記録、記憶、そして運命 コンサートボーイ(全5話)
最高傑作編
待ち望んだ頂点を極めた。
さらに、公営競馬歴代収得賞金1位にも輝く。
しかし、その名馬を襲う故障。
速い馬と故障は紙一重だ。
放牧を繰り返すものの、ついにその時が訪れる。
重い決断をしたその言葉。
「並んで抜かせないものすごく強い勝負根性を持っていた」と絶賛するジョッキー。
「最高傑作」というこれ以上にない賛辞の言葉を残し、後を追うようにダートを去った名伯楽。
記録にも、記憶にも残り、大井の名馬となる。
語り継がれる大井の名馬
帝王賞後、3ヵ月の休養を挟んで、9月のNTV盃(船橋)では、鞍上が再び内田博幸騎手に戻り7着。次戦の10月29日、大井で行われたグランドチャンピオン2000ではアブクマポーロに敗れ2着となるものの、総収得賞金を4億2575万円として、公営競馬歴代賞金1位となった。ここまで32戦9勝である。そして、12月9日のかちどき賞を勝ってから、予定していた東京大賞典をまじかに控えた12月19日、脚部不安が発生。場所は左前脚の球節であった。
北海道で休養することとなった。完治するまでに10ヵ月を費やした。
平成10年10月2日、長期休養後の調教試験では、キャニオンロマンとレースさながらのマッチレースをひろげ、関係者をほっとさせた。
復帰第1戦は10月28日、グランドチャンピオン2000。鞍上には的場騎手が三度戻り、アブクマポーロとの対決で注目されたが、そのアブクマポーロの3着となる。
次の東京記念では、長期休養明け2戦目でありながらも、トップハンデの59kg。対して断トツの1番人気である2冠馬サプライズパワーは57.5kg、そして鞍上は石崎隆之騎手。決して楽なレースではなかった。
直線では、この2頭による争いが展開され、ゴール前のコンサートボーイは執念のような走りを見せ、半馬身差の勝利を手にした。ゴール後、的場騎手は小さいがしっかりとしたガッツポーズを見せている。これが最後の勝利になるとはまだだれも想像する余地はなかった。
1ヵ月の後の東京大賞典ではアブクマポーロが優勝し、コンサートボーイは3着であった。ここで、再び脚部不安から、前回と同じく10ヵ月休養に入る。復帰後3戦したところで、栗田泰昌をはじめ陣営は決断をする。
「これだけの成績を挙げてくれた馬。父と相談して引退を決めた。出走すれば、過去の実績から人気になるのは分かっていたし、ファンの期待にこたえるのが難しくなっていた」
まさしく、祖父アリダーと同様に大器晩成型だった。馬体重も徐々に増えていき、比例するかのようにパワーも付け、帝王賞という最高の舞台で、強豪を相手に最強の競馬で勝利した。そして、種牡馬にもなれることが決まった。
栗田厩舎という名門に来たのも運命、帝王賞で的場騎手が騎乗することとなったのも運命、そしてその運命がもたらした勝利と名誉。記録に残る馬は数多くいるが、記憶に残る馬はほんのわずか。コンサートボーイは、この両方を持ち合わせ後世に語り継がれるだけの競馬をしてきた。
大井競馬歴代1位の総取得賞金5億645万円を手に入れ、実に6年半もの競走生活を2000年1月31日、大井で行われた引退式で幕を下ろした。引退式には、優勝した1997年の帝王賞のゼッケンを着けて登場。中央馬と違って、公営馬が引退式を行うのはそれほどあるものではない。引退式の翌日には、種牡馬として繋養先の北海道門別町・トヨサトスタリオンセンターへと旅立った。
トヨサトスタリオンセンターでは、父のカコイーシーズも隣の馬房で繋養されている。
コンサートボーイは大井の名馬と言う的場騎手。
「調教では気性が難しくて乗りづらかったけど、レースでは引っかかることもなく乗りやすかった。反応も的確ですばらしかった。並んで抜かせないものすごく強い勝負根性を持っていた」
栗田泰昌は父である栗田繁調教師の言葉を回想する。
「これだけの馬はもう持てないだろう。最高傑作だろう」
そして、名伯楽・栗田繁調教師はコンサートボーイの引退を見届けるかのように、
その2ヵ月後に引退をした。
コンサートボーイ 血統表
牡 鹿毛 1992年4月29日生まれ 北海道門別町・船越三弘生産 | |
---|---|
*カコイーシーズ | Alydar |
Careless Notion | |
コンサートダイナ | *ハンターコム |
*コンサーテイスト |
コンサートボーイ 競走成績
年月日 | 競馬場 | レース名 | 距離(m) | 騎手 | 重量(kg) | 人気 | 着順 | タイム |
H6.7.19 | 旭川 | 2歳新馬 | 900 | 堂山直樹 | 52 | (2) | 1 | 55.7 |
8.18 | 旭川 | 2歳 | 1000 | 堂山直樹 | 52 | (1) | 6 | 1:01.8 |
9.8 | 旭川 | 2歳 | 1000 | 井上俊彦 | 53 | (1) | 1 | 1:02.5 |
9.29 | 札幌 | 2歳 | 1100 | 佐々木一夫 | 55 | (1) | 1 | 1:06.5 |
10.12 | 札幌 | ジュニアカップ | 1700 | 佐々木一夫 | 54 | (3) | 4 | 1:47.5 |
11.10 | 帯広 | 北海道2歳優駿 | 1800 | 國信滿 | 54 | (2) | 2 | 2:00.3 |
11.23 | 川崎 | 能力試験 | 800 | 山崎尋美 | 53.0 | |||
12.6 | 川崎 | ローレル賞 | 1600 | 山崎尋美 | 54 | (2) | 1 | 1:44.9 |
12.29 | 川崎 | 全日本2歳優駿 | 1600 | 山崎尋美 | 54 | (2) | 4 | 1:43.1 |
H7.2.9 | 大井 | 京浜盃 | 1700 | 山崎尋美 | 55 | (6) | 2 | 1:49.2 |
4.12 | 大井 | 黒潮盃 | 1800 | 山崎尋美 | 56 | (4) | 2 | 1:54.2 |
5.4 | 大井 | 羽田盃 | 2000 | 山崎尋美 | 56 | (3) | 2 | 2:06.4 |
6.8 | 大井 | 東京ダービー | 2400 | 山崎尋美 | 56 | (2) | 2 | 2:35.4 |
9.27 | 大井 | 東京盃 | 1200 | 山崎尋美 | 53 | (7) | 3 | 1:12.5 |
11.9 | 大井 | 東京王冠賞 | 2600 | 高橋三郎 | 57 | (1) | 2 | 2:51.3 |
12.21 | 大井 | 東京大賞典 | 2800 | 高橋三郎 | 54 | (7) | 8 | 3:03.2 |
H8.1.18 | 大井 | 東京シティ盃 | 1400 | 山崎尋美 | 58 | (2) | 4 | 1:26.8 |
2.21 | 船橋 | 報知グランプリカップ | 1800 | 石崎隆之 | 57 | (2) | 1 | 1:51.3 |
3.5 | 大井 | 金盃 | 2000 | 石崎隆之 | 56 | (1) | 1 | 2:06.3 |
4.11 | 大井 | マイルグランプリ | 1600 | 石崎隆之 | 57 | (2) | 1 | 1:39.0 |
6.19 | 大井 | 帝王賞 | 2000 | 佐藤隆 | 56 | (5) | 14 | 2:07.1 |
8.26 | 大井 | アフター5スター賞 | 1800 | 石崎隆之 | 57.5 | (2) | 3 | 1:53.6 |
9.26 | 大井 | 東京盃 | 1200 | 石崎隆之 | 57 | (2) | 8 | 1:13.3 |
10.30 | 大井 | グランドチャンピオン2000 | 2000 | 石崎隆之 | 57 | (1) | 3 | 2:05.5 |
11.18 | 大井 | 東京記念 | 2400 | 石崎隆之 | 58 | (1) | 2 | 2:35.5 |
12.29 | 大井 | 東京大賞典 | 2800 | 石崎隆之 | 56 | (4) | 2 | 3:01.4 |
H9.2.5 | 川崎 | 川崎記念 | 2000 | 的場文男 | 56 | (4) | 3 | 2:07.3 |
2.27 | 大井 | 金盃 | 2000 | 石崎隆之 | 58.5 | (1) | 3 | 2:06.9 |
4.9 | 大井 | マイルグランプリ | 1600 | 内田博幸 | 57 | (2) | 1 | 1:39.2 |
5.28 | 船橋 | かしわ記念 | 1600 | 内田博幸 | 58 | (2) | 3 | 1:39.1 |
6.24 | 大井 | 帝王賞 | 2000 | 的場文男 | 57 | (4) | 1 | 2:04.9 |
9.24 | 船橋 | NTV盃 | 2000 | 内田博幸 | 57 | (1) | 7 | 2:09.1 |
10.29 | 大井 | グランドチャンピオン2000 | 2000 | 内田博幸 | 57 | (2) | 2 | 2:05.7 |
12.9 | 大井 | かちどき賞 | 1800 | 内田博幸 | 59 | (1) | 1 | 1:54.1 |
H10.10.2 | 大井 | 能力試験 | 1500 | 的場文男 | 1:35.3 | |||
10.28 | 大井 | グランドチャンピオン2000 | 2000 | 的場文男 | 56 | (3) | 3 | 2:06.2 |
11.12 | 大井 | 東京記念 | 2400 | 的場文男 | 59 | (2) | 1 | 2:35.1 |
12.23 | 大井 | 東京大賞典 | 2000 | 的場文男 | 56 | (5) | 3 | 2:06.0 |
H11.10.13 | 大井 | 能力試験 | 1500 | 内田博幸 | 1:38.9 | |||
10.28 | 大井 | グランドチャンピオン2000 | 2000 | 早田秀治 | 56 | (5) | 6 | 2:08.7 |
11.30 | 大井 | 東京記念 | 2400 | 早田秀治 | 58 | (3) | 9 | 2:38.7 |
H12.1.10 | 大井 | 東京シティ盃 | 1400 | 的場文男 | 58 | (6) | 8 | 1:27.3 |
副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。