TCKコラム

TCK Column vol.55

走り続けた理由:チャンピオンスター(全5話)

命を追い求めた馬生編

すべてのレースを全力で走る7歳馬。
1億円ボーナスに王手をかけるべく、
9月5日中山競馬場開催のオールカマーに参戦する。
鞍上の高橋三郎に伝わった大きな振動。
新たな馬生の始まりが告げられた。
期待された新たな馬生は、
たった2ヵ月で突如終わりの幕が下ろされる。
まるで、種牡馬として活躍できないことが分かっていたかのように、
走り続けられるだけ、走り続けた馬生。
この世に残されたのは1頭の後継馬。
これも果てしなく過酷なブラッドドラマの一面である。

1頭の後継馬

7月10日、川崎競馬で開催されたファン投票によるオールスターカップ。なんと5頭立てという超少頭数というレース。相次ぐ故障、辞退が重なったのだ。それでも中央競馬から移籍してきたインターアニマート、ダイコウガルダン、ホクトフローラ、タカラオーと南関東を代表する顔ぶれはそろった。
 レースでは、3番手チャンピオンスターが、直線で前にいたホクトフローラ、インターアニマートを交わし抜け出したかに見えたが、インターアニマートが二の脚を使って激しい競り合いとなった。競り勝ったのはチャンピオンスターであった。
 オーナーは当時九州長崎の雲仙普賢岳の噴火で震災した島原の被災者に、賞金から100万円を寄付している。

 1億円ボーナスに王手をかけるべく、9月5日中山競馬場開催のオールカマーに参戦する。だが……。
 レースでは折り合いがつかなく、後方からとなった。
「向正面から3コーナーにかかったところで、馬から『ガクッ』と大きな振動が伝わった。屈腱炎が再発した。芝に慣れていないだけに、脚に負担がかかったのかもしれない」。
 大差の11着に終わってしまった。脚は見ただけでも、その故障の具合が相当ひどいものと分かるほどだったという。
 現在では、手術すれば簡単に復帰できるのだが、当時は競走馬として断念しなければならない故障だった。

4歳時、重賞3連勝をして、地方競馬の王者に上り詰めた矢先、屈腱炎により1年10ヵ月におよぶ長期休養を余儀なくされた。
6歳秋に悲劇を乗り越え復帰するものの、年齢からこれ以上の活躍は無理とささやかれる。しかし、7歳で3年ぶりの帝王賞を制覇して、再び王者に返り咲き、絶対能力の高さを見せつけた。消長の激しいサラブレッドにとって、3年とは決して短くない時間だ。まさに前例のない快挙と呼ぶにふさわしい復活劇。24戦11勝、2着3回。重賞7勝という数字以上のものを残した。
 7歳まで走ったとはいえ、わずか24戦のキャリア。あまり体力を消耗していないため、当然ながら、種牡馬として大きな期待を担うことになった。当時で1株300万円、50株計1億5000万円のシンジケートが組まれたのだ。年明け春に、北海道新冠・八木牧場種馬センターに供用された。

だが……ここでも悲劇がチャンピオンスターに襲いかかる。3月の最初の検査では、精虫数に異常はみられなかったのだが、5月中旬までに13頭と交配したが、次々と不受胎が続いた。急遽、再検査した結果、1ccあたりの精虫数が通常の半数以下の1億足らず。活力50%、奇形率43%と非常に高く、生殖能力がないことが分かった。大学でも検査は行われたが、わずか2ヵ月でのこのような変化が起きた原因は不明だった。

 受胎したのは、わずか1頭のみ。その仔を残して、チャンピオンスターは種牡馬としての役割を終えた。
まるで、種牡馬として活躍できないことが分かっていたかのように、奇跡の復活を果たし、脚部不安を抱えながら競走馬として7歳まで、走り続けられるだけ、走り続けたかのようである。
走れども、走れども見えない「命」を追い求めた馬生だったに違いない……。

 受胎はオーナーが所有していたチャンピオンハート、1頭のみであった。仔は父と同じ栗毛の牝馬で、アレチャンピオンと名づけられ、大井競馬でデビューウインを果たす。高橋三郎も3戦目から騎乗し、チューリップ特別で勝利し、クラシックで活躍するが、早々に繁殖牝馬入りをした。
チャンピオンスターの血を受け継ぐたった1頭の後継馬。これも競馬がなせるブラッドドラマの厳しく、過酷な一面である。

チャンピオンスター 血統表

牡 栗毛 1984年5月9日生まれ 北海道浦河産・山春牧場
スイフトスワロー(USA)Northern Dancer(CAN)
Homeward Bound(GB)
スイフトロードロードリージ(USA)
ヒデユキ

チャンピオンスター 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
昭和61年
12月9日
大井 2歳新馬 1000 西川栄二 53 (2) 1 1:02.9
昭和62年
1年2日
大井 3歳 1400 西川栄二 54 (1) 1 1:30.4
1月28日 大井 葉牡丹特別 1600 西川栄二 54 (2) 1 1:44.8
2月13日 大井 水仙特別 1600 西川栄二 55 (1) 3 1:45.9
4月9日 大井 黒潮盃 1800 早田秀治 56 (4) 1 1:58.3
6月3日 大井 東京ダービー 2400 早田秀治 57 (3) 4 2:39.0
7月26日 大井 サマーC 1700 早田秀治 52 (2) 7 1:49.2
11月11日 大井 東京王冠賞 2600 早田秀治 57 (6) 2 2:52.9
12月23日 大井 東京大賞典 3000 高橋三郎 54 (4) 4 3:16.7
昭和63年
2年4日
大井 ウインターC 1800 高橋三郎 56.5 (1) 1 1:55.2
3月3日 大井 金盃 2000 高橋三郎 51 (1) 1 2:05.8
4月13日 大井 帝王賞 2000 桑島孝春 56 (3) 1 2:07.0
6月21日 大井 大井記念 2500 桑島孝春 57 (1) 1 2:42.8
7月27日 川崎 報知オールスターC 1600 桑島孝春 57 (1) 2 1:41.5
9月18日 新潟 オールカマー 2200 桑島孝春 57 (4) 15 2:14.6
11月2日 大井 東京記念 2400 高橋三郎 57.5 (1) 7 2:36.9
1年10ヵ月休養
平成2年
9年5日
大井 かちどき賞 1800 高橋三郎 55 (6) 4 1:56.5
10月24日 大井 グランド
チャンピオン2000
2000 高橋三郎 56 (2) 7 2:10.5
11月20日 大井 東京記念 2400 高橋三郎 55 (1) 1 2:34.3
12月13日 大井 東京大賞典 2800 高橋三郎 55 (3) 11 3:08.7
平成3年
2年26日
大井 金盃 2000 高橋三郎 57.5 (2) 2 2:06.7
4月3日 大井 帝王賞 2000 高橋三郎 55 (3) 1 2:05.2
7月10日 川崎 報知オールスターC 1600 高橋三郎 57 (2) 1 1:41.0
9月15日 中山 オールカマー 2200 高橋三郎 56 (9) 12 2:16.1

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。