TCKコラム

TCK Column vol.37

記録、記憶、そして運命 コンサートボーイ(全5話)

勝機の追走編

あの馬さえ交わせれば勝てる、勝てるんだ。
勝機をうかがうその男の目には、前を行くバトルラインと武豊騎手の背後だけ。
まだ、まだ、まだだ、ゴールまであと200mというところで、仕掛ける!
だが新たな敵が背後から襲い掛かる。
大歓声のスタンドの前で、3頭の最強馬が一瞬交錯する。
ほんの一瞬、3頭の影がひとつになった時、
真ん中から1頭の脚がさらに伸びた。
最強の役者による、最強の競馬に6万人が陶酔する。
史上の名勝負、後世に語り継がれる名勝負の展開に度肝を抜く。
あの馬さえ交わせれば勝てる、勝てるんだ。
勝機をうかがうその男の目には、前を行くバトルラインと武豊騎手の背後だけ。
まだ、まだ、まだだ、ゴールまであと200mというところで、仕掛ける!
だが新たな敵が背後から襲い掛かる。
大歓声のスタンドの前で、3頭の最強馬が一瞬交錯する。
ほんの一瞬、3頭の影がひとつになった時、
真ん中から1頭の脚がさらに伸びた。
最強の役者による、最強の競馬に6万人が陶酔する。
史上の名勝負、後世に語り継がれる名勝負の展開に度肝を抜く。

バトルラインさえ交わせれば勝てる

 ファンファーレが鳴り止むと、隙間なく埋め尽くされたスタンドから一斉に6万人の歓声が沸き起こる。
全馬がゲートに収まり、一瞬の静寂後、ゲートが開き、一番に飛び出したのはコンサートボーイであった。その後ろをバトルラインが追走してすぐさまトップへ出て、1コーナーを回っていく。コンサートボーイは3着につけて先行する。これまでの差すレースとは違うレース展開。
先行したのは事前に、指示を出していたわけではないと栗田泰昌は言う。
「レースは、本馬場に入場すれば、あとは騎手のもの。それにコンサートボーイは、すべて一流ジョッキーが乗っている。こちらから言うことはないよ。だから先行したのも的場騎手の好判断、好騎乗のなにものでもない」

 的場騎手もゲートを出た感じで、展開しようと決めていた。いつもゲート出が遅れるコンサートボーイが、真っ先にゲートを飛び出た。
「ちょっと押しただけでグングン行く勢いだった。馬任せで先頭なら先頭でいいと思っていたら、外から武豊騎手のバトルラインが案の定上がってきて、その後ろに付けた。3番手につけ、1コーナーからずっと、バトルラインさえ交わせれば勝てると頭にあった」

 道中、的場騎手の目には、武豊騎手とバトルラインの背後しか映っていなかった。バトルラインさえ交わせれば……という思いが、その騎乗フォームにも現れている。手綱を握った腕と前傾姿勢が微動だにせず、グッと縮まった姿勢はコンサートボーイと一心同体となり、バトルラインの真後ろで離れずに、ジッと勝機を狙い3番手で追走し続ける。
このとき、3~4コーナーでは、後方から一気にアブクマポーロが上がってきて、コンサートボーイの後ろまで追いついてきた。
「4コーナーを回ったところで、普通なら出すのだけど、負担をかけずにバトルラインの後ろをあと200mというところまで付いていった。そこで、一気に交わして、『おっ、勝てる! よしっ、勝てるな!』と思った。そしたら外からアブクマポーロがきた。敵がかわって『きたな!』と思った瞬間、コンサートボーイの脚がさらに伸びた。あれはコンサートボーイの根性だったね」

 直線では、内のバトルラインを抜いた中のコンサートボーイ、そのコンサートボーイに並びかけようとする外のアブクマポーロ。この3頭が一瞬横一線になるものの、すぐさまコンサートボーイの脚が伸びて抜け出し、ゴールする。

 ついにやった!クビ差でコンサートボーイの勝利。クビ差ではあるが、そのレース内容からも完勝であった。

 わずか200mでコンサートボーイ、アブクマポーロ、バトルラインの3頭がみせた叩き合いは、6万人の大観衆を熱狂させた。3着となったバトルラインは1馬身差の3着。
そこから4着のキソジゴールドまでなんと9馬身もの差があった。

 これぞ史上まれにみる名勝負。公営を代表する的場騎手と石崎隆之騎手、中央を代表する武豊騎手の3人。そして、その3人の手綱にあるダート最強馬の3頭による競り合いにだれもが陶酔した。レース後もスタンドの声援は鳴り止まず、人馬、厩舎ともに大井のエースが制したのだ。
栗田泰昌もこのレースは名勝負だと言う。
「うまく競り合いに持ち込めたし、ゴール前では耳を絞って、負けてたまるかという闘争心がにじみ出ていた。すごい根性があった。勝ちたいと思って勝てるものではないから競馬は。でも初のダートグレードレースとなった帝王賞だから勝ってほしいと思っていた。的場騎手が優勝し、石崎騎手が2着、武豊騎手が3着となり、公営と中央の代表する3人の騎手が、まさにしのぎを削った名勝負だった」

 公営勢の交流競走連敗を阻止したのが、コンサートボーイであり、しかも公営馬が初めてワン・ツーを決めたダートグレードレースGIでもあった。また、父カコイーシーズ産駒初の重賞制覇ともなった。

(最高傑作編へ続く)

コンサートボーイ 血統表

牡 鹿毛 1992年4月29日生まれ 北海道門別町・船越三弘生産
*カコイーシーズAlydar
Careless Notion
コンサートダイナ*ハンターコム
*コンサーテイスト

コンサートボーイ 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
H6.7.19 旭川 2歳新馬 900 堂山直樹 52 (2) 1 55.7
8.18 旭川 2歳 1000 堂山直樹 52 (1) 6 1:01.8
9.8 旭川 2歳 1000 井上俊彦 53 (1) 1 1:02.5
9.29 札幌 2歳 1100 佐々木一夫 55 (1) 1 1:06.5
10.12 札幌 ジュニアカップ 1700 佐々木一夫 54 (3) 4 1:47.5
11.10 帯広 北海道2歳優駿 1800 國信滿 54 (2) 2 2:00.3
11.23 川崎 能力試験 800 山崎尋美 53.0
12.6 川崎 ローレル賞 1600 山崎尋美 54 (2) 1 1:44.9
12.29 川崎 全日本2歳優駿 1600 山崎尋美 54 (2) 4 1:43.1
H7.2.9 大井 京浜盃 1700 山崎尋美 55 (6) 2 1:49.2
4.12 大井 黒潮盃 1800 山崎尋美 56 (4) 2 1:54.2
5.4 大井 羽田盃 2000 山崎尋美 56 (3) 2 2:06.4
6.8 大井 東京ダービー 2400 山崎尋美 56 (2) 2 2:35.4
9.27 大井 東京盃 1200 山崎尋美 53 (7) 3 1:12.5
11.9 大井 東京王冠賞 2600 高橋三郎 57 (1) 2 2:51.3
12.21 大井 東京大賞典 2800 高橋三郎 54 (7) 8 3:03.2
H8.1.18 大井 東京シティ盃 1400 山崎尋美 58 (2) 4 1:26.8
2.21 船橋 報知グランプリカップ 1800 石崎隆之 57 (2) 1 1:51.3
3.5 大井 金盃 2000 石崎隆之 56 (1) 1 2:06.3
4.11 大井 マイルグランプリ 1600 石崎隆之 57 (2) 1 1:39.0
6.19 大井 帝王賞 2000 佐藤隆 56 (5) 14 2:07.1
8.26 大井 アフター5スター賞 1800 石崎隆之 57.5 (2) 3 1:53.6
9.26 大井 東京盃 1200 石崎隆之 57 (2) 8 1:13.3
10.30 大井 グランドチャンピオン2000 2000 石崎隆之 57 (1) 3 2:05.5
11.18 大井 東京記念 2400 石崎隆之 58 (1) 2 2:35.5
12.29 大井 東京大賞典 2800 石崎隆之 56 (4) 2 3:01.4
H9.2.5 川崎 川崎記念 2000 的場文男 56 (4) 3 2:07.3
2.27 大井 金盃 2000 石崎隆之 58.5 (1) 3 2:06.9
4.9 大井 マイルグランプリ 1600 内田博幸 57 (2) 1 1:39.2
5.28 船橋 かしわ記念 1600 内田博幸 58 (2) 3 1:39.1
6.24 大井 帝王賞 2000 的場文男 57 (4) 1 2:04.9
9.24 船橋 NTV盃 2000 内田博幸 57 (1) 7 2:09.1
10.29 大井 グランドチャンピオン2000 2000 内田博幸 57 (2) 2 2:05.7
12.9 大井 かちどき賞 1800 内田博幸 59 (1) 1 1:54.1
H10.10.2 大井 能力試験 1500 的場文男 1:35.3
10.28 大井 グランドチャンピオン2000 2000 的場文男 56 (3) 3 2:06.2
11.12 大井 東京記念 2400 的場文男 59 (2) 1 2:35.1
12.23 大井 東京大賞典 2000 的場文男 56 (5) 3 2:06.0
H11.10.13 大井 能力試験 1500 内田博幸 1:38.9
10.28 大井 グランドチャンピオン2000 2000 早田秀治 56 (5) 6 2:08.7
11.30 大井 東京記念 2400 早田秀治 58 (3) 9 2:38.7
H12.1.10 大井 東京シティ盃 1400 的場文男 58 (6) 8 1:27.3

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。