TCKコラム

TCK Column vol.56

アジュディミツオー&内田博幸騎手、ドバイへの挑戦 前編

 管理しているのは、地方のリーディングトレーナー(収得賞金)川島正行。鞍上は、地方のリーディングジョッキー内田博幸。そして、偉大なる父は地方のリーディングサイヤー・アジュディケーティング。地方の最高傑作たちが集結しているアジュディミツオー・・・この馬が地方所属馬として初めて世界に挑戦したのは、かけがえのないほどに大きな意味を持っていたと思います。地方に関わる一ファンとして、この歴史的瞬間に立ち会いたい。わたしも、ナドアルシバ競馬場に足を踏み入れていました。初めて訪れたそこは、これまで味わったことのない別世界。(詳しくは、後編でお伝えしますね)ドバイ時間の3月26日午後9時20分(日本時間27日午前2時20分)。ミツオーが世界に登場しました。

 わたしがちょうどドバイ入りしたのがレース前日。さっそく関係者の皆さんに仕上がり具合いを確認してみると、全員が好調さをアピール。初めての飛行機輸送も環境の違いもクリアーし、普段は気性の激しいミツオーが非常に落ち着いている(もちろん激しいところは残しつつ)。JBCクラシック(2着)の仕上がりは、デビュー以来最高の状態でしたが、今回もそれに匹敵するくらいのもの。何事も始めてというハンデを考えれば、最高の仕上がりと言ってもいいくらいのものでした。これまで夢物語にしか過ぎなかったことが、いよいよ明日には現実のものになる・・・そんなこともまったく?感じられないほど、関係者の皆さんは非常に明るい雰囲気でリラックス。それだけ「やることはやった。後悔しない仕上げができた」満足のいく表れだったのかもしれません。異国の地にもかかわらず、世界最高峰のレースを前に、ベストの仕上げができたというのは何より。お馬さんたちにとって、日本にいたってそれが本当に大変なことだから・・・。 内田騎手は「大井のレコードを破るタイムで2度も走っているんだから本当に強い馬ですよ。スピード、スタミナ、パワーすべてを兼ね備えていて、ゴールまでスピードを落とさずに持っていけるタイプです。馬を信用して焦らないで騎乗します。レース前には、頭の中でいろいろ考えません。スピード競馬だし、頭で考えて行動していたら、ワンテンポ遅れてしまう。たしかに砂質が違うとか相手も変わるというのはあるんだろうけど、考えすぎないようにしながら、馬の力を出し切るだけ。(プレッシャーは?という質問に)レースはどこにいても一緒でしょ?僕も南関東や中央でいろんな経験をしてきているから・・・大丈夫。楽しみたいです。」と笑顔でコメント。

いよいよレースが迫り、ミツオーは誘導馬に導かれ、先頭でパドックに登場しました。大井競馬場のナイターよりも、より一段とこうこうとたかれた照明に戸惑わないか心配でしたが、非常に落ち着き払って周回。ナドアルシバ競馬場でのパドック周回は、日本と違って短いもの。3周ほどで馬場に出てしまいます。ミツオーを挟んで、向かって右側に藤川伸也厩務員、左側には佐藤裕太騎手。(裕太騎手はミツオーの攻め馬をつけていることでも知られていますが、今回も最終調整には駆けつけて最後までしっかり仕上げました。裕太騎手がパドックで馬を引く姿というのもなかなか見られませんから、貴重な写真です)


かよこ撮影

内田騎手が跨がると、ミツオーは急に気合い乗りが激しくなったため、すぐ馬場へ。あとは、レースを待つばかりとなりました。

 作戦は、ミツオーがハナを切り、その外に大注目のローゼズインメイを走らせるということ。しかし、ミツオーは少々出遅れてしまいさらには行き脚がつかなかったため、作戦通りにはならず・・・それでも内田騎手の好判断が光り、徐々に4,5番手の位置から上がって行き、最終的には2番手につけ、先頭を走るローゼズインメイをぴったりマーク。ナドアルシバ競馬場の直線は600メートルとしても知られています。その直線の手前では内田騎手のステッキが入り、手応えが怪しくなってしまいました。それでも最後まで粘り6着でゴールイン。優勝したのは、昨年秋のブリーダーズCクラシック2着のローゼズインメイが評判通りの強さを披露。5着までがアメリカ産で、その中にはアメリカ調教馬が4頭。ダートの本場アメリカの底力を痛感させられたレースでした。


写真提供:森内 智也

 レース後、内田騎手はたくさんの報道陣に囲まれて、淡々と話してくれました。「元々、スタートの1完歩目が早くないから、今日も一瞬置かれてしまいました。徐々に外に出して、4・5番手から前に上がっていって、3番手、2番手とスムーズに上がっていけたと思います。しっかり折り合いもついていました。ただ直線に入る手前で、手応えがあまりよくありませんでしたが、それでも最後まで粘ってくれました。パドックの気配も走りも、堂々としていたと思います。競馬の内容は良かったです。ナドアルシバ競馬場のダートも、走りやすそうなステップを踏んでいました。馬場の経験がない分マイナスでしたが、これから経験を積んでいけば、もっと強くなっていくと思います。結果は出せませんでしたが、ベストを尽くしました。馬を褒めてあげたいです。こういう機会を作ってくれた織戸オーナーと川島先生には感謝しています。僕自身もこんな素晴らしい経験をさせてもらって、これからの技術の向上とレースへの姿勢が変わってくると思います。いつもと変わりなく騎乗することができたし、楽しく乗ることができました。世界は広いですね・・・。また来たいです。」
川島調教師も時より笑みをうかべながら、すがすがしい表情。「よく走ってくれたね。今日は落ち着いていて、いい雰囲気でゲートに向かった。これだけの強豪を相手に粘れたということは、馬にも自信になったと思うよ。スタッフたちも、よくここまで馬を作り上げてくれた。これを一つのステップとして、まだドバイに行きます。ファンの皆さんに結果を出してあげられなかったことは辛いけど、でも、この強豪相手に6着に入ったことは本当に立派なことだから・・・。頑張って走ってくれたよ。帰ってきたから、ミツオーをかわいがってあげましょう。」

 日本の皆さんの中には、6着という着順だけを見て、いろんな声があるかもしれません。しかし、世界の強豪相手に初めての経験をすべてクリアーし、6着入賞!! しっかり入着しているんです。さらにはレース内容も非常に濃いもの。実はこんな裏話もあるんですよ・・・ナドアルシバ競馬場の検疫所内にいる世界を知るプロの方々の評価では「最低でも4着には入るだろう・・・」とそんな高い評価だったんですって。だから逆に、6着という結果を不思議そうにしていたくらい・・・やはりそれは、初物づくしだったこととキャリアの差が出たのかもしれません。経験はこれから積んでいけばクリアーできる!!ミツオーのレベルは、世界に通ずるのものだったんです。
これまでは遠くて未知なるものだった地方所属馬の世界挑戦・・・ミツオーの頑張りと陣営の皆さんの努力で「世界って、実はこんなに身近なところにあったんだなぁ・・・近い将来、地方所属馬が世界の頂点に立つことも遠くはないかも・・・」そう思わずにはいられませんでした。今回の挑戦により、地方所属馬が世界に挑戦することも、どんどん増えてくると思います。川島調教師はレース前日「明日、歴史が変わる」と言っていました。地方所属馬が、ごく当たり前のように、世界の舞台に登場する・・・アジュディミツオーがその歴史を変えてくれたのです。


写真提供:森内 智也

なおミツオーは、ドバイ時間3月28日午前10時の飛行機で日本に帰りました。そのまま白井のJRA競馬学校に入り、4月11日には船橋へ帰ります。今後の予定は未定です。駆け足でお届けしましたが、まだまだ話し足りないことがたくさんあります。で、後編では別の角度からご紹介していきます。
今回感じたこと・・・これが始まりということ。

3月29日ドバイにて 高橋華代子