重賞名馬ストーリー

重賞名馬ストーリー vol.21

黄金時代を闊歩した異才 チュウオーリーガル ~金盃~

 南関東黄金時代といわれる1980年代中期。サンオーイ、テツノカチドキ、ロッキータイガー、スズユウ、カウンテスアップなど競馬史に残る名馬たちが燦然と輝いていたこの頃。ジャパンカップが創設され世界へと門戸が開かれたが、地方競馬代表はわずか一頭。その地方ナンバー1にだけに許されるたった一枠の権利を獲ながらも、レース直前のアクシデントにより出走が叶わなかった馬がいる。三冠馬サンオーイと同じ時代に生きたチュウオーリーガルである。

 2歳(現表記)6月にデビューしたチュウオーリーガル。父ファラモンドから継ぐ狂気の血は、入厩当初からまともな調教ができないほど激しさを見せ、いざレースへ臨むとゲートで立ち上がって五分のスタートを切ることができなかった。「厩舎に来て能試前までは石川綱夫さんが乗っていたんだけど調教時間がかち合う馬がいて俺が乗ることになった。馬体はすらりとしていたが見栄えがいいってわけではなかったし、当時から素質を感じてたら石川さんも手離さなかったんじゃないかな。立ち上がろうとするし、引っ掛かって調教が難しいから他の馬がいなくなる遅い時間しか馬場に出せなかったしね」と緒戦から引退まで手綱を握った佐々木洋一騎手(現調教師)。当時は減量特典が切れたばかりの19歳。調教師となった今でも「癖馬の達人」として鳴らしているが、若き日から矯正を得意としていた。「あんな口の硬い馬も珍しかった。引っ掛かって抑えきれないから調教用の手綱に、握って滑らないように特注で皮を2箇所つけてもらってね。ゲートも入りを嫌がるだけでなく、中で立ち上がろうとする。御しきれないほど動きが速くてタイミングを計れない。デビュー戦も出遅れてしんがりから。直線一気で追い込んで2着だったけど、若馬らしくない内容だったね」。以降も毎回出遅れて、初勝利は距離が延長された4戦目のこと。この難題は生涯続いた。

 「青雲賞(現在のハイセイコー記念)の前日に三郎さん(高橋三郎騎手)のところに行ってどういう風に乗ったらいいか相談したんだ。三郎さんはケガで休んでいて青雲賞に乗り馬がいなかったから。『できたら中団くらいにつけてとにかく焦らず乗れ、絶対にインコースには入るなよ』とアドバイスをくれてね。意識して乗ったら勝つことができた」。19歳での初重賞制覇になった。ゴールドジュニアー勝ちサーペンスールは2着、サンオーイが3着だった。ところが青雲賞のあと歩様がおかしい。調べてみると種子骨骨折が判明。春クラシックを棒に振るしかなかった。9ヶ月ぶりに復帰するといきなり古馬との対戦で勝利。その2戦後を、当時の第三冠目である東京王冠賞にぶつけ、追い込んだが間に合わず2着。サンオーイが三冠を達成した瞬間でもあった。サンオーイが東京大賞典も勝ってそのまま中央入りすると、金盃では圧倒的一番人気。「タガワリュウオーが3コーナー捲っていったなぁくらいに見てじっと後ろで馬を我慢させた。息をするのも馬に気がつかれないようにそーっとね。行きたがってる馬は呼吸ひとつでビューと行っちゃうからね。直線引き離してたから勝ったと確信して、思わずうれしくて右手があがっちゃってね。我に返るとゴールまでまだあるわけ。慌ててまた追って(笑)」。 完勝して、さあこれから王道となったチュウオウリーガルだったが、今度は反対側の種子骨骨折が判明。再び長期休養に入らなければならなかった。

 復帰戦となった半年後の関東盃は5着。NTV盃ではトムカウントの2着。そして次なる東京記念は第4回ジャパンカップ地方代表の選考レース。代表候補には川崎記念馬ダーリンググラスの名も浮上し結論は東京記念次第ということになった。誰もが注目する一戦だったが、案の定出遅れ。道中はダーリンググラスと並んで後方から。先に勝負を賭けて捲り気味にスパートしたチュウオーリーガルがあっという間に先頭に。テツノカチドキを振りきって堂々代表権を獲得した。

 ジャパンカップのひのき舞台。スタート難をもう一度チェックしたいということで特別に行われた再発走試験も何とかクリアした時点で「地方代表として臨む国際レースに若干21歳の若手騎手には荷が重いのでは‥」という問題が生じた。結局、鞍上は高橋三郎騎手でいこうということになり、レースの数日前には最終追い切りのため府中コースに運んだ。しかし、この最終調整で管骨を骨折。運命のいたずらとしか言いようがないが、ジャパンカップ出走は夢と散ってしまった。「あの爆発力を広い東京コースで発揮できていたらどうなっていただろう。あれだけの上がりで直線伸びてくる馬はあの頃でもそういなかったからね」と佐々木騎手は振り返る。この骨折により引退が決まり、17戦7勝・2着7回・3着2回という濃密な競走生活の幕引きは突然やって来たのだった。

中川明美 (競馬ブック)

※この原稿は、過去のレーシングプログラムに掲載されたものに、加筆・訂正を加えたものです。