TCKコラム

TCK Column vol.40

偉業 ジョージモナーク(全5話)

赤間の経験と左回り 編

予後不良の告知から1年。
芦毛の英雄は見事に復帰する。
しかも復帰後、6連勝と快進する。
調教師は、己の経験からこの馬の才能を見出し、
芝のレースへの挑戦が始まる。
芝でどういう馬が走るのか、芝に対してスピードのある馬とは……。
筋肉に刻み込まれた知覚が才能を見抜く。
そして、初の芝レースとなるオールカマーでは2着。
国際レースであるジャパンカップについに名乗りを上げるに至る。
しかし、続く富士ステークス、ジャパンカップでの成績は、
オールカマーとは対照的な結果となる。
府中での失速、なぜか……。
古傷が原因なのか……。
真相は……。

筋肉の覚え

復帰レースは、年号が昭和から平成に変わった平成元年2月6日。重傷といえる骨折をし、1年ぶりの復帰レース。それなのにファンは、ジョージモナークを1番人気に推した。馬体重は1年の成長分の証でもあるプラス15kgの500kg。
レースでは後続に4馬身もの差をつけて優勝する。この復帰レースも含め7月までになんと6連勝を飾る。奇跡の復活劇、そして圧倒的な強さ。6連勝とも1番人気であった。
その年の後半は、6着、5着、4着、4着、7着であったが、赤間はジョージモナークの芝への適正を見出して、来年のオールカマーで中央の芝へ挑戦しようと考えるようになる。
「連勝をして、オープンでも戦えるようになってきた。とにかく飛びがきれいで、這うようなスタイルで走り、砂が浅いととにかく速くなる。もちろん当時のミルジョージは、リーディングサイアーでもあったし、母の血統からもそうだった」
 年明け5歳は、3着、2着、1着、4着、4着。勝ち負けを繰り返すが、着実にクラスを上げていき、赤間の願いどおりオールカマーの出走権が巡ってきた。

平成2年9月16日。第36回オールカマー当日の中山の空からは小雨がぱらつき、レース前には重馬場に変更された。
オールカマーは第32回優勝のジュサブロー以降、中央勢が優勢であり、第33回のガルダン2着ぐらいしか目立った戦績を残せていない。
「私はジョッキー時代から芝のレースでも走り、どういう馬が芝へ適正があるのかはよく分かっているつもりだ。だからジョージモナークもそれなりの結果は出せると思っていた。やれるだけやってみようという気持ちでもある」 赤間は言わずと知れた大井のスタージョッキーでもあった。21歳で騎手生活をスタートさせ、48歳で引退するまでに通算2883勝。東京ダービー6勝、羽田盃7勝を含む重賞勝利は64回。武豊騎手や岡部幸雄騎手が海外遠征するずっと前にアメリカにも遠征しており、もちろん中央のレースでも騎乗している。
「中京で行われた騎手招待競走で、大井のチウオーキャプテンでロングホークのアタマ差で負けたとき、またそれだけでなく後に中央で走り日本一となったオンスロートやサンオーイに騎乗しており、そして皐月賞2着のマツカゼオーが大井へ出走したときに乗るなど、芝でどういう馬が走るのか、芝に対してスピードの出る馬がどういうタイプなのか、自分の筋肉が覚えているというのか、肌で勉強しているから」
 この赤間のジョッキーとしての経験がジョージモナークの芝適正を見出したのだ。

左回りの死角

1番人気はメジロアルダン、佐々木竹見騎手騎乗のアウトランセイコーが2番人気、8番人気がジョージモナーク。
レース前、的場騎手に赤間は何も指示は出していない。
「私自身ジョッキーとして、それなりの騎乗回数をこなしている。競馬は相手があってのもの。無理を言ってもなかなかそのとおりに乗れるジョッキーはいない。だから私はレースまでに、いろいろとジョッキーに意識させて調教させているので、それがすべてである」
当日の的場は好調だった。7レース未勝利でモガミリーフ初勝利、8レースでは負傷した岡部の替わりに、人気薄のフジノプリテーで2着に入っている。

レースではメジロアルダンが飛び出す。ジョージモナークもスタートがよく、内側からメジロアルダンを追いかける。この2頭で逃げ、1コーナー手前でジョージモナークがハナに立ち、2コーナーでは5馬身差、4コーナーでザッツマイドリームが仕掛けてきたが、ジョージモナークがまた伸びる。
直線の途中で赤間は手ごたえを感じ取っていた。
「いけるんじゃないかという感はあった。しかし、坂だけが気がかりだった」
ところが、ラケットボールが鋭い脚で外側後方から一気に差してきた。鞍上の坂井千明騎手の低い騎乗姿勢とゴール寸前での豪脚を見せつける。ジョージモナークとラケットボールの2頭がゴールへ突っ込んでくる。
結果は写真判定に持ち越され、クビ差でジョージモナークは惜しくも2着に甘んじた。
「ジョージモナークは早くハナに立つと息を抜くクセがあった」
 しかし、このレースで赤間は確信する。必ず勝てると。
「来年もジョージモナークを連れてこようと考えて競馬場から帰ったよ」

次戦は、11月11日、府中で行われた富士ステークス。
ジョージモナークのこれまでのレースで、ただひとつだけ違ったことがあった。それは初の左回りコースであったということだ。
レースではハナに立つと、マイペースで逃げ、直線まで先頭で走るものの、踏ん張れず、モガミチャンピオン、ダイナレター、ノーモアスピーディの3頭に交わされ、4着に終わってしまった。
「左回りが得意ではなかったね。われわれは故障の影響はないと考えていた。むしろ府中独特の上り下りのコース形態により、馬がそのたびに浮いてしまうようなところがあったのだ」

いよいよ、迫ったジャパンカップ。富士ステークスから2週間後の11月25日。場所は同じく府中。
海外からの招待馬には、ベルメッツ(イギリス)、ベタールースンアップ(オーストラリア)、カコイーシーズ(イギリス)といったそうそうたる強豪に加え、日本からオグリキャップ、ホワイトストーン、ヤエノムテキといった日本を代表する最強馬。そこにただ1頭、公営競馬から挑戦するジョージモナーク。
ジョージモナークの人気は、前走の富士ステークスの影響もあるのか、13頭中13番目というものであった。
ベルメッツ、フレンチグローリー、カコイーシーズの3頭がスタート地点への集合に遅れたため、5分遅れでのスタートとなった。
 レースはスローペースのなか、ジョージモナークは後方で抑えていったが3~4コーナーで、後方集団から離されてついていけなくなってしまった。
 優勝したベタールースンアップから2秒7遅れの最下位でゴール。日本勢ではホワイトストーンが最先着の4着であった。

「先の富士ステークスでも見られたが、左回りの府中のコーナーで、なぜだかジョージモナークは神経質になり、この馬らしくなくなってしまう」
 それに涼しくなると体調がよくないという一面もあった。その証拠に冬場は大井でも走らなかったのだ。
 これは翌年の平成3年、鞍上が替わった早田秀治騎手も同様な意見である。
「左回りがうまくはなかった。それに冬は体の調子が悪く、逆に夏は調子がよかった。季節による体調の良し悪しは故障した脚とは関係ないんじゃないかな」

(絶妙、制覇、快挙編へ続く)

ジョージモナーク 血統表

牡 芦毛 1985年5月14日生まれ 北海道門別・古川牧場生産
ミルジョージ(USA)Mill Reef(USA)
Miss Charisma(USA)
レッドシグナル(FR)Roan Rocket(GB)
Red Poppy(FR)

ジョージモナーク 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
S62.10 .21 大井 能力試験 800 的場文男 50.6
11.10 大井 2歳新馬 1000 的場文男 53 (1) 2 1:02.9
12.08 大井 2歳 1400 的場文男 53 (1) 1 1:31.3
12.20 大井 2歳 1500 的場文男 55 (1) 1 1:37.4
S63.1.7 大井 ゴールデンステッキ賞 1700 的場文男 54 (1) 3 1:51.5
12.30 大井 能力試験 1200 的場文男 1:19.8
H1.2.6 大井 C4 1400 的場文男 55 (1) 1 1:29.1
3.2 大井 蔵前特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:53.0
3.30 大井 爽春特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:48.5
5.10 大井 目黒区特別 1700 的場文男 55 (1) 1 1:49.4
6.6 大井 オリオン座特別 1800 的場文男 55 (1) 1 1:55.2
7.2 大井 サンデーナイト賞 1800 的場文男 55 (1) 1 1:57.3
8.2 大井 関東盃 1600 的場文男 51 (1) 6 1:44.5
10.16 大井 おおとり賞 2000 堀千亜樹 50 (3) 5 2:10.1
11.1 大井 東京記念 2400 石崎隆之 51 (4) 4 2:39.0
11.24 大井 ロイヤルカップ 1600 石崎隆之 56 (1) 4 1:42.9
12.29 大井 東京大賞典 2800 石崎隆之 56 (7) 7 3:07.8
H2.2.5 大井 ウインターカップ 1800 田部和廣 56 (1) 3 1:54.1
5.21 大井 隅田川賞 1800 田部和廣 51 (3) 2 1:53.6
6.3 大井 ブリリアントカップ 1800 的場文男 56.5 (1) 1 1:56.5
6.27 大井 大井記念 2500 的場文男 53.5 (2) 4 2:44.0
8.1 大井 関東盃 1600 的場文男 53.5 (8) 4 1:42.0
9.16 中山 オールカマー 2200 的場文男 56 (1) 2 2:13.4
11.11 東京 富士ステークス 1800 的場文男 57 (15) 4 1:48.2
11.25 東京 ジャパンカップ 2400 的場文男 57 (7) 15 2:25.9
12.13 大井 東京大賞典 2800 田部和廣 56 (6) 9 3:05.7
H3.2.26 大井 金盃 2000 早田秀治 56.5 (8) 6 2:07.5
4.3 大井 帝王賞 2000 早田秀治 55 (2) 2 2:05.4
5.15 大井 隅田川賞 1800 早田秀治 56 (6) 7 1:52.9
6.20 大井 大井記念 2500 早田秀治 57 (3) 4 2:40.9
7.29 大井 関東盃 1600 早田秀治 57 (6) 1 1:39.6
9.15 中山 オールカマー 2200 早田秀治 56 (2) 1 2:12.4
11.10 東京 富士ステークス 1800 早田秀治 57 (1) 3 1:47.8
11.24 東京 ジャパンカップ 2400 早田秀治 57 (14) 15 2:27.8
H4.1.9 大井 東京シティ盃 1400 早田秀治 58 (1) 7 1:26.5
2.11 川崎 川崎記念 2000 佐々木竹見 57 (2) 5 2:10.9
3.4 大井 金盃 2000 佐々木竹見 57.5 (4) 9 2:06.4
4.15 大井 帝王賞 2000 早田秀治 55 (8) 14 2:10.3
6.18 大井 大井記念 2500 早田秀治 57 (6) 7 2:44.4
7.26 新潟 BSN杯 1800 早田秀治 56 (3) 2 1:46.2
9.20 中山 オールカマー 2200 早田秀治 56 (6) 5 2:12.8

第37回オールカマー競走成績

枠番 馬番 馬名 年齢 斤量 騎手 馬体重 タイム 着差
5 7 ジョージモナーク 牡6 56 早田秀治 490 2:12.4
1 1 ホワイトストーン 牡4 57 田面木博公 450 2:12.5 1/2
6 9 モガミチャンピオン 牡6 56 小島 太 486 2:12.6 1/2
6 10 ハシノケンシロウ 牡4 57 大塚栄三郎 420 2:12.8 1・1/2
2 2 スイフトセイダイ 牡5 56 田中勝春 542 2:12.9 クビ
4 6 ユキノサンライズ 牝4 55 増沢末夫 474 2:13.0 1/2
3 3 キョウエイタップ 牝4 55 坂井千明 468 2:13.2 1・1/4
8 13 セントビット 牡5 56 的場 均 440 2:13.6 2・1/2
7 12 クラシックダンサー 牝4 55 岡部幸雄 474 2:13.8 1・1/4
3 4 メイブラスト 牡6 56 竹原啓二 488 2:13.8 ハナ
8 14 タキノニシキ 牡5 56 井上俊彦 466 2:14.5 4
7 11 チャンピオンスター 牡7 56 高橋三郎 512 2:16.1 10
5 8 タケデンマンゲツ 牡5 56 中野栄治 482 2:18.5 大差
4 5 ベルクラウン 牡6 56 中舘英二 442 2:18.6 クビ

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。