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 12月。気温の低下と反比例するように、競馬は年末に向けますまず熱を帯びる。それに多少先んじながら、晩秋から冬にかけてクライマックスを迎えるスポーツ界。プロ野球、Jリーグなどはすでに全日程を終えたが、一瞬の歓喜、そして悲劇……多くの観客が興奮の中にその身を投じたに違いない。スポーツがシーズンオフにさしかかると必ずといっていいほど話題にあがるのが選手の引退。野球なら松井稼頭央、新井貴浩、岩瀬仁紀……、サッカーなら川口能活。名選手たちが今年も現役生活にピリオドを打った。

 体力、気力の限界が先に来てから引退を決意する場合、現役生活の晩年は全盛期に比べてパフォーマンスを落とす場合がほとんど。底を見せないまま現役を終えることは奇跡に等しい。だが、パノラマビューティは7歳で迎えたこの東京シンデレラマイルを勝利、結果としてラストランとなったこのレースで、最高のパフォーマンスを発揮している。

 父に菊花賞馬ダンスインザダーク、母の父はリアルシャダイという血統背景を持つ本馬のデビューはJRAの芝レース。新馬戦を制した後、一貫して芝コースで一進一退のレースを続け、JRAで計3勝ののち、6歳秋に南関東に転入。10月のTCKディスタフ(現レディスプレリュード)で初めてダートでのキャリアをスタートさせた。そこで10番人気の低評価を覆し3着と好走すると、浦和での自己条件戦でダート初勝利。その後も前年の東京シンデレラマイルでは不利がありながら2着、TCK女王盃3着と好走を重ね、前走クイーン賞では3着とJRA勢相手に健闘を見せた直後に臨んだのがこの東京シンデレラマイルだった。

 レースは五分のスタートから他馬を行かせてまず最後方。向正面から徐々に位置取りを上げると、圧巻は4コーナー。スピードに乗った先行馬が外に振られたと見るや、瞬時に進路を最内へと切りかえ、それまで外を回していたレース同様、いやそれ以上にも思える末脚を爆発させた。外から差して迫った馬もいたにはいたが、コーナーでの距離ロスは大きくゴール前の勢いも結局互角になったところまで。審議対象にはなったものの、まさに馬の全能力を発揮させる好騎乗で、パノラマビューティはその現役生活の最後に強い輝きを放ったままレースから離れることとなった。

 その直後に繁殖入りし、翌年生まれた産駒からここまで計5頭の産駒がデビュー。2015年産アミーキティアはJRA2勝と母に一歩一歩近づいており、先月船橋で初出走を果たしたシュプレノンはそのレースを快勝。その産駒がここTCKで勝つ日も、そう遠くはないだろう。

日刊競馬 佐藤 匠