重賞名馬ストーリー

重賞名馬ストーリー vol.05

孤高のプリンセス アインアイン ~東京プリンセス賞~

 南関東の牝馬クラシックは成長期にある若き乙女たちの闘いであることに加え、浦和、大井、川崎と、異なる競馬場が舞台とあっていつも波乱に満ちている。

 平成12年。14代プリンセスに輝いたのはアインアイン。6番人気で単勝1160円。2着には14番人気のベルモントルビーが飛び込んで万馬券になった。現在と違って桜花賞、関東オークス、東京プリンセス賞と三冠目に位置付けられていたが、アインアインは順を踏んでクラシックを歩んだ馬ではない。

 当時の赤間厩舎にはカツベンテン、ウツミダンスダンスという有力牝馬がおり、アインアインに対して陣営は牡馬相手にキャリアを積むことを選択した。「子供の頃の怪我で肩から胸前にかけて大きな山傷があってね。そのせいか臆病で反抗心が強くて、仕上がるのに時間が掛かった。臆病だったからこそ逃げ馬になったんだろうね」。入厩時から引退まで手がけていたのは石川力厩務員。入厩時560キロあった馬体にゆっくり時間をかけてデビューは秋。「最初に受けた能力試験では枠入不良で不合格。2度目で受かって新馬戦勝ったけど、3歳優駿牝馬(現在の東京2歳優駿牝馬)に出られるかどうかって時にまたゲート不合格で再検査。なかなか順調にはいかなかった。結果的に、路線から外れて男馬とバンバン対戦して力をつけたのが良かったのかな」。
半端じゃない反抗心。特に右回りを嫌がり頑として動かなくなることもあったが、それでもなぜか市村誠騎手(現調教師)が跨るとうまく操れたという。「相性が良かったのかな。叱るタイミングとかポイントが合っていたんだと思うよ。重心がしっかりした馬だったから乗り心地は良かった」と相思相愛。アインアインが亜流からプリンセスに輝いたのは根気よく気性面と向かい合った市村騎手と石川厩務員ふたりの支えによるところが大きかった。

 そして第14回東京プリンセス賞。「とにかくスピードある馬だから、2番枠を引いた時にはこりゃもう行くしかないって思った。ロケットスタートから道中はそんなに速くないペースで単騎逃げ。ゴール前止まる様子もなくまた伸びてね。あの時が一番強いレースをしたよね。あのメンバーでのちにオープンで活躍したのはアインアインだけ。そう考えると能力が違っていたのかもしれないね」と市村騎手は振り返った。
そして2年後には指定交流の東京盃でも逃げ切り、さらなる大輪を咲かせた。

 時を経てアインアインは母になった。そして市村騎手は調教師になった。「プリンセス賞から2年勝てなくてね。だんだん使う距離を縮めても結果が出なくて何度も鞍上をクビになった。それで他の誰かが乗るんだけど、結局また頼まれての繰り返し。東京盃を勝つことができた時は最高にうれしかった。自分が厩舎を開業する日も近づいてきたが、いつかアインアインのような仔を手がけてみたいね」と今ひとたび想いを巡らせた。


第14回東京プリンセス賞 アインアイン号

中川明美 (競馬ブック)

※この原稿は、過去のレーシングプログラムに掲載されたものに、加筆・訂正を加えたものです。