TCKコラム

TCK Column vol.11

あの頃、いてくれたら

TCKでトゥインクルレースが始まって、もう18年になるそうだ。私が初めて行ったのは、ちょうど10年前。関西から新幹線に乗ってはるばる遊びに出向いたのだった。2日続けて勝負し、フラフラになった記憶がある。

私よりもっとフーラフラだったのは、常連と覚しき1人のオジサマ。「ケーバ、やめてくれないかねぇ」「なぁ、やめようよ」と、隣席の男性に訴えかけている。その男性が連れなのかどうかは分からなかったが、その人は「おう、おう」と笑って返していた。周囲の人も、まるで包み込むかのような優しい笑顔で、オジサマを見守っていた。

みんな、分かっているからだ。そのオジサマが、競馬が好きでどうしようもないことを。だから、ハズしてもハズしても買ってしまうことを。それなら来なきゃいいのに、来てしまうことを。そして、みんなにもそんなときがあることを。

あの頃に『うまたせ君』がいたら、あのオジサマは馬券をハズしてもグチらずにいられたかもしれない。うまたせ君とは、今年からTCKに登場する新キャラクターのことだ。

「うまたせー!」と愛想をふりまきながら手を振りつつ、待ち合わせ場所のパドックにやってくる。30分も遅れていることなど、おかまいなし。待ってたこちらも、ま、マイペースのB型だからしょうがないか、と怒る気もなし。あら、TCKの貴公子・内田博幸騎手もB型だって。あら、そういう私もB型だったっけ。

うまたせ君はTCKでの遊び方はもちろんのこと、異性の口説き方やエスコートの仕方などもコーチしてくれる貴重な存在だ。仲良くしておくに越したことはない。先日だって、まだまだTCK初心者の私をダイアモンドターンというお洒落なアメリカンレストランに連れて行ってくれたし、一緒にいたウマナミ君には思いを寄せているウマウマ子ちゃんへのアプローチの仕方を語るなど、優しい面も持っている。 ヒットはやっぱり、あれだな「ビールを注文してさ、泡を見つめながらポツリと言うんだよ。キミへの僕の思いはこの泡のようには消えないさ、ってね」。うーん。あれじゃジョークとしてウケるだけだとは思うけどね。女の子には、イルミネーションを見せてあげることが一番だよ。今年は特に、約100万球も使っているらしいから、それはそれは見事なもの。うまたせ君だって、あまりの優雅さにうっすら涙を浮かべてたの、知ってるもん。だけど根が照れ屋だし、尊敬する人が故・石原裕次郎さんだというぐらいだから、イルミネーションが綺麗だよなんて、こっぱずかくして口には出せないんだな。もっとも、石原裕次郎さんなら口が裂けても「このビールの泡のように・・」なんてことも、言わないだろうけどね。

うまたせ君はTCKのことは何でも知っていて、的場文男騎手の好物が「カレーライス」だってことも教えてくれる。そうそう、内馬場にオープンする“スパイスガーデン”のバイキングにもカレーがあるらしく、的場騎手にどうしても勝って欲しいときはそのカレーを食べて願掛けするといいと言ってた。ホントかな。

そんなうまたせ君の理想の人生は“わらしべ長者”。わらしべ長者って、一本のワラの芯を次々と高価なものと交換してついには大金持ちになる人のこと。小さい元手で大きく儲ける。うまたせ君はみんなを楽しませてくれながら馬券はしっかり買って、いつも手堅く増やして帰っている。

ワラをも掴みたい心境の、あの10年前のオジサマ、そしてそこのあなた。うまたせ君に身を委ねてみてはいかが。うまたせ君にウマタセって。

芦谷 有香
兵庫県競馬「園田」「姫路」競馬中継アシスタントと「京都」「阪神」の場内FM・DJが、競馬人生のスタート。毎日新聞や週刊競馬ブックなどで執筆をし、キャスターとして競馬番組に出演中。
現在、TCKレーシングプログラムで「おしゃべりパドック」を連載。著書に「栗東厩舎探訪記」(翔雲社)の1、2、3あり。馬をモチーフにしたカジュアルブランド「カバルッチオ」のプロデュースもしている。