TCKコラム

TCK Column vol.04

ロジータが帰ってきた!!

 3連単、3連複の新馬券による夢の高配当に湧く東京シティ競馬ですが、さる6月19日の呼び物「第25回帝王賞(指定交流GI)」はナイターのスポットライトを浴びる中、珍しい感動的なレースとなりました。’89年、南関東で牝馬として史上初めて3冠馬に輝いたロジータ産駒のカネツフルーヴ(中央、栗東・山本正司)が6番人気ながら母譲りの激しい戦いぶりを披露して優勝をさらったのです。「ロジータの仔が勝った!!」「ロジータが帰ってきた!!」とスタンドは騒然。競馬の楽しみは”血のドラマ”にあるといいます。第2回は今もファンの思い出に残る女傑ロジータです。

 ロジータ伝説に新らたな一頁が加わった。南関東が生んだ最強の牝馬ロジータ(川崎・福島幸三郎)。彼女が’89年早春に現役を退いてから早いもので13年の歳月が流れたが、その血は不滅である。
 帝王賞は、”地方のメッカ・大井”で最も人気のある交流GI。今年は地方側10頭、中央側5頭の計15頭立てで行われた。トーシンブリザード(船橋)トーホウエンペラー(水沢)インテリパワー(船橋)が上位人気。カネツフルーヴは6番人気で逃げると思われた。ところがスタートでつまづき2番手を追走。すぐ後ろに人気各馬がつけて展開的には苦戦と思われた。しかし、ここ一発に強いのは母譲り。直線に入ると一気に抜け出し、トーシンブリザード、トーホウエンペラーを置き去りにし、外から強襲してきたミラクルオペラに2馬身半差をつけてゴールイン。松永幹夫の手綱は余裕の手応えだった。2分3秒7と速く、非の打ちどころのないGI制覇であった。2着に”笠松の名牝”といわれたマックスフリートの仔ミラクルオペラが入った。中央側の1、2着だが、結果を吟味すると、地方馬の勝利かと錯覚するような面白い一戦だった。
 ロジータ。「谷間の百合」の意味でフランスの文豪バルザックの同名小説は名作だ。彼女は97年4月26日、父ミルジョージ、母メロウマダングという血統で北海道新冠町の高瀬牧場で誕生した。育成時代から評判だった。可憐な花の名にちなんで付けられた馬名とは裏腹に、悍性の強い馬で、天性のバネを持ち、走りっぷりには大物感が漂っていた。動作が俊敏で突風のような動きも見せたので”ピュ-ちゃん”の愛称で呼ばれていた。
 「気の強い面があるが負けず嫌いで性格から競走向きでしたね」と生産者の高瀬良樹氏は語っていた。
 ’88年10月7日、川崎の新馬でデビュー勝ちすると、3戦目のカトレア特別で2勝目を上げ、初めての大井の東京3歳優駿牝馬は3着と敗れたが、明け4歳(現3歳)になると白星街道を突っ走った。浦和のニューイヤーC、大井の京浜盃、浦和の桜花賞と勝ち進み、クラシック第1関門の羽田盃、そして東京ダービーも好位から抜け出して楽勝した。母は短距離馬だったが、ロジータは2400mも無難にこなして2冠制覇。11月3日の大井の3冠目、東京王冠賞でもロジータは強かった。史上6頭目、牝馬として初めて3冠馬に輝いた。
 その前後に彼女は中央で2戦した。9月の中山のオールカマーでは”笠松の怪物”オグリキャップと夢の初対決。初めての芝コースに戸惑ったか5着が精一杯だった。3冠制覇から3週後の東京のジャパンCは勝ち馬ホーリックスと2着オグリキャップから4秒7遅れの最下位だった。ロジータは後方を走り、彼女本来の競馬を忘れていた。
 だが、この敗戦が彼女の評価を下げるわけではない。1ヵ月後の大井の東京大賞典では古馬の牡馬を退けて4冠目を掌中にした。ロジータは翌’90年2月12日、地元の川崎記念を最後に引退したが、このラストランは圧巻だった。単勝支持率80%、100円の元返しで、他馬の単勝はすべて100倍以上という珍事の中、4コーナーを回ると独走で、馬なりのまま2着馬を8馬身ぶっち切った。彼女の最後の雄姿を一目見ようと集まった超満員のファンはゴールの瞬間万雷の拍手で讃えた。泣いている人も多かった。
 デビューから最終戦まで15戦(10勝、重賞8勝)の手綱を取った野崎武司騎手は「これが彼女の本領。賢い馬でレースでは常に僕の指示に素直だった。まだまだ走れるが、今後はいい仔を生んで欲しい」と別れを惜んだ。
 3月3日の引退式が終わるとすぐ故郷の高瀬牧場へ帰った。引き際が鮮かだったことが産駒の活躍につながったのか。ロジータはこれまで12年間の繁殖生活で空胎は1年だけ。初年度産駒のシスターソノ(牝、父ナスルエルアラブ)は中央で2勝したが、母として第1回JBCクラシック(統一GI)の優勝馬レギュラーメンバー(牡、父コマンダーインチーフ)を出した。3番子のオースミサンデー(牡、父サンデーサイレンス)は中央2勝で、皐月賞での故障は残念だった。5番子のイブキガバメント(牡、父コマンダーインチーフ)は朝日CCなど7勝の現役馬。そして6番子がカネツフルーヴ(牡、父パラダイスクリーク、7勝)である。
 2002年の今年は5月13日にサンデーサイレンスの牝馬を出産した。高瀬牧場が「ロジータの後継にしたい」という期待のSS牝馬である。ハミングバードと名付けられ、母馬と放牧され、すくすく成長している。今春はまた相性のいいコマンダーチーフを種付けした。
 ロジータは16歳になったが、まだまだ若々しい。仔馬に対しては放任主義で乳を与える時以外は素知らぬ態度。その辺がいかにも気丈夫な女傑らしい。ロジータ一族はこれから活躍馬がどんどん出そうだ。女傑から文字通りの名牝となり、ロジータ神話は今も色褪せない。

横尾 一彦
日刊スポーツ時代(98年退社)に編集委員として競馬コラム担当。フリー・ジャーナリスト。
中央競馬会の「優駿」コラムニスト。「サラブレッド・ヒーロー列伝」を103回にわたり長期連載。