記録、記憶、そして運命 コンサートボーイ(全5話)
勝機の追走編
あの馬さえ交わせれば勝てる、勝てるんだ。
勝機をうかがうその男の目には、前を行くバトルラインと武豊騎手の背後だけ。
まだ、まだ、まだだ、ゴールまであと200mというところで、仕掛ける!
だが新たな敵が背後から襲い掛かる。
大歓声のスタンドの前で、3頭の最強馬が一瞬交錯する。
ほんの一瞬、3頭の影がひとつになった時、
真ん中から1頭の脚がさらに伸びた。
最強の役者による、最強の競馬に6万人が陶酔する。
史上の名勝負、後世に語り継がれる名勝負の展開に度肝を抜く。
あの馬さえ交わせれば勝てる、勝てるんだ。
勝機をうかがうその男の目には、前を行くバトルラインと武豊騎手の背後だけ。
まだ、まだ、まだだ、ゴールまであと200mというところで、仕掛ける!
だが新たな敵が背後から襲い掛かる。
大歓声のスタンドの前で、3頭の最強馬が一瞬交錯する。
ほんの一瞬、3頭の影がひとつになった時、
真ん中から1頭の脚がさらに伸びた。
最強の役者による、最強の競馬に6万人が陶酔する。
史上の名勝負、後世に語り継がれる名勝負の展開に度肝を抜く。
バトルラインさえ交わせれば勝てる
ファンファーレが鳴り止むと、隙間なく埋め尽くされたスタンドから一斉に6万人の歓声が沸き起こる。
全馬がゲートに収まり、一瞬の静寂後、ゲートが開き、一番に飛び出したのはコンサートボーイであった。その後ろをバトルラインが追走してすぐさまトップへ出て、1コーナーを回っていく。コンサートボーイは3着につけて先行する。これまでの差すレースとは違うレース展開。
先行したのは事前に、指示を出していたわけではないと栗田泰昌は言う。
「レースは、本馬場に入場すれば、あとは騎手のもの。それにコンサートボーイは、すべて一流ジョッキーが乗っている。こちらから言うことはないよ。だから先行したのも的場騎手の好判断、好騎乗のなにものでもない」
的場騎手もゲートを出た感じで、展開しようと決めていた。いつもゲート出が遅れるコンサートボーイが、真っ先にゲートを飛び出た。
「ちょっと押しただけでグングン行く勢いだった。馬任せで先頭なら先頭でいいと思っていたら、外から武豊騎手のバトルラインが案の定上がってきて、その後ろに付けた。3番手につけ、1コーナーからずっと、バトルラインさえ交わせれば勝てると頭にあった」
道中、的場騎手の目には、武豊騎手とバトルラインの背後しか映っていなかった。バトルラインさえ交わせれば……という思いが、その騎乗フォームにも現れている。手綱を握った腕と前傾姿勢が微動だにせず、グッと縮まった姿勢はコンサートボーイと一心同体となり、バトルラインの真後ろで離れずに、ジッと勝機を狙い3番手で追走し続ける。
このとき、3~4コーナーでは、後方から一気にアブクマポーロが上がってきて、コンサートボーイの後ろまで追いついてきた。
「4コーナーを回ったところで、普通なら出すのだけど、負担をかけずにバトルラインの後ろをあと200mというところまで付いていった。そこで、一気に交わして、『おっ、勝てる! よしっ、勝てるな!』と思った。そしたら外からアブクマポーロがきた。敵がかわって『きたな!』と思った瞬間、コンサートボーイの脚がさらに伸びた。あれはコンサートボーイの根性だったね」
直線では、内のバトルラインを抜いた中のコンサートボーイ、そのコンサートボーイに並びかけようとする外のアブクマポーロ。この3頭が一瞬横一線になるものの、すぐさまコンサートボーイの脚が伸びて抜け出し、ゴールする。
ついにやった!クビ差でコンサートボーイの勝利。クビ差ではあるが、そのレース内容からも完勝であった。
わずか200mでコンサートボーイ、アブクマポーロ、バトルラインの3頭がみせた叩き合いは、6万人の大観衆を熱狂させた。3着となったバトルラインは1馬身差の3着。
そこから4着のキソジゴールドまでなんと9馬身もの差があった。
これぞ史上まれにみる名勝負。公営を代表する的場騎手と石崎隆之騎手、中央を代表する武豊騎手の3人。そして、その3人の手綱にあるダート最強馬の3頭による競り合いにだれもが陶酔した。レース後もスタンドの声援は鳴り止まず、人馬、厩舎ともに大井のエースが制したのだ。
栗田泰昌もこのレースは名勝負だと言う。
「うまく競り合いに持ち込めたし、ゴール前では耳を絞って、負けてたまるかという闘争心がにじみ出ていた。すごい根性があった。勝ちたいと思って勝てるものではないから競馬は。でも初のダートグレードレースとなった帝王賞だから勝ってほしいと思っていた。的場騎手が優勝し、石崎騎手が2着、武豊騎手が3着となり、公営と中央の代表する3人の騎手が、まさにしのぎを削った名勝負だった」
公営勢の交流競走連敗を阻止したのが、コンサートボーイであり、しかも公営馬が初めてワン・ツーを決めたダートグレードレースGIでもあった。また、父カコイーシーズ産駒初の重賞制覇ともなった。
(最高傑作編へ続く)
コンサートボーイ 血統表
牡 鹿毛 1992年4月29日生まれ 北海道門別町・船越三弘生産 | |
---|---|
*カコイーシーズ | Alydar |
Careless Notion | |
コンサートダイナ | *ハンターコム |
*コンサーテイスト |
コンサートボーイ 競走成績
年月日 | 競馬場 | レース名 | 距離(m) | 騎手 | 重量(kg) | 人気 | 着順 | タイム |
H6.7.19 | 旭川 | 2歳新馬 | 900 | 堂山直樹 | 52 | (2) | 1 | 55.7 |
8.18 | 旭川 | 2歳 | 1000 | 堂山直樹 | 52 | (1) | 6 | 1:01.8 |
9.8 | 旭川 | 2歳 | 1000 | 井上俊彦 | 53 | (1) | 1 | 1:02.5 |
9.29 | 札幌 | 2歳 | 1100 | 佐々木一夫 | 55 | (1) | 1 | 1:06.5 |
10.12 | 札幌 | ジュニアカップ | 1700 | 佐々木一夫 | 54 | (3) | 4 | 1:47.5 |
11.10 | 帯広 | 北海道2歳優駿 | 1800 | 國信滿 | 54 | (2) | 2 | 2:00.3 |
11.23 | 川崎 | 能力試験 | 800 | 山崎尋美 | 53.0 | |||
12.6 | 川崎 | ローレル賞 | 1600 | 山崎尋美 | 54 | (2) | 1 | 1:44.9 |
12.29 | 川崎 | 全日本2歳優駿 | 1600 | 山崎尋美 | 54 | (2) | 4 | 1:43.1 |
H7.2.9 | 大井 | 京浜盃 | 1700 | 山崎尋美 | 55 | (6) | 2 | 1:49.2 |
4.12 | 大井 | 黒潮盃 | 1800 | 山崎尋美 | 56 | (4) | 2 | 1:54.2 |
5.4 | 大井 | 羽田盃 | 2000 | 山崎尋美 | 56 | (3) | 2 | 2:06.4 |
6.8 | 大井 | 東京ダービー | 2400 | 山崎尋美 | 56 | (2) | 2 | 2:35.4 |
9.27 | 大井 | 東京盃 | 1200 | 山崎尋美 | 53 | (7) | 3 | 1:12.5 |
11.9 | 大井 | 東京王冠賞 | 2600 | 高橋三郎 | 57 | (1) | 2 | 2:51.3 |
12.21 | 大井 | 東京大賞典 | 2800 | 高橋三郎 | 54 | (7) | 8 | 3:03.2 |
H8.1.18 | 大井 | 東京シティ盃 | 1400 | 山崎尋美 | 58 | (2) | 4 | 1:26.8 |
2.21 | 船橋 | 報知グランプリカップ | 1800 | 石崎隆之 | 57 | (2) | 1 | 1:51.3 |
3.5 | 大井 | 金盃 | 2000 | 石崎隆之 | 56 | (1) | 1 | 2:06.3 |
4.11 | 大井 | マイルグランプリ | 1600 | 石崎隆之 | 57 | (2) | 1 | 1:39.0 |
6.19 | 大井 | 帝王賞 | 2000 | 佐藤隆 | 56 | (5) | 14 | 2:07.1 |
8.26 | 大井 | アフター5スター賞 | 1800 | 石崎隆之 | 57.5 | (2) | 3 | 1:53.6 |
9.26 | 大井 | 東京盃 | 1200 | 石崎隆之 | 57 | (2) | 8 | 1:13.3 |
10.30 | 大井 | グランドチャンピオン2000 | 2000 | 石崎隆之 | 57 | (1) | 3 | 2:05.5 |
11.18 | 大井 | 東京記念 | 2400 | 石崎隆之 | 58 | (1) | 2 | 2:35.5 |
12.29 | 大井 | 東京大賞典 | 2800 | 石崎隆之 | 56 | (4) | 2 | 3:01.4 |
H9.2.5 | 川崎 | 川崎記念 | 2000 | 的場文男 | 56 | (4) | 3 | 2:07.3 |
2.27 | 大井 | 金盃 | 2000 | 石崎隆之 | 58.5 | (1) | 3 | 2:06.9 |
4.9 | 大井 | マイルグランプリ | 1600 | 内田博幸 | 57 | (2) | 1 | 1:39.2 |
5.28 | 船橋 | かしわ記念 | 1600 | 内田博幸 | 58 | (2) | 3 | 1:39.1 |
6.24 | 大井 | 帝王賞 | 2000 | 的場文男 | 57 | (4) | 1 | 2:04.9 |
9.24 | 船橋 | NTV盃 | 2000 | 内田博幸 | 57 | (1) | 7 | 2:09.1 |
10.29 | 大井 | グランドチャンピオン2000 | 2000 | 内田博幸 | 57 | (2) | 2 | 2:05.7 |
12.9 | 大井 | かちどき賞 | 1800 | 内田博幸 | 59 | (1) | 1 | 1:54.1 |
H10.10.2 | 大井 | 能力試験 | 1500 | 的場文男 | 1:35.3 | |||
10.28 | 大井 | グランドチャンピオン2000 | 2000 | 的場文男 | 56 | (3) | 3 | 2:06.2 |
11.12 | 大井 | 東京記念 | 2400 | 的場文男 | 59 | (2) | 1 | 2:35.1 |
12.23 | 大井 | 東京大賞典 | 2000 | 的場文男 | 56 | (5) | 3 | 2:06.0 |
H11.10.13 | 大井 | 能力試験 | 1500 | 内田博幸 | 1:38.9 | |||
10.28 | 大井 | グランドチャンピオン2000 | 2000 | 早田秀治 | 56 | (5) | 6 | 2:08.7 |
11.30 | 大井 | 東京記念 | 2400 | 早田秀治 | 58 | (3) | 9 | 2:38.7 |
H12.1.10 | 大井 | 東京シティ盃 | 1400 | 的場文男 | 58 | (6) | 8 | 1:27.3 |
副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。