第71回 東京大賞典 [GI]
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レースヒストリー

TOKYO DAISHOTEN

 水元 尚 56歳 職業 競馬専門紙取材記者。大学を卒業後現在の会社に就職し34年、入社直後の研修期間中にJRA美浦トレセンで見習いトラックマンをした以外は、大井競馬場でトラックマンとして調教時計を採り、調教師にインタビューをし、専門紙に記事を書き全レースの予想を付け続けてきた。ただひたすらに馬齢を重ねているが長く同じ仕事をしているといいこともある。過去34年間の東京大賞典を全て現場でライブ観戦、これは何物にも代えがたい宝物だろう。

 今回このレースヒストリーの執筆を引き受けてどの大賞典を取り上げるか考えた時、今でも頭の中に色鮮やかに甦る30年以上前のレースを選ぼうとも思ったが老害とのお叱りを受けそうなので、今まで自分が実際に見てきた大賞典馬の中で最強の馬について書こうと思う。(僕の心の中の最強馬は第36回優勝馬ダイコウガルダンなんだけど、それはひとまず脇に置いときます。)

 過去最強の東京大賞典優勝馬、競馬ファンにアンケートを取ればまず90%以上の人が昨年の第70回優勝馬フォーエバーヤングを選ぶと思うし、僕も間違いなく最強馬だと思う。
 この仕事を始めた頃、ダート競馬の聖地は米国だった。識者曰く「日本のダートと米国のダートは質が全く違う、日本の馬が対応できるわけがない」「米国馬のスピードとパワーは破格」そんな伝説めいた話をみんな信じていた。とても日本のダート馬が米国で通用するとは思えなかった。凱旋門賞に多くの日本のG1馬が挑戦し欧州、中東、香港、豪州の大レースで日本馬が大活躍するようになっても米国のダートの大レースは日本馬にとって遥かな高みにあるレースのような気がしていた。

 その米国ダート競馬最強神話をついに打ち破ったのがフォーエバーヤング。昨年のケンタッキーダービー、ブリーダーズカップクラシックともに3着。3歳馬には苛酷なローテに耐え抜き米国の強敵と互角以上ともいえる熱戦を繰り広げた。昨年11月3日にブリーダーズカップで3着後、帰国したフォーエバーヤングが次に選んだのが12月29日に行われた第70回東京大賞典。今考えてもあの日の大井競馬場の盛り上がりは近年の東京大賞典の中では最高だった、僕も東京大賞典のテレビの特番に出演し「フォーエバーヤングは絶対勝つのでここから馬券を買えば絶対当たります。どんどん馬券を買って下さい」とファンの熱気にさらにガソリンを投下しました(笑)
 そして渦巻くファンの歓声の中、フォーエバーヤングは4コーナー手前で一瞬手応えが怪しくなりヒヤリとさせながらもゴール前はしっかり伸び完勝。日本のダートキングの地位を確定させた。今回この原稿を執筆するにあたり昨年の大賞典を見返すと、右回り左回りの違いはあれど先日行われたブリーダーズカップクラシックと瓜二つのレース内容。好位から早め先頭で押し切る横綱相撲が王者には良く似合う。

 フォーエバーヤングを管理する矢作芳人調教師のお父さんは、僕もたくさんお世話になった大井の矢作和人調教師。その愛弟子で鞍上を任されている坂井瑠星騎手のお父さんは、大井のトップジョッキーで現調教師の坂井英光。もはや準大井所属と言ってもいいくらいのバックボーン。僕は騎手時代の坂井英光のエージェントを長年務め苦楽をともにしてきた。瑠星騎手も子ども時代からよく知っているので、昨年の大賞典制覇と今年米国でのブリーダーズカップクラシック制覇は絶叫するほどうれしかった。34年もの間、同じ場所で同じ仕事をしてきたからこそ歴史の証人になれたのかな、とちょっとだけ誇らしい気持ちもある。そしてフォーエバーヤングのブリーダーズカップクラシック勝利によって、東京大賞典のレース名も世界の競馬史に刻まれた。大井競馬をこよなく愛するファンの一人としてフォーエバーヤングと関係者の皆様に深い感謝を捧げたいと思います。 了


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