TCKコラム

TCK Column vol.24

不屈の闘志、尽きることのない挑戦 テツノカチドキ(全5話)

テツノカチドキと赤嶺本浩編

テツノカチドキは地方55戦、中央3戦の合計58戦を走り、優勝17回、2着が13回も数える。これほどまでに走り続けた理由とは……。
デビューは2歳の暮れ。入厩当初から体調が弱く、なかなか仕上がらなかった。明けて3歳時には年間16戦も走っている。仕上がれば、丈夫で、ケガなどもしない馬だった。
レースでは、大差勝ちは少なく、一方で大敗したレースも少ない。重賞初制覇がGI。中央へも挑戦し芝を制した。また、ジャパンカップへの出走をかけて名勝負を演じている。意外な雌伏の時間を経験し、周囲の予想とは裏腹に、感動的なラストランを生んだ。
この昭和60年前後は、南関東黄金時代。サンオーイ、スズユウ、ロッキータイガー、トムカウント、キングハイセイコー、カウンテスアップ、ハナキオーといった多くの英雄たちが誕生した。テツノカチドキもこの黄金時代を支えた1頭である。
日本が世界に誇る偉大なジョッキーは、一番思い出に残る馬だと公言する。
これはテツノカチドキが引退する7歳までに走った58戦の蹄跡物語である。

2歳暮れのデビュー

昭和57年、テツノカチドキが大山末治厩舎に入厩したとき、もう1頭の有力馬と一緒に入厩した。テツノカチドキについてはソコソコ走ってくれれば、という思いがあった。だれもがこの500kgを超える鹿毛の大きな馬が生涯58戦も走るとは想像していなかった。

当時、大山厩舎には、所属騎手のほかに栗田厩舎に所属する赤嶺本浩騎手(現調教師)も、大山厩舎の馬でレースに出走したり、調教を担当していたのである。テツノカチドキは、入厩当初から赤嶺に託されるようになった。
「私は栗田厩舎の所属でしたが、大山厩舎の馬にも何頭か乗せてもらっていたり、攻め馬をしていたりしたから、テツノカチドキが入厩したときから毎日調教していた。だから、能力試験も任されて、レースに出るようにもなった。自厩舎の馬に乗らなければならないときには、乗り替わっていたね」。

テツノカチドキの最初の印象を赤嶺は、
「馬っぷりはよかったね。最初からパワーはあるなと思った。ただ腰が少し軽いようだった。それに『ゴホン、ゴホン……』とセキばかりしていて、なかなか思うように調教が進まなかった。1日の攻め馬で20回から30回もセキを繰り返すのだ。そのセキが半年ぐらい続いたかな。そのため思うように調教ができず、仕上がりがずいぶん遅くなったよ」。

それでも、2歳の暮れには、何とか仕上がるのである。その大きな要因は、大山末治調教師の育成方法にあると赤嶺は指摘する。
「大山先生は軽めに仕上げるほうだから。馬なりでの調教方針だから、ビシッと追ったりしたら、嫌がるような先生だった」。
だから当然、テツノカチドキに対しても、強い追い切りをさせるようなことはしなかったのだ。急いで仕上げるようなことはせずに、じっくりと馬任せに仕上げていったのである。
その甲斐合って、セキは静まり、徐々に仕上がっていったのだ。ただ、500kgオーバーの巨体をどこかもてあますようなところはあったようだ。

能力試験が行われたのは、2歳の暮れの12月4日。800mを53秒3のタイムで合格している。
「能力試験では、それほどすごいなと思うことはなった。なにぶん体が大きく、その体をもてあますようなところがあったから。だからゲートが開いたら“グワー”と行くようなところはなかった」。
デビューレースは、この能力試験の20日後、クリスマスイブの24日であった。これは地方競馬の所属馬としてはかなり遅い。中央競馬所属馬と違って、地方馬はすぐにでも結果を求められる。それでもじっくりと調教されたのは、テツノカチドキの潜在パワーを大山と赤嶺が見抜いていたからにほかならない。
赤嶺の口から何度もテツノカチドキがいかに頭がよかったか、という言葉が出て止まない。

レースを繰り返すたびに、まるで、成長曲線をなぞるかのようにテツノカチドキは、赤嶺の手綱にこたえるようになる。
「走るたびにだんだんよくなっていき、3歳から4歳にかけて、だいぶ反応できるようになった。ただ、ゲートは下手ではないけれど、うまくはなかった。腰の影響があると思うね」。
ゲートを出てのダッシュに難題は残していた。だからといって、馬を追い立てるようなレースをしていたのでは、とても年間16戦も持たないだろう。
大山は調教だけでなくレースにおいても、「馬本位で行くように」という方針を持っていた。
「先生の指示が適切だった。私も馬任せでいつも乗っていたからね。そうじゃなければ、これだけ走るようなことはないだろう」。

3歳時の年間16戦中、優勝8回、2着3回、3着1回。勝率50%、連対率68.7%という数字はすばらしいとしか言いようがないものだ。さらに、賞金が出る5着までの入着が14回を数える。丈夫でいて賞金も稼ぐ。後に地方所属馬初となる獲得賞金3億円を突破する偉業の試金石は、このころからあったのではないだろうか。

(いちょう賞編へ続く)

テツノカチドキ 血統表

牡 鹿毛 1980年3月25日生まれ 北海道荻伏・不二牧場生産
コインドシルバー(輸入) Herbager
Silver Coin
フジノアオバ マリーノ(輸入)
ブラツクフオレスト(輸入)

テツノカチドキ 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 着順 タイム
S57.12.4 大井 能力試験 800 赤嶺     53.3
12.24 大井 2歳 1000 秋吉 53 3 1:03.1
S58.1.19 大井 3歳 1200 赤嶺 54 6 1:15.6
2.7 大井 3歳 1400 赤嶺 54 1 1:30.3
2.27 大井 3歳 1400 赤嶺 54 3 1:29.9
3.8 大井 3歳 1500 秋吉 54 2 1:39.1
3.27 大井 3歳 1500 秋吉 54 1 1:35.8
4.16 大井 菜の花特別 1700 秋吉 54 7 1:51.2
4.30 大井 チューリップ賞 1700 赤嶺 54 4 1:50.8
5.27 大井 4歳 1600 秋吉 54 2 1:42.7
7.1 大井 菖蒲特別 1700 赤嶺 54 1 1:48.3
7.16 大井 天の川特別 1700 赤嶺 55 1 1:48.0
8.5 大井 江東特別 1700 赤嶺 55 2 1:47.7
9.13 大井 目黒特別 1800 赤嶺 55 1 1:55.9
10.17 大井 いちょう賞 1800 赤嶺 54 1 1:53.3
11.8 大井 東京王冠賞 2300 赤嶺 57 6 2:46.3
12.7 大井 グローリーカップ 1800 本間茂 54 1 1:54.4
12.21 大井 ディセンバー特別 1600 本間茂 52 1 1:39.7
S59.1.17 大井 新春盃 1800 本間茂 50 6 1:54.2
2.1 大井 ウインターカップ 2000 本間茂 55 1 2:04.9
2.27 大井 金盃 2000 本間茂 51 2 2:04.9
3.27 大井 江戸川特別 1800 本間茂 52 5 1:54.5
4.11 大井 帝王賞 2800 赤嶺 57 4 3:02.0
5.16 大井 大井記念 2500 赤嶺 53 2 2:38.9
6.19 大井 中央競馬招待 1800 赤嶺 56 6 1:53.0
7.9 川崎 報知オールスターカップ 2000 本間茂 55 2 2:07.3
8.7 大井 関東盃 1600 本間茂 54.5 3 1:39:0
9.26 船橋 NTV盃 2000 本間茂 55 4 2:07.5
10.31 大井 東京記念 2400 本間茂 54 2 2:32.6
11.23 大井 かちどき賞 1800 本間茂 55 1 1:50.4
12.25 大井 東京大賞典 3000 本間茂 56 1 3:13.3
S60.2.7 大井 金盃 2000 本間茂 58 3 2:06.6
2.25 川崎 川崎記念 2000 本間茂 58 2 2:08.0
4.18 大井 帝王賞 2800 本間茂 57 4 3:00.8
5.16 大井 大井記念 2500 佐々木 58 1 2:40.3
6.16 福島 地方競馬招待 芝1800 佐々木 57 1 1:48.0
7.3 川崎 報知オールスターカップ 2000 佐々木 57 2 2:06.6
8.1 大井 関東盃 1600 佐々木 59.5 1 1:39.5
9.25 船橋 NTV盃 2000 佐々木 60.5 2 2:05.4
10.31 大井 東京記念 2400 佐々木 60.5 2 2:33.9
12.6 大井 おおとり賞 2000 鷹見 60.5 2 2:07.0
12.28 大井 東京大賞典 3000 佐々木 56 3 3:14.6
S61.2.11 川崎 川崎記念 2000 桑島 60.5 3 2:10.2
3.4 大井 金盃 2000 佐々木 60.5 6 2:07.6
4.9 大井 帝王賞 2000 佐々木 55 5 2:06.7
5.14 大井 大井記念 2500 佐々木 60 1 2:39.4
6.18 川崎 報知オールスターカップ 2000 佐々木 57 2 2:07.2
8.1 大井 関東盃 1600 佐々木 61 4 1:41.7
9.21 中山 オールカマー 芝2200 佐々木 56 3 2:15.8
10.21 大井 東京記念 2400 佐々木 61 5 2:36.6
12.23 大井 東京大賞典 3000 佐々木 55 5 3:19.8
S62.1.28 大井 金盃 2000 石川 60.5 9 2:09.8
2.25 川崎 川崎記念 2000 佐々木 60 3 2:09.8
4.8 大井 帝王賞 2000 佐々木 55 1 2:07.5
6.17 大井 大井記念 2500 佐々木 61 6 2:44.5
7.15 川崎 報知オールスターカップ 2000 佐々木 57 4 2:08.4
9.20 中山 オールカマー 芝2200 佐々木 56 7 2:15.4
11.10 大井 東京記念 2400 鷹見 60 6 2:38.3
12.23 大井 東京大賞典 3000 佐々木 55 1 3:15.8

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。