Café Americano

Café Americano vol.09

第9回 今年のエクリプスはあの馬!&米国のお父さんたちのご紹介

気がつけば もうじき3月 慌て気味

 時が過ぎるのは、本当にあっという間ですね。もう今年も2月の中旬に差し掛かってきているんですよね。昨年のスケジュールを振り返りますと、なかなか怒涛の日々でした。3月3日のバレッツセールに始まり、その週末からフロリダ・オカラのOBSセールへ。ロサンゼルスへ帰投後、イベントの最終打ち合わせをサンタアニタ競馬場のスタッフと行ない、東京シティカップイベントに突入したわけです。今年の東京シティカップ・ジャパンファミリーデーの開催は3月28日(アメリカ時間)ですが、昨年、あの暑い日差しの中をスーツと革靴で走り回り、ヘトヘトになった日からもう1年。光陰矢の如しとはよく言ったものです。英語ではTime Fliesと言い、みんな普通に日常会話で使っていますが、アメリカに来た7年前と比較して、私は明らかに使う頻度が高くなってきています。時間がいくらあっても足りないと年末にも思っていましたが、イベント開催日から1ヶ月半前になった私は、同じ言葉を口にし始めようとしています。皆さん、時間のご利用は計画的に。

 今年のバレッツセールは2月23日の開催。厳選された2歳馬たちが勢揃いします。過去のバレッツ出身の活躍馬を見てみますと、NHKマイルカップ・JCダートを優勝したイーグルカフェ、フェブラリーS優勝のテスタマッタ、昨年種牡馬として輸入されたヘニーヒューズ、はたまた米国で輝かしい種牡馬成績をおさめたアンブライドルズソングなどなど、名だたる馬たちがこのセールからキャリアをスタートしているのです。日本とは違い、自由にトレーニングセールを見学することもできますので、この時期にロサンゼルスに来られる方は、時間を取ってのぞいてみてもらってもいいかもしれませんよ。

エクリプス賞受賞馬が決定。今年は紫色に染まりました。

 JRAはJRA賞、地方競馬はNARグランプリ、欧州はカルティエ賞ですが、米国はエクリプス賞で年間の活躍馬・関係者を表彰します(馬主や生産者まで表彰される)。各国の表彰でトロフィーもいろいろと違うわけですが、エクリプス賞で表彰されるとこんな馬の銅像がもらえます(写真1)。これはケンタッキーホースパークが2007年に受賞した時のものですが。米国の競馬関係者は、毎年この名誉に浴するために一年間の競馬を戦っていくのです。当社の社長は、当時日本人所有馬として初めてBCクラシックを制したエーピーインディ(のちに種牡馬としても大成功)にかかわった関係者のひとりとして表彰式に参加したことがあるのですが、いつの日か、再び我々がその表彰台に立てればいいな・・・という淡い夢を抱きながら、日々の仕事に励んでおります。

写真1

 今年のエクリプス賞、今年のファシグ・ティプトンセールが行なわれる場所でもある、フロリダはガルフストリームパーク競馬場で行なわれました。既に世界の合田さんも書いておられましたが、2014年の年度代表馬の座をカリフォルニアクローム(California Chrome)が勝ち取りました。ケンタッキーダービー、プリークネスSを連覇し、その血統やカリフォルニア出身という話題性から一躍有名になった彼ですが、間違いなく歴史に名を残す1頭となったと言えるでしょう。年末には芝のGIも優勝しましたが、今年2月のサンアントニオS(サンタアニタ、1,800m)ではライバルのシェアドビリーフ(Shared Belief)の前に惜しくも敗退。今後は仕切りなおして、3月末のドバイワールドカップ(我々にとっては、東京シティカップの裏開催です 笑)に向かう予定です。日本馬もエピファネイアを筆頭に強豪が参戦するようですから、日米の最強馬同士のドバイでの激突が非常に楽しみになりました。

 その流れで日本競馬と関係がありそうな受賞馬を挙げるとするならば、メインシークエンス(Main Sequence)でしょうか。近5走は全てGI、そのうち初戦を除いて、BCターフを含むGI・4連勝。2015年の陣営の動向が非常に楽しみになってきました。実はこの子は英国でも出走経験がある国際派。英国では勝てなかったようですが、それでも英国ダービー2着の実績を残しています。米国帰国後、芝のチャンピオンホースとしてカムバックしてきました。来年、日本遠征・・・なんて話が出てきたら楽しそうですね。

米国で走るお馬さんたちのパパさんを少しご紹介

 昨年は全部で3回ほどレキシントンに行きました。出張をしやすい場所・・・というと、ボスにニヤッとされそうですが、いくつか米国内を回った中でも、出張中も比較的容易に過ごせる場所と言えます。日本食はありますし、たまに強烈な渋滞に巻き込まれますが、基本的に道は広く、空港も便数の割にはこじんまりと作られていますし、街がコンパクトなので移動も楽です。皆様も是非一度・・・と言いたいところですが、大義名分がないと来づらいですよね、わかっています。そんな競馬ファンの皆様にきっかけをひとつ。

 11月は、ファシグティプトンとキーンランドでブリーディングストックセールが開催され、多くの繁殖牝馬がセールに出ます。その時に、各種牡馬を繋養する牧場もオープンハウスをやっているのです。彼らの狙いは、種牡馬を広く生産界の人たちに見せることで、所有繁殖牝馬との配合を検討させ、多くの種付依頼を獲得することにあるのでしょう。

 日米間における一番の大きな違いは、この繁殖セールのタイミングで種牡馬を見学するときに、ほとんどの牧場でアポイントメントなしで行けてしまうこと。つまりは、生産者や関係者を装って、一般のファンの方もフツーに見学に行けてしまうのです。しかも、かなりの至近距離で見られます。さすがにあまりペタペタ触っている人はいませんが(笑)、日本の種馬場では、一般ファンの方は近づくことすらほぼ不可能に近いのではないでしょうか。そんな流れで、今号では何頭か種牡馬をご紹介しようと思います。

 この芦毛は、ただいま1回30万ドルの男・タピット君(Tapit、写真2)。「ふふん、いい男だろ?」と、自画自賛するような自信をたっぷりたたえた全米ナンバーワンの男です。2014年も産駒のUntapableがエクリプス賞を受賞するなど、産駒は大活躍。ちなみにBCディスタフを優勝したUntapableに騎乗していた女性ジョッキー、ロージー・ナプラヴニクが、勝利ジョッキーインタビューの中で、「妊娠していること・引退すること」を発表した時は大きな驚愕のどよめきと、大きな大きな歓声が送られたことも記憶に新しいです。余談でした。

写真2

 同じ牧場に繋養されているのは、日本でもファンが多かったでありましょう、マイルチャンピオンシップ&香港マイル優勝馬・ハットトリック君(写真3)。さすがサンデーサイレンスの直仔、14歳になった今も気性は少し荒く、牧場の人も若干手を焼いていた印象です。しかし遺伝力のなせるわざか、子どもたちはなかなかに世界で活躍しているのです。またまた余談ですが、米国セールのいいところは、世界中から人が集まるので、米国で種牡馬デビューしてある程度成功すると、全世界に血統の枝葉を伸ばしやすいんですよね。それが日本と米国の生産における大きな違いのような気がします。

写真3

 きれいな牧場のダーレー(写真4)に繋養されている1頭、私の好きなストリート一族(と勝手に呼んでいます)の1頭、ストリートセンス君(Street Sense、写真5)。まだまだ世代を重ねていませんが、昨年亡くなったストリートクライの枝葉は、意外と広がる気がしています。

写真4
写真5

 もう1頭のダーレー繋養!先日日本のダーレーから帰国したハードスパン君(写真6)。先日も産駒のマフトゥール(Maftool)がドバイのUAE 2000ギニーを優勝。ダンジグ系の種牡馬ですね。○○系というのも、世代が変わって呼び名が変わっていくのですが、そのうちにタピット系、カーリン系と呼ばれるようになり、自身の肉体的な老いを徐々に感じていくのが競馬というスポーツを愛する人間の宿命なのでしょう・・・。この他にも、メダグリアドーロ、イルーシヴクオリティ等も見せてもらいました。ダーレーオフィスにいた女性のスタッフに、私と同行されたお客さんが日本から来ている方であることを告げると、快く馬の名前の入ったベースボールキャップをくれたりして、なんともフレンドリーでした。ちなみに私の頭は米国人と比較して大きいらしく、アメリカのベースボールキャップは一切フィットしないため、辞退しました(泣)

写真6

 これらの種牡馬はまだ一握り。他にもノーザンアフリート、オールドファッションド、マリブムーン等々多くの一流サイアーたちを見学させてもらいました。馬見の勉強にもなりますね。同時に思ったのは、これは世界のダーレー、スペンドスリフト、ウィンスターファーム、テイラーメイドファーム等々、一流の牧場を堂々と見学できるチャンスでもあります。米国には大きな牧場がいくつもありますが、種牡馬を繋養している牧場は、どこも本当にきれいで優雅なのです(写真7)。馬を見学しなくても、マイナスイオンが出ていて癒やされそうな・・・そんな風景がどこにも見られます。

写真7

 どうでしょう。11月にケンタッキーに行く口実ができたのではないでしょうか?馬・一流牧場を見学しつつ、大自然で癒される。2~3日あれば十分です。ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。