TCKコラム

TCK Column vol.41

偉業 ジョージモナーク(全5話)

絶妙、制覇、快挙 編

芦毛の英雄の鞍上が替わる。
それまでの先行の競馬から一転、
後方からの競馬をする。
さらに、夏場を向かえしり上がりに調子を取り戻していく。
そしていよいよ第37回オールカマーを迎えることとなる。
1年前のレースを終えて、誓った。必ずここに帰ってくると。
ライバルは中央馬のホワイトストーン。
芝では公営勢の強豪には絶対に負けないという自信。
芝でのレースが初めてとなる鞍上は、
中山の外コースの楕円形コーナーに戸惑う。
レースを支配した者は?
勝利の女神はどの馬に微笑んだのか?
ぎりぎりの勝負が、
研ぎすまれた感覚をジョッキーに降臨する瞬間がそこにある。

秀治!

乗り替わった早田は2月26日の金盃が最初のレースとなった。
「それまでは前に行かなければダメだと言われていたけど、このレースでは後方からでも十分手ごたえを感じた。それほど気にすることはないと感じた」
 ジョージモナークと早田は、終始後方の2番手から3番手で位置して、直線で8頭を交わし、16頭中6着でゴールした。

そして、4月の帝王賞ではチャンピオンスターの2着。それ以外はすべて着外。ところが暑くなった6月20日の大井記念で4着、続く7月29日の関東盃では快勝と、しり上がりに調子を取り戻していく。
このマイルの関東盃では、2コーナーまでは後方から、3コーナー、4コーナーでは6番手で通過。それが直線で一気に差し切って、1馬身差での優勝を決めてしまう。そして再びオールカマーに選出されることとなった。
「もうちょっとテン(前方)に行こうかと思っていたんだけど、あんまり行けなくてね。3コーナー回ったところで間に合わないかなと思っていたら、直線に出てきたら脚がすごくよく、速かったね」

オールカマーまで1週間前の9月7日、中山で追い切りを行ったあと、9月15日のレースに臨むこととなる。
当時、早田は31歳。中央競馬も初めてなら、芝を走るのも初めてであった。
「オールカマーは、2,200mだから、中山では外コースを使うので、楕円形みたいなコーナーになる。だからどこで手前を替えさしていいのか戸惑った。あとは坂があるという印象」
赤間は自宅を出るとき妻に、「今日は勝てるから、応援に来いよ」と言い残し自宅を出た。
妻はリュウマチに悩まされ、なかなか外出して観戦するのは辛かったが、妻の友人らに付き添われて府中へと向かったのだ。

平成3年9月15日、第37回オールカマーは、日本ダービー3着、菊花賞2着、ジャパンカップ4着、有馬記念3着、そして宝塚記念4着した3ヵ月後でレースに臨んだホワイトストーンが圧倒的1番人気であった。実に単勝売り上げの半分以上がホワイトストーンであった。やはり常にGIで好走していただけに、ファンの信頼を買ったのだろう。
2番人気は、30戦23勝、2着7回と一度も連対を外したことのない岩手のスイフトセイダイ。3歳時の平成元年と4歳時の平成2年に東京大賞典を走っている。平成元年ではロジータの2着、平成2年ではダイコウガルダンの2着とその数字から2番人気へ推されるのも納得してしまう。ジョージモナークもこの2戦には出走しており、平成元年が7着、平成2年が9着であった。
 3番人気はセンビッド、続いてユキノサンライズ、モガミチャンピオンと続いて、ジョージモナークは6番人気であった。帝王賞を勝って参戦しているチャンピオンスターは9番人気。

 昨年のオールカマー2着の勲章は、どこへ行ったのか。6番人気は低い評価をされたということだ。やはり1年のブランクは大きいのだろうか。たしかにこの1年の勝ち鞍は前走の関東盃のみではあったのだが……。それでも赤間はジョージモナークに絶対の自信を持っていた。
「去年のオールカマーから1年、ジャパンカップから10ヵ月ぶりの芝のレース、そして中央勢、公営勢の強豪とのレースであったが、自信はあった。常にそばで見ていて一番調子のいい時期に思えたからね」
芝でなら負けないという自信。それは赤間自身に余裕を生むこととなる。
鞍上の早田にリラックスしてレースができるように、パドックで観察した他馬がさほど本調子ではないことを告げている。
「ジョッキーにうまく乗ってもらうクスリにもなるのでね」
たしかにパドックでスイフトセイダイは夏負けをしている印象であり、ホワイトストーンも本調子ではなかったようだ。

 そのパドックで、早田に思いがけない出来事が起こった。
「止まれ」の合図のあと騎乗して、最後の1周をしているところで、「秀治!」と大きな声がかかったのだ。
「声の方向を見たら妻の父親の姿が見えた。来ているとは知らなかった」
 義父は早田に応援に行くとは告げずに、競馬場へ駆けつけていたのである。

完璧なタイミング

 レースでは、ユキノサンライズが逃げてレースを引っ張った。早田もユキノサンライズが逃げることは分かっていたので、前年の逃げのレースではなく先頭集団後方に、セントビッドとともに4番手につけ1コーナーを回った。ハナにこだわってはいなかったのだ。
「関東盃では一番後ろから行って、差し切るレースができた。だから、何番手でもいいと思っていた」
2コーナーではひとつ順位を上げて、タケデンマンゲツとともに3番手。
「無難なスタートをして、ペースは平均よりも少し速いくらいだった。だけど手ごたえはバッチリだったから、もっとペースは速いほうがいいとさえ思っていた。それだけとても乗りやすかったということだ。馬はスピードが出れば出るほど乗りやすいからね」

早田はスパートをかけたわけではなかったが、3コーナーからジョージモナークのペースが上がり、タケデンマンゲツを交わし、前のベルクラウンに並び2着に浮上。
4コーナーでは先頭のユキノサンライズの真後ろに着けて回った。
「ジョージモナークの手ごたえから前のユキノサンライズは交わせるという自信はあった。だから後ろの馬だけ警戒していた」
 直線に出てもすぐには仕掛けない。ジョージモナークは早く先頭に立つと気を抜いてしまう。だからユキノサンライズを交わすタイミングが問題だ。我慢すれば後続があっという間に追いついてくる。コンマ何秒で競うジョッキーの勝利の執念という判断がすべてを決める。

 早田はぎりぎりの我慢を重ねた上でジョージモナークに指示を出した。あっさりとユキノサンライズに並び、交わし切った直後、背後からホワイトストーンが突っ込んでくる。
「いつ来るのか、来ないんじゃないか、と思っていたそのとき来た!」
しかし、ホワイトストーンがジョージモナークを捕らえかけた瞬間、ジョージモナークはすでにゴールを決めていた。半馬身差の優勝を決めたのだ。ついに芝の重賞レースを制したのである。
タイムは2分12秒4。平成の怪物オグリキャップと並ぶコースレコードタイ記録で2,200mを駆け抜けたのだ。優勝だけでなく、コースレコードタイ記録までも出した。すべてが完璧だったといえるレースと騎乗。そしてジョージモナークの実力をこれ以上ないという結果で証明させたのだ。

早田の追い出しをかけるタイミングの絶妙がすべてを決めた。これ以上遅くても早くてもいけないというタイミング。ぎりぎりの勝負が研ぎすまれた感覚をジョッキーに降臨する。
「たまたまだよ。勝つときは何でもうまくいくものだよ。それに最初はジャパンカップに出るためにも、優勝よりも最先着を目指していたしね」
謙遜する早田だが、これこそがコンマ何秒という世界で勝負している者しか知りえない世界でもある。関東盃でそれまでとは違ったレースで新たな可能性を見出し、それをオールカマーへつなげる会心の走り。ジョージモナークの実力もさることながら、早田の頭脳プレーがあったからこその勝利といえる。
 赤間も早田の騎乗を称える。
「勝因は追い出しのタイミングだった。完璧だった。よく我慢してくれた。ハナに立つのがあと数m早かったら、勝負はどうなっていたか分からない」

 赤間が騎手時代に中京で行われた騎手招待競走で、大井のチウオーキャプテンでロングホークのアタマ差で負けたときから、どれだけの時が流れたのだろうか。
「本当にうれしかった。ジョッキーに生まれて芝の上で走り勝つのが夢だった。これは調教師になってからも同じで、その夢がとうとう実現できた」
 赤間は全身で喜びを表現し、関係者から握手攻めに合っていた。
早田は口取り写真撮影のあと勝利の余韻に浸ることなく、開催中である大井のトゥインクルレースのため、中山のジョッキールームから大井のジョッキールームへと直行したのだった。

(1分46秒2編へ続く)

ジョージモナーク 血統表

牡 芦毛 1985年5月14日生まれ 北海道門別・古川牧場生産
ミルジョージ(USA)Mill Reef(USA)
Miss Charisma(USA)
レッドシグナル(FR)Roan Rocket(GB)
Red Poppy(FR)

ジョージモナーク 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
S62.10 .21 大井 能力試験 800 的場文男 50.6
11.10 大井 2歳新馬 1000 的場文男 53 (1) 2 1:02.9
12.08 大井 2歳 1400 的場文男 53 (1) 1 1:31.3
12.20 大井 2歳 1500 的場文男 55 (1) 1 1:37.4
S63.1.7 大井 ゴールデンステッキ賞 1700 的場文男 54 (1) 3 1:51.5
12.30 大井 能力試験 1200 的場文男 1:19.8
H1.2.6 大井 C4 1400 的場文男 55 (1) 1 1:29.1
3.2 大井 蔵前特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:53.0
3.30 大井 爽春特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:48.5
5.10 大井 目黒区特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:49.4
6.6 大井 オリオン座特別 1800 的場文男 55 (1) 1 1:55.2
7.2 大井 サンデーナイト賞 1800 的場文男 55 (1) 1 1:57.3
8.2 大井 関東盃 1600 的場文男 51 (1) 6 1:44.5
10.16 大井 おおとり賞 2000 堀千亜樹 50 (3) 5 2:10.1
11.1 大井 東京記念 2400 石崎隆之 51 (4) 4 2:39.0
11.24 大井 ロイヤルカップ 1600 石崎隆之 56 (1) 4 1:42.9
12.29 大井 東京大賞典 2800 石崎隆之 56 (7) 7 3:07.8
H2.2.5 大井 ウインターカップ 1800 田部和廣 56 (1) 3 1:54.1
5.21 大井 隅田川賞 1800 田部和廣 51 (3) 2 1:53.6
6.3 大井 ブリリアントカップ 1800 的場文男 56.5 (1) 1 1:56.5
6.27 大井 大井記念 2500 的場文男 53.5 (2) 4 2:44.0
8.1 大井 関東盃 1600 的場文男 53.5 (8) 4 1:42.0
9.16 中山 オールカマー 2200 的場文男 56 (1) 2 2:13.4
11.11 東京 富士ステークス 1800 的場文男 57 (15) 4 1:48.2
11.25 東京 ジャパンカップ 2400 的場文男 57 (7) 15 2:25.9
12.13 大井 東京大賞典 2800 田部和廣 56 (6) 9 3:05.7
H3.2.26 大井 金盃 2000 早田秀治 56.5 (8) 6 2:07.5
4.3 大井 帝王賞 2000 早田秀治 55 (2) 2 2:05.4
5.15 大井 隅田川賞 1800 早田秀治 56 (6) 7 1:52.9
6.20 大井 大井記念 2500 早田秀治 57 (3) 4 2:40.9
7.29 大井 関東盃 1600 早田秀治 57 (6) 1 1:39.6
9.15 中山 オールカマー 2200 早田秀治 56 (2) 1 2:12.4
11.10 東京 富士ステークス 1800 早田秀治 57 (1) 3 1:47.8
11.24 東京 ジャパンカップ 2400 早田秀治 57 (14) 15 2:27.8
H4.1.9 大井 東京シティ盃 1400 早田秀治 58 (1) 7 1:26.5
2.11 川崎 川崎記念 2000 佐々木竹見 57 (2) 5 2:10.9
3.4 大井 金盃 2000 佐々木竹見 57.5 (4) 9 2:06.4
4.15 大井 帝王賞 2000 早田秀治 55 (8) 14 2:10.3
6.18 大井 大井記念 2500 早田秀治 57 (6) 7 2:44.4
7.26 新潟 BSN杯 1800 早田秀治 56 (3) 2 1:46.2
9.20 中山 オールカマー 2200 早田秀治 56 (6) 5 2:12.8

第37回オールカマー競走成績

枠番 馬番 馬名 年齢 斤量 騎手 馬体重 タイム 着差
5 7 ジョージモナーク 牡6 56 早田秀治 490 2:12.4
1 1 ホワイトストーン 牡4 57 田面木博公 450 2:12.5 1/2
6 9 モガミチャンピオン 牡6 56 小島 太 486 2:12.6 1/2
6 10 ハシノケンシロウ 牡4 57 大塚栄三郎 420 2:12.8 1・1/2
2 2 スイフトセイダイ 牡5 56 田中勝春 542 2:12.9 クビ
4 6 ユキノサンライズ 牝4 55 増沢末夫 474 2:13.0 1/2
3 3 キョウエイタップ 牝4 55 坂井千明 468 2:13.2 1・1/4
8 13 セントビット 牡5 56 的場 均 440 2:13.6 2・1/2
7 12 クラシックダンサー 牝4 55 岡部幸雄 474 2:13.8 1・1/4
3 4 メイブラスト 牡6 56 竹原啓二 488 2:13.8 ハナ
8 14 タキノニシキ 牡5 56 井上俊彦 466 2:14.5 4
7 11 チャンピオンスター 牡7 56 高橋三郎 512 2:16.1 10
5 8 タケデンマンゲツ 牡5 56 中野栄治 482 2:18.5 大差
4 5 ベルクラウン 牡6 56 中舘英二 442 2:18.6 クビ

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。