ジャパンダートダービー 名馬ヒストリー

カネヒキリ。馬名の由来はハワイ語で「雷の精」。まさに稲妻のような衝撃の走り、力強く逞しい、そして栗毛のきらびやかな馬体。ザ・ダート馬に相応しい惚れ惚れする馬体の持ち主。かくいう私もその馬体に魅了された一人である。
母父がアメリカで活躍し、日本でもお馴染みのフレンチデピュティやデヒア、東京大賞典馬トーヨーシアトルを輩出のデピュティミニスターということもあり、ダートへの路線変更はその後の快進撃を見る限り、定めのようなものだったのかも。父フジキセキは芝GI好走馬が確かに多いが、グレイスティアラが全日本2歳優駿を勝ったように、ダートの適性も抜群である。
獲得したGI、JpnIタイトルを見返すと、ジャパンカップダート、フェブラリーステークス、東京大賞典、川崎記念、そしてジャパンダートダービー。帝王賞は2度挑戦しアジュディミツオー、フリオーソ地方の雄に2着と苦杯をなめたが、日本ダート界最強馬といっても過言ではない輝かしい成績である。順風満帆にも思える競走馬生活だが、競走馬の宿命ともいえる屈腱炎、骨折に泣かされた。たらればは意味がないが、無事であれば、繰り上がりの4着に敗れたドバイワールドカップ制覇も夢ではなかったかもしれない。その5年後の2011年、日本代表として挑んだヴィクトワールピサがカネヒキリの無念を、日本全体が沈んでいる中、競馬ファンに勇気を与える歴史的勝利でカネヒキリもさぞ喜んだことだろう。

数多く制したGI、JpnIのなかで初勝利が3歳夏ジャパンダートダービーである。端午ステークス、ユニコーンステークスと他馬を寄せ付けない、あきれるくらいの強さ。2001年単勝元返しのトーシンブリザードには及ばないが、どんな勝ちっぷりを見せるかが焦点のような1.1倍の圧倒的支持。レースは好位追走から4コーナーで先頭のまさに正攻法。抜かりのない展開で、羽田盃、東京ダービーともに2着と南関東で力上位のメイプルエイトに4馬身差の完勝劇。世代レベルを疑われもしたが、3着は後に帝王賞勝ちのボンネビルレコードや現在も活躍中のマズルブラストなど活躍馬ズラリ。これらライバルを押しのけて、一気にスターダムへのし上がった。同年、芝クラシック路線では引退した今でも、種牡馬として快進撃を続けるディープインパクトになぞらえて、同馬主、鞍上武豊騎手ということもあり、「砂のディープインパクト」と呼ばれ始めるようになった。種牡馬となったカネヒキリも、今度は父としてディープインパクト産駒に真っ向から勝負を挑んでもらいたい。2014年の産駒デビューが楽しみである。

日刊競馬 編集部 鈴木宏哉