京大賞典 2800 石崎隆之 56 (4) 2 3:01.4
H9.2.5 川崎 川崎記念 2000 的場文男 56 (4) 3 2:07.3
2.27 大井 金盃 2000 石崎隆之 58.5 (1) 3 2:06.9
4.9 大井 マイルグランプリ 1600 内田博幸 57 (2) 1 1:39.2
5.28 船橋 かしわ記念 1600 内田博幸 58 (2) 3 1:39.1
6.24 大井 帝王賞 2000 的場文男 57 (4) 1 2:04.9
9.24 船橋 NTV盃 2000 内田博幸 57 (1) 7 2:09.1
10.29 大井 グランドチャンピオン2000 2000 内田博幸 57 (2) 2 2:05.7
12.9 大井 かちどき賞 1800 内田博幸 59 (1) 1 1:54.1
H10.10.2 大井 能力試験 1500 的場文男 1:35.3
10.28 大井 グランドチャンピオン2000 2000 的場文男 56 (3) 3 2:06.2
11.12 大井 東京記念 2400 的場文男 59 (2) 1 2:35.1
12.23 大井 東京大賞典 2000 的場文男 56 (5) 3 2:06.0
H11.10.13 大井 能力試験 1500 内田博幸 1:38.9
10.28 大井 グランドチャンピオン2000 2000 早田秀治 56 (5) 6 2:08.7
11.30 大井 東京記念 2400 早田秀治 58 (3) 9 2:38.7
H12.1.10 大井 東京シティ盃 1400 的場文男 58 (6) 8 1:27.3

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。