TCKコラム

TCK Column vol.43

偉業 ジョージモナーク(全5話)

決して力負けではない 編

三度挑戦するオールカマー。
厩舎は芦毛の英雄ともう1頭を送り込む。
しかし思わぬ展開となるレース。
調教師はこの結果に納得する。
なぜならば、ジョッキーの心情を痛いほど分かるからだ。
自身がジョッキー出身ならではのことだろう。
また、時代がそうさせたのかもしれない。
芦毛の英雄はこの1戦で、引退をする。
競走生活5年の軌跡を振り返ってほしい。
絶望の世界からの生還。
連勝、挑戦、芝での快挙、コースレコード。
名誉ある勝利と記録は、まさに偉業なのである。
この偉業を後世に伝える。

芦毛の英雄

 続く2ヵ月後の第38回オールカマーに三度挑戦することとなった。しかも赤間厩舎はハシルショウグンとの2頭出しである。
ジョージモナークにはこれまでどおり早田が、ハシルショウグンの鞍上には的場が騎乗してオールカマーに戻ってきた。ハシルショウグンは、2歳新馬戦から故障を挟んで3歳秋までに6連勝、そして年明け4歳で大井記念優勝の勢いを得て、札幌のブリーダーズカップに出走、続いてオールカマーに臨んでいた。
 この2頭と2人、いざレースになると、なんとスタートと同時に競り合ってしまったのだ。ハシルショウグンが先頭で、あとをジョージモナークが追うように、1コーナーから4コーナーまで突っ走ってしまう。
「ペースが速かった。最初は先に行く予定ではなかった。荒尾のショウモンライフクについていくはずだったが、ハシルショウグンが先頭に行ってしまったから行くしかなかった」
 2頭は直線でイクノディクタス、サクラヤマトオー、ツルマルナイス、タニノボレロの4頭に交わされ、ジョージモナーク5着、ハシルショウグンが6着に終わってしまった。優勝はイクノディクタスが2分12秒1のコースレコード、および中央タイレコードで決着。

 たしかに結果は伴わなかったが、赤間はこれに納得していた。
「レース前にはどちらかが先に行くようにと言ったのだが、やはり最先着がジャパンカップに出走できるとあって、2頭だけで競り合って、ペースも上がってしまった。ジョッキーにしてみれば、ジャパンカップに出られるというチャンスは、ベテランでも一生に一度あるかないかのことだから。特に公営のジョッキーにはね。だから、ジョッキーの気持ちを考えればこの結果はやむをえないと思っている」
 付け加えれば、当時は現在のように、交流競走や認定競走により公営馬が中央レースにいつでも出走できるという状況ではなかったのだ。もちろん現在もそうだが、中央の芝の1戦に賭ける気概は当時のほうがより強かったに違いない。

 赤間をはじめとする関係者は、この1戦で重大な決断をすることにした。
「このオールカマーのとき、目に見えない疲れがたまっていたようだ。そのようなことも含めて、ジョージモナークが先着であったけど、ハシルショウグンをジャパンカップへ行かせることにして、ジョージモナークを引退させることにした」

 5年の競走生活で、中央の芝では〔1、2、1、4〕。芝右回り〔1、2、0、1〕、芝左回り〔0、0、1、3〕。オールカマー優勝、同2着、BSN杯2着、富士ステークス3着と公営馬として十分すぎるほどの結果と2度のコースレコードという快挙までも残した。
だが、地元南関東のダートでは〔10、3、2、16〕。関東盃優勝、帝王賞2着ぐらいと目立った成績は記録されていない。その理由を赤間は語る。
「大井でなかなか結果を残せなかったのは、この馬のやさしさかな。帝王賞でチャンピオンスターと競ったときでも、接近してこられたら、一瞬止まって切り替えて、外から差し切るというようにね。そのまま我慢して行けばいいのだけれど、引いてしまうところがあった」

 オールカマー優勝は、中央の芝の成績から見ても単なるフロックではないことは明らかだ。
それに、その馬の偉大さの指針でもある収得総賞金も見てほしい。
収得総賞金1億9,710万400円のうち、中央の芝から9,312万400円を稼いでいる。公営と中央では賞金金額の差はあるけれども、全39戦のうち中央出走はわずかに8戦のみ。そこから収得賞金の約半分を獲得しているのだ。
 ジョージモナークの能力のすごさは、間違いなく歴史に残るものだ。だが、公営時代の成績、さらにジャパンカップでの成績も同様に引き合いに出されることが多く、オールカマーでの勝利と2度のコースレコードという偉業がかき消されている感がある。
この英雄たる偉業は何度でも言うがフロックではない。最もそばにいて見守り続けた赤間の最後の言葉に救われる思いがする。
「左回りでは、ジョージモナークの能力が半減してしまう。飛びっぷりがまったく別物になってしまう。この馬らしさがなくなってしまい力が発揮できなかった。決して力負けではなかった」

ジョージモナーク 血統表

牡 芦毛 1985年5月14日生まれ 北海道門別・古川牧場生産
ミルジョージ(USA)Mill Reef(USA)
Miss Charisma(USA)
レッドシグナル(FR)Roan Rocket(GB)
Red Poppy(FR)

ジョージモナーク 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
S62.10 .21 大井 能力試験 800 的場文男 50.6
11.10 大井 2歳新馬 1000 的場文男 53 (1) 2 1:02.9
12.08 大井 2歳 1400 的場文男 53 (1) 1 1:31.3
12.20 大井 2歳 1500 的場文男 55 (1) 1 1:37.4
S63.1.7 大井 ゴールデンステッキ賞 1700 的場文男 54 (1) 3 1:51.5
12.30 大井 能力試験 1200 的場文男 1:19.8
H1.2.6 大井 C4 1400 的場文男 55 (1) 1 1:29.1
3.2 大井 蔵前特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:53.0
3.30 大井 爽春特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:48.5
5.10 大井 目黒区特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:49.4
6.6 大井 オリオン座特別 1800 的場文男 55 (1) 1 1:55.2
7.2 大井 サンデーナイト賞 1800 的場文男 55 (1) 1 1:57.3
8.2 大井 関東盃 1600 的場文男 51 (1) 6 1:44.5
10.16 大井 おおとり賞 2000 堀千亜樹 50 (3) 5 2:10.1
11.1 大井 東京記念 2400 石崎隆之 51 (4) 4 2:39.0
11.24 大井 ロイヤルカップ 1600 石崎隆之 56 (1) 4 1:42.9
12.29 大井 東京大賞典 2800 石崎隆之 56 (7) 7 3:07.8
H2.2.5 大井 ウインターカップ 1800 田部和廣 56 (1) 3 1:54.1
5.21 大井 隅田川賞 1800 田部和廣 51 (3) 2 1:53.6
6.3 大井 ブリリアントカップ 1800 的場文男 56.5 (1) 1 1:56.5
6.27 大井 大井記念 2500 的場文男 53.5 (2) 4 2:44.0
8.1 大井 関東盃 1600 的場文男 53.5 (8) 4 1:42.0
9.16 中山 オールカマー 2200 的場文男 56 (1) 2 2:13.4
11.11 東京 富士ステークス 1800 的場文男 57 (15) 4 1:48.2
11.25 東京 ジャパンカップ 2400 的場文男 57 (7) 15 2:25.9
12.13 大井 東京大賞典 2800 田部和廣 56 (6) 9 3:05.7
H3.2.26 大井 金盃 2000 早田秀治 56.5 (8) 6 2:07.5
4.3 大井 帝王賞 2000 早田秀治 55 (2) 2 2:05.4
5.15 大井 隅田川賞 1800 早田秀治 56 (6) 7 1:52.9
6.20 大井 大井記念 2500 早田秀治 57 (3) 4 2:40.9
7.29 大井 関東盃 1600 早田秀治 57 (6) 1 1:39.6
9.15 中山 オールカマー 2200 早田秀治 56 (2) 1 2:12.4
11.10 東京 富士ステークス 1800 早田秀治 57 (1) 3 1:47.8
11.24 東京 ジャパンカップ 2400 早田秀治 57 (14) 15 2:27.8
H4.1.9 大井 東京シティ盃 1400 早田秀治 58 (1) 7 1:26.5
2.11 川崎 川崎記念 2000 佐々木竹見 57 (2) 5 2:10.9
3.4 大井 金盃 2000 佐々木竹見 57.5 (4) 9 2:06.4
4.15 大井 帝王賞 2000 早田秀治 55 (8) 14 2:10.3
6.18 大井 大井記念 2500 早田秀治 57 (6) 7 2:44.4
7.26 新潟 BSN杯 1800 早田秀治 56 (3) 2 1:46.2
9.20 中山 オールカマー 2200 早田秀治 56 (6) 5 2:12.8

第37回オールカマー競走成績

枠番 馬番 馬名 年齢 斤量 騎手 馬体重 タイム 着差
5 7 ジョージモナーク 牡6 56 早田秀治 490 2:12.4
1 1 ホワイトストーン 牡4 57 田面木博公 450 2:12.5 1/2
6 9 モガミチャンピオン 牡6 56 小島 太 486 2:12.6 1/2
6 10 ハシノケンシロウ 牡4 57 大塚栄三郎 420 2:12.8 1・1/2
2 2 スイフトセイダイ 牡5 56 田中勝春 542 2:12.9 クビ
4 6 ユキノサンライズ 牝4 55 増沢末夫 474 2:13.0 1/2
3 3 キョウエイタップ 牝4 55 坂井千明 468 2:13.2 1・1/4
8 13 セントビット 牡5 56 的場 均 440 2:13.6 2・1/2
7 12 クラシックダンサー 牝4 55 岡部幸雄 474 2:13.8 1・1/4
3 4 メイブラスト 牡6 56 竹原啓二 488 2:13.8 ハナ
8 14 タキノニシキ 牡5 56 井上俊彦 466 2:14.5 4
7 11 チャンピオンスター 牡7 56 高橋三郎 512 2:16.1 10
5 8 タケデンマンゲツ 牡5 56 中野栄治 482 2:18.5 大差
4 5 ベルクラウン 牡6 56 中舘英二 442 2:18.6 クビ

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。