TCKコラム

TCK Column vol.54

走り続けた理由:チャンピオンスター(全5話)

7歳2度の帝王賞制覇編

難しい気性がアダになった。
ある調教をきっかけに、大きく何かが動き出した。
想像もできない幸運が、
1頭の7歳馬に、
1人のジョッキーに、
尽力した関係者に、
オーナーに、
見えない磁気のごとく引き寄せられていく。
再び王者に返り咲き、絶対能力の高さを見せつけた。
消長の激しいサラブレッドにとって、3年は決して短くない時間だ。
まさに前例のない快挙が展開される。

金盃後の調教

年が明けた平成3年、7歳という高齢になったチャンピオンスター。始動は2月26日、金盃からである。
「飛び出した1番枠のアーデルジークがそのまま行って少し抑えてくれればよかったが、内をあけてしまったために、そこに後続がなだれ込み、少し展開が速くなってしまった。このときは、57.5kgという斤量で、気もすごく荒く折り合いがつかなかった。それにやはり脚元が不安だった。利口な馬だから、少しでも不安を感じれば気を抜くところがあった」。
 結果、金盃はクビ差2着に終わった。勝ったシローランドは、チャンピオンスターよりも3歳も若く、斤量も54kgだった。

この金盃を境に、調教方法が変わっていく。難しい気性をなだめるような調教をしなければいけない。
「内馬場にある角馬場に連れて行って、荒い気性をなだめるように調教を始めた。ほかの馬がいないここで、馬と向き合うようにしていた」。
 気の荒い馬は、どうしても他馬と一緒に調教するのが難しいときがある。大井の馬が、一斉にトラックで調教をする中にいたらどうなるか。
気の荒い馬は、今ではほかの馬がいない角馬場(内馬場の放牧場)に連れて行って、落ち着かせるように調教するのが当たり前だが、当時はそのようなことはしていなかった。
 この調教は大成功であった。

 4月3日、全国の地方競馬から、そして中央競馬から一流のダート巧者たちが一堂に会し、春のダート王を決定する第14回帝王賞。昭和63年以来2度目の制覇に向けて、参戦した。
 この年から、帝王賞、オールカマー(中山)、ブリーダーズゴールドカップ(道営札幌)の3大レースに連勝した馬に対して、1億円のボーナスがブリーダーズ協会から贈られることとなった。この特典によって、帝王賞には、真の実力馬が全国から集まったのである。

 最強の対戦相手となるのが、中央競馬のナリタハヤブサだ。帝王賞の前に、ウインターステークス、フェブラリーハンデ(現フェブラリーステークス)を2戦連続でレコード勝ちしたダートチャンピオン馬である。
さらに笠松競馬から、7度の重賞制覇をした牝馬マックスフリートが参戦。鞍上は当時まだ笠松競馬所属だった安藤勝己騎手。
ほかに中央からミスタートウジン、インディアンヒル。地元からは金盃の覇者シローランドやジョージモナーク、スピリットエビスがそろった。
これだけの強豪がそろえば熱戦が期待されるだけに、3万人以上のファンが押しかけ、スタンドは熱気にあふれかえっていた。

1番人気ナリタハヤブサ、2番人気マックスフリート、3番人気にチャンピオンスターが推された。この3頭で人気を3分していた。
 レースはナリタハヤブサ、チャンピオンスターが中団、マックスフリートはいつもの軽快なフットワークが見られず、後方にいる。マックスフリートはレース前から落ち着きがみられなかった。3コーナーまでレースは、たんたんと流れ、動き出したのは4コーナーに入ってから。ここから直線中ほどまでの叩き合いとかけ引きが続く。
 ゴールまであと200mという直線で、4コーナーから動きが鈍くなっていたナリタハヤブサの内を、がまんしていたチャンピオンスターが豪快に伸びて、先頭集団を一気に捕らえ、ゴール板を真っ先に駆け抜けた。
 3年ぶり2度の帝王賞制覇、しかも7歳馬だ。高橋三郎も昭和63年のこのレース前に負ってしまったケガで、勝利の騎乗ができなかった悔しさを晴らしたときでもあった。

厩舎、高橋三郎による金盃後の調教が、大成功を収めたといえる。前走金盃と比べてまったく別なレースをしたのだ。
「7歳になって道中折り合いがつくようになって、無理に行くようなこともなくなった。屈腱炎も治まっていたのがプラスだった」。
 1億円のボーナス資格を得たチャンピオンスター。もちろんオールカマーへの参戦を目標とした。

(命を追い求めた馬生編へ続く)

チャンピオンスター 血統表

牡 栗毛 1984年5月9日生まれ 北海道浦河産・山春牧場
スイフトスワロー(USA)Northern Dancer(CAN)
Homeward Bound(GB)
スイフトロードロードリージ(USA)
ヒデユキ

チャンピオンスター 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
昭和61年
12月9日
大井 2歳新馬 1000 西川栄二 53 (2) 1 1:02.9
昭和62年
1年2日
大井 3歳 1400 西川栄二 54 (1) 1 1:30.4
1月28日 大井 葉牡丹特別 1600 西川栄二 54 (2) 1 1:44.8
2月13日 大井 水仙特別 1600 西川栄二 55 (1) 3 1:45.9
4月9日 大井 黒潮盃 1800 早田秀治 56 (4) 1 1:58.3
6月3日 大井 東京ダービー 2400 早田秀治 57 (3) 4 2:39.0
7月26日 大井 サマーC 1700 早田秀治 52 (2) 7 1:49.2
11月11日 大井 東京王冠賞 2600 早田秀治 57 (6) 2 2:52.9
12月23日 大井 東京大賞典 3000 高橋三郎 54 (4) 4 3:16.7
昭和63年
2年4日
大井 ウインターC 1800 高橋三郎 56.5 (1) 1 1:55.2
3月3日 大井 金盃 2000 高橋三郎 51 (1) 1 2:05.8
4月13日 大井 帝王賞 2000 桑島孝春 56 (3) 1 2:07.0
6月21日 大井 大井記念 2500 桑島孝春 57 (1) 1 2:42.8
7月27日 川崎 報知オールスターC 1600 桑島孝春 57 (1) 2 1:41.5
9月18日 新潟 オールカマー 2200 桑島孝春 57 (4) 15 2:14.6
11月2日 大井 東京記念 2400 高橋三郎 57.5 (1) 7 2:36.9
1年10ヵ月休養
平成2年
9年5日
大井 かちどき賞 1800 高橋三郎 55 (6) 4 1:56.5
10月24日 大井 グランド
チャンピオン2000
2000 高橋三郎 56 (2) 7 2:10.5
11月20日 大井 東京記念 2400 高橋三郎 55 (1) 1 2:34.3
12月13日 大井 東京大賞典 2800 高橋三郎 55 (3) 11 3:08.7
平成3年
2年26日
大井 金盃 2000 高橋三郎 57.5 (2) 2 2:06.7
4月3日 大井 帝王賞 2000 高橋三郎 55 (3) 1 2:05.2
7月10日 川崎 報知オールスターC 1600 高橋三郎 57 (2) 1 1:41.0
9月15日 中山 オールカマー 2200 高橋三郎 56 (9) 12 2:16.1

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。