レースヒストリー

 2008年、10回目を迎えたジャパンダートダービー。戦前から常に話題の中心にいたのは関東オークスを楽勝し、白毛馬による初のJpnⅠ制覇を狙って参戦を表明したユキチャン。引き続き鞍上には武豊騎手。大勢の競馬ファンが期待に胸を膨らませて決戦の舞台となる大井競馬場へと向かいました。しかし、当日になって事態が急変。何とユキチャンは蕁麻疹に見舞われて無念の競走除外に。突然、レースの目玉が姿を消し、落胆したファンもかなりいたはず。そんな競馬場を包むトーンダウンしてしまった空気を一変させる走りをサクセスブロッケンが見せます。

 レース当日の馬場状態は不良馬場。スタート後、主導権を握ったのは前走、兵庫チャンピオンシップを早目先頭から押し切ったナンヨーリバー。単勝オッズ1.2倍と圧倒的な1番人気に支持されていたサクセスブロッケンは、2番手でナンヨーをピタリとマーク。古馬となってからダート王に君臨したスマートファルコンは内の3番手を追走。東京ダービーでは10番人気という低評価を覆して差し切り勝ちを収めたドリームスカイは後方を進み、向正面に入ると徐々にポジションを上げていきます。3コーナーを過ぎたあたりでサクセスブロッケンが、楽な手応えのままナンヨーリバーの外へ進出。2頭の馬体が並んだのはほんの一瞬でした。直線に向いて横山典弘騎手がゴーサインを出すとサクセスブロッケンはグンと加速、漆黒の馬体をまるで弾丸のように躍らせて、あっという間に突き放してしまいます。スマートファルコンが代わって2番手に浮上。何とか食い下がろうと試みますが、1度広がったリードはなかなか詰まらず3馬身半差の2着。そこから8馬身離れて3着に終わった船橋所属コラボスフィーダが、地方所属馬では最先着。次いでドリームスカイが入線しましたが、とにかくサクセスブロッケンの強さだけが目立った競馬でした。ユキチャンを目当てに競馬場に詰めかけていた人々のド肝を抜く圧巻のパフォーマンス、レース前には『白』の衝撃を、終了後には『黒』の衝撃を同時に味わった一日となりました。

 そんなサクセスブロッケンがデビューしたのは2007年11月。JRA福島競馬場で土曜午前に行われた11頭立て、ダート1700Mの2歳新馬戦でした。あまり注目度が高くはないこのレースで楽にハナを切ると、3コーナー過ぎからは後続がついてこられず、結果、2着馬を3秒以上も離しての圧勝劇。レース後、手綱を取った中舘騎手(現JRA調教師)は「欠点がない素晴らしい馬」とその資質を絶賛していました。ジャパンダートダービー後、しばらく勝ち星に見放されていましたが、翌年2月のフェブラリーSではカジノドライヴ、カネヒキリとの大接戦を制してレコード勝ち。そして、同年暮れの東京大賞典は直線半ばからヴァーミリアンと長く激しいデッドヒートを繰り広げ、最後にハナ差だけグイッと前に出て栄冠を掴み取りました。ゴール後、鞍上の内田博幸騎手は拳を握り締めて小さくガッツポーズ。喜びを爆発させることも多い同騎手ですが、いかに死力を尽くした叩き合いであったかを物語る印象的なシーンでした。

競馬ブック 善林浩二