東京ダービー

名馬ヒストリー

 先日、競馬が大好きな大学時代からの友人が大井競馬場に遊びにきた。パドックで再会し、昔話に花を咲かせていたらパドックの輪の中にこれからレースを走る馬達がでてきた。まだ新聞に目を通していない友人が、周回をみていると「この2歳馬、ヴァーミリアンに似ているな。」と不意に一言発した。

 新聞の馬柱で血統を確認すると、“父ヴァーミリアン”と確かに書いてある。昨年地方へ転勤になった友人とは、彼が東京にいたころは頻繁に競馬場へ一緒に出かけていた。その彼が好きだったのがヴァーミリアンだった。おそらく関東圏でヴァーミリアンが出走したレースはほぼ見に行っていたはずだ。「黒くて迫力ある馬体が好きだった。ただ追い切りとかあまり動かなくて不安になるような時もあったけど、レースに行くとしっかり結果をだす。そんな掴みどころがない感じも妙に魅かれて。あと、どこか自分に似ている」といつも言っていた。その発言への返しは決まっていて「お前は確かに体はでかくてそこは似ているけど、ヴァーミリアンのように歴史に残る大物じゃないだろ」と言う。すると彼は必ずこう言い返す。「小さいころから習っていたけど中学時代は剣道が強かった。けど、3年間唯一勝てなかった相手がいてさ。そこが似ているんだよ。ヴァーミリアンもカネヒキリには勝てなかったけどそれでも力は拮抗していて、本当にいい勝負だった」と。そして「でもやっぱり比べたら失礼だな。剣道といっても小さな町の中学レベルだけど。」と笑いながら何度も交わした会話をしながら、パドックでその若駒をジッと眺めていた。

 ヴァーミリアンは言うまでもなくダート界の頂点に君臨し一時代を築いた名馬。漆黒の馬体で、威圧感あるオーラを醸し出していた姿が印象的だ。東京大賞典には3回出走し1勝2着2回。その3戦はいずれも忘れられない名勝負で、2着2回は共にタイム差なしの大接戦だった。

 大井競馬2戦目となった2007年第53回東京大賞典は5歳時に勢いのある南関東の次世代エースとして名乗りを上げた3歳馬フリオーソ相手に4馬身差をつける完勝。唯一上がり36秒台、一頭だけ次元の違う競馬。この年は1月に川崎記念、JBCクラシック,JCダートそして大賞典と秋の3大レースを制し、高らかにヴァーミリアン時代到来を宣言した。翌年も川崎記念は取消となったが、フェブラリーSを制し、ドバイにも再度挑戦。帰国初戦のJBCクラシック連覇で飾り国内ではもはや敵なしかと思われた。次走は連覇を狙ったJCダートだったが、そこに年末の東京大賞典で名勝負を繰り広げるライバルが登場する。それは2年の休養をえて奇跡の復活を遂げるカネヒキリだった。

 2004年10月にデビューしたヴァーミリアンは最初芝でのデビューだった。新馬戦は一番人気に押されて3馬身差の快勝で注目され、その後2着が続いたが、好メンバーが揃った暮れの阪神競馬場で行われた重賞ラジオたんぱ杯2歳Sを勝利し一躍クラシックの主役候補に名乗りを上げた。しかし3歳になり重賞戦線で人気になるが、精彩を欠く競馬で大敗が続いてしまう。半兄サカラート、半姉スカーレットベルの活躍もあってダート戦に矛先を変え久々の勝利を飾ると、次走の浦和記念でアッサリと重賞勝利を決める。以降はダート路線で王道を歩み始める。

 同じ2004年デビュー。芝で2戦し結果が出ず、3戦目でダートに転向すると連勝が続き、強さだけが際立つ競馬で一気に頂点まで上り詰めていたカネヒキリ。その後も実績を重ね、日本のトップとして名を馳せたが、屈腱炎を発症し、長期休養に入る。 2006年のフェブラリーS、前年のJCダートを制したカネヒキリと、勢いに乗ってきたヴァーミリアンこの2頭の初対決。結果はカネヒキリが完勝で勝利を決め、ヴァーミリアンは0.9差の5着に敗れた。その後カネヒキリは屈腱炎で長期休養に入り、再び対決するのは2008年のJCダートになる。同レースでは0.1差の大接戦の末、再びカネヒキリに軍配があがり、リベンジとはならなかった。

 そして3度目の対決となったのが、第54回東京大賞典。

 一番人気に押されたヴァーミリアンは道中カネヒキリをマークしながら進む。3コーナー過ぎから2頭同時に計ったように動きだし、前を行く3番人気サクセスブロッケンを射程圏に入れ4コーナーでは馬体を併せるように直線へ。サクセスブロッケンと3頭の激しい叩き合いから残り一ハロン過ぎ、カネヒキリと、ヴァーミリアンが2頭抜け出した。ヴァーミリアン、カネヒキリ。武豊とルメール。共に35秒台前半の上がりで、お互いに一歩も譲らない激しいしのぎ合いの末、カネヒキリがクビ差出たところがゴールだった。2:04:5の戦いは今でも目に焼きつく、記憶に残る名勝負だった。

 その後ヴァーミリアンは、JBCクラシック、川崎記念、そして帝王賞を勝利し更に勲章を増やし、2010年のJCダートを最後に引退し種牡馬入りした。2歳でデビューし、8歳で引退するまで毎年休まず、重賞を勝ち続けてきたヴァーミリアンは強い姿のまま、現役生活を力強く駆け抜けていった。

 友人がパドックで気づいたヴァーミリアン産駒は残念ながら3着だった。その日の帰り際「産駒もたくさんいるみたいだし、また競馬を見る楽しみが増えたよ。重賞を勝つ日が来たら最高に嬉しいね。東京大賞典を勝つような産駒が待ち遠しい」と興奮しながら話していた友人の顔は、ヴァーミリアンを応援していたあの当時のままだった。

 今年デビューの産駒は地方・中央共に幸先のいいスタートを切っている。産駒達が活躍し、重賞戦線を賑わし、そしてあの時の東京大賞典のような熱い戦いを繰り広げてくれる日が必ず来るはずだ。 日刊競馬 市川俊吾

■ヴァーミリアン
生年月日 : 2002年4月10日
血統 : 父 エルコンドルパサー
母 スカーレットレディ
生産 : 北海道勇払郡早来町・ノーザンファーム
きゅう舎 : 石坂正 (JRA)
生涯成績 : 33戦15勝2着5回
主な勝鞍 : 第59回川崎記念
第9回JBCクラシック
第32回帝王賞
第8回JBCクラシック
第25回フェブラリーステークス
第53回 東京大賞典
第8回ジャパンカップダート
第7回JBCクラシック
第56回 川崎記念
第6回名古屋グランプリ
第51回 ダイオライト記念
第26回 彩の国 浦和記念
第21回ラジオたんぱ杯2歳ステークス

2007年東京大賞典レース映像はこちら