TCKコラム

TCK Column vol.49

父と子、そしてホワイトシルバー(全5話)

師と騎手、父と子編

ホワイトシルバーが重賞3連勝を成し遂げた。
その影には、群がる記者から「勝因は?」「今の気持ちは?」と聞かれても、
一言「馬が強いから」とだけしか答えない口数の少ない調教師がいる。
現在調教師として活躍を続ける赤間清松騎手、高橋三郎騎手らが現役で活躍し、
川崎競馬の佐々木竹見騎手が15年連続リーディング連覇した昭和40年代よりも、
さらに10年前の昭和30年代、南関東で一時代を築いた男。
その男が、息子へ接する姿はまさに百獣の王が、
最愛の我が子を崖へ容赦なく突き落とすもの。
「馬乗りというのは、教えて分かるものではない」。
父と子、そしてホワイトシルバーが獲得した最大の名誉と栄光。

荒山徳一黄金時代

荒山が騎手を志した理由は「父にあこがれて」である。ジョッキープロフィールにそう記してある。父・荒山徳一調教師の家庭で生まれ育った荒山にしてみれば、物心ついたときから馬が身近に存在し、さらに偉大な父の存在に触れることは、騎手を志すに十分な環境であった。
父である荒山徳一調教師の姿は、荒山にはどのように映っていたのだろうか。
「ものすごく怖い人。仕事に対してもそうだが、小さいころから礼儀作法などに関して、とにかく厳しい人だった。騎手時代は、まだ自分が生まれる以前のことだから、実際に目にしたわけではない。だが、厩舎に出入りしていた馬主さんから、現役時代のころの話を聞かされて、すごい人だったと思っていた。父の現役は話しでしか知らないんだ」。
 それもそのはず、騎手として大活躍したのは、荒山勝徳騎手が生まれる10年も前のことである。

大井の歴代の名手といえば、現在調教師として活躍を続ける赤間清松騎手、高橋三郎騎手、赤嶺本浩騎手、福永二三雄騎手、岡部盛雄騎手たちを思い起こすだろう。彼らが現役で活躍し、また川崎競馬の佐々木竹見騎手がビル・シューメーカーの年間勝ち鞍記録を更新し、15年連続して南関東リーディングを連覇し続けたのが昭和40年代だ。それよりもさらに10年前の昭和30年代、南関東で一時代を築いた名手が荒山徳一調教師なのである。
荒山徳一調教師は、騎手として昭和27年にデビュー。
昭和29年、南関東リーディングに初めて9位でベストテン入りを果たすと、翌年には2位と大躍進をする。当時、須田茂騎手が6連覇を達成していたが、昭和31年、荒山徳一騎手はついにリーディングの座を射止めるのである。南関東のトップに立ったのだ。6連覇王者の須田茂騎手とは2勝差であった。しかし、翌年は3位に甘んじるが、昭和33年再びリーディング奪取すると、昭和35年まで3連覇の偉業を達成したのだ。まさに南関東の王者に君臨し、荒山徳一黄金時代を創り上げたときでもあった。
引退する昭和47年まで、実に20年も南関東リーディング上位の常連として活躍し続けた。

普段から口数が少ない父でもある師。騎手として活躍する息子にはどのように接していたのだろうか。
「馬主さんや周囲が、現役騎手時代に何千勝と勝っているだけに、息子へ乗り方を教えてあげればいいじゃないかと言っていたようだった。しかしオヤジは、『教えて分かるのであれば、なんぼでも教えるよオレは。馬乗りというのは、教えて分かるものではない。自分の体で分かるものだ。教えてもしょうがない』と常に言っていた。東京大賞典での勝利は、オヤジだけにうれしかったと思うけど、その表現を表に出さない人だった」。

荒山自身から父へ教えを請うことは何度でもあった。しかし返ってくる言葉は「教えて分かるのであれば、なんぼでも教えるよオレは。馬乗りというのは、教えて分かるものではない。自分の体で分かるものだ」と、いつも同じ台詞だったという。さらに「オレが教えたらおまえは分かるのか。教えたら教えたとおりに乗れるのか」とまで厳しい口調だった。まるで最愛の息子の成長を願う百獣の王が、崖から我が子を突き落とすかのようである。それだけに、東京大賞典での勝利に、父・荒山徳一調教師の胸中は、察するに及ばない。

見向きもされなかった父ミルコウジ

ホワイトシルバーは、重賞3連勝した平成5年のNAR(地方競馬全国協会)年度代表馬に選ばれた。気性が難しい、華奢な馬体だった牝馬がつかんだ名誉と栄光。
東京大賞典の前までは、収得賞金でハシルショウグン、ブルーファミリーと接戦であったのだ。当時の東京大賞典優勝賞金は6800万円。それが加算されることで、1993年の全国地方競馬の頂点に立ったのだ。収得賞金1位。11戦5勝、重賞3連勝(うちG1を2勝)という戦績は、まさしく頂点にふさわしい内容だ。
「年度代表馬になったと一報を聞いたとき、熱い思いがこみ上げてきた。ジョッキーはレース前に、『あー乗れ、こう乗れ』と言われればどうしても緊張もするし、プレッシャーもかかる。ところが厩舎サイドは好きなように乗ればいい、おまえに任した馬なのだからと言ってくれた。周りの環境がなによりもよかった。だからマクったり、重賞という大きなレースで物おじせずに動け、それがいい結果につながったと思う。特に重賞3連勝はね」

荒山も全国騎手収得賞金18位に、父・荒山徳一調教師は、全国調教師収得賞金3位へ輝いた。
 また、父ミルコウジもこの年の地方競馬リーディングサイアー(サラブレッド部門)を獲得する。2位のホスピタリティと首位争いをしていたが、東京大賞典でのホワイトシルバーの優勝が決め手になった。ミルコウジの父ミルジョージもリーディングサイアーを獲得しており、父子リーディングサイアー制覇となった。
だが、意外にもこの年のミルコウジは種牡馬として見向きもされなかった存在だった。種牡馬になった当初は、ミルジョージ人気も手伝って、初年度の昭和61年は48頭、2年目が62頭と好調な種付けをしていた。だが、その数は年々減少し、平成5年にはとうとう3頭だけになった。
それゆえ繋養先も個人牧場へ移ることが決まっていた。しかし、ホワイトシルバーの活躍で、繋養先も厚賀スタリオンステーションへ変更となり、種付けの問い合わせも急増した。また、平成8年には、産駒のセントリックが東京ダービーを優勝し、東京ダービー父子制覇を達成している。

(死の生還と見ることのない仔編へ続く)

ホワイトシルバー 血統表

牝 鹿毛 1988年4月11日生まれ 北海道静内町・富岡弘生産
ミルコウジ ミルジョージ(USA)
センターガーデン
テツトシルバー ティットフォアタット(USA)
ジェッティ(GB)

ホワイトシルバー 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
H2.4.26 帯広 2歳新馬 900 千葉津代士 53 (3) 5 1:00.6
5.8 帯広 2歳 900 千葉津代士 53 (4) 3 57.7
5.24 帯広 2歳 900 千葉津代士 53 (2) 2 57.6
6.7 岩見沢 2歳 900 千葉津代士 53 (1) 4 1:00.0
6.21 岩見沢 2歳 900 千葉津代士 53 (2) 8 59.7
8.21 旭川 2歳 900 千葉津代士 53 (6) 7 59.6
9.5 札幌 2歳 900 千葉津代士 53 (6) 3 56.2
9.17 札幌 2歳 900 千葉津代士 53 (1) 1 56.1
9.27 札幌 2歳 1000 千葉津代士 53 (7) 6 1:03.2
10.9 札幌 2歳 1100 千葉津代士 53 (7) 1 1:09.9
10.31 函館 2歳 1000 千葉津代士 53 (8) 8 1:03.5
11.23 大井 能力試験 800 荒山勝徳 51.2
12.10 大井 2歳 1500 荒山勝徳 53 (6) 1 1:39.9
H3.1.3 大井 3歳 1600 荒山勝徳 53 (10) 9 1:49.6
2.25 大井 桃花賞 1600 荒山勝徳 53 (12) 12 1:45.4
3.21 大井 すみれ特別 1600 荒山勝徳 53 (9) 6 1:46.2
4.2 大井 さくら特別 1700 荒山勝徳 53 (11) 7 1:53.0
5.4 大井 山吹特別 1700 鈴木啓之 53 (6) 4 1:50.8
5.14 大井 紅ばら特別 1700 荒山勝徳 53 (10) 3 1:50.1
6.2 大井 すずらん特別 1600 荒山勝徳 54 (7) 3 1:42.8
7.8 大井 東京プリンセス賞 1800 荒山勝徳 54 (9) 8 1:56.3
7.25 大井 ひまわり特別 1700 荒山勝徳 54 (6) 4 1:49.9
8.11 大井 カンナ特別 1700 荒山勝徳 54 (9) 2 1:50.6
11.18 大井 サラ系一般B3五 1600 荒山勝徳 53 (2) 9 1:45.5
12.23 大井 サラ系一般B3四五 1400 荒山勝徳 53 (4) 6 1:29.6
H4.1.10 大井 サラ系一般C1四 1600 荒山勝徳 53 (3) 2 1:43.8
3.24 大井 九段坂特別 1700 荒山勝徳 53 (6) 5 1:51.9
4.18 大井 仲春特別 1700 荒山勝徳 53 (1) 1 1:50.5
5.12 大井 サラ系一般B2B3 1500 荒山勝徳 52 (5) 6 1:37.3
6.15 大井 オーロラ賞 1800 荒山勝徳 53 (8) 4 1:57.4
7.3 大井 スタールビー賞 1800 荒山勝徳 52 (4) 5 1:55.8
7.23 大井 トロピカルナイト賞 1800 荒山勝徳 53 (2) 3 1:56.4
8.22 大井 サラ系一般B2三 1200 荒山勝徳 53 (8) 3 1:14.8
9.16 大井 スターサファイア賞 1600 荒山勝徳 53 (11) 1 1:43.1
10.7 川崎 エンプレス杯 2000 堀千亜樹 52 (12) 3 2:09.7
11.13 大井 サラ系一般A2 1600 堀千亜樹 51 (5) 6 1:43.6
12.14 大井 ブルージルコン賞 1800 荒山勝徳 53 (7) 5 1:57.1
H5.1.18 大井 ベイサイドカップ 1800 荒山勝徳 53 (13) 9 1:56.6
2.2 大井 ダイヤモンド
レディー賞
1800 荒山勝徳 53 (12) 1 1:56.1
2.26 大井 梅見月賞 2000 荒山勝徳 54 (12) 1 2:08.2
4.9 大井 卯月賞 1800 荒山勝徳 52 (8) 7 1:55.0
5.10 大井 隅田川賞 1800 堀千亜樹 51 (5) 4 1:52.9
5.31 大井 ブリリアントカップ 1800 荒山勝徳 54 (4) 2 1:54.7
6.17 大井 大井記念 2500 荒山勝徳 52 (10) 7 2:40.9
7.7 船橋 クイーン賞 1800 鈴木啓之 55 (3) 6 1:54.1
9.19 中山 オールカマー 2200 荒山勝徳 54 (13) 13 2:15.7
10.27 大井 グランド
チャンピオン
2000
2000 荒山勝徳 55 (13) 1 2:05.9
11.30 大井 東京記念 2400 荒山勝徳 54.5 (16) 1 2:34.2
12.29 大井 東京大賞典 2800 荒山勝徳 54 (5) 1 3:00.4
H6.4.12 大井 帝王賞 2000 堀千亜樹 53 (6) 10 2:05.6
6.23 大井 大井記念 2500 荒山勝徳 56 (3) 2 2:39.8

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。