TCKコラム

TCK Column vol.27

不屈の闘志、尽きることのない挑戦 テツノカチドキ(全5話)

第22回東京記念編

昭和60年前後はまさに南関東黄金時代。
多くの英雄が誕生していた。
その中の2頭、テツノカチドキとロッキータイガー。
両雄はたった一つの世界への舞台のキップを得るために、TCKの砂上で名勝負を繰り広げたのだ。
ゴールまでの200m。両雄は一体どんな勝負をしたのか。
一体何がこの戦いを、永遠に語り継ぐまでにしたのか。
両雄が持てるパワーを出し切り勝負した名レース。
それが、昭和60年10月31日、第22回東京記念である。

ロッキータイガーとの名勝負

舞台は、芝レースを圧勝した福島から川崎へ移動。7月3日、当時2,000mの報知オールスターカップにテツノカチドキは出場する。このレースには、船橋から石崎隆之騎手騎乗のトムカウント、そして桑島孝春騎手騎乗のロッキータイガーが参戦。大井からはスズユウも輸送された。

8月には、現在のサンタアニタトロフィーに相当する関東盃に出場。59.5kgと今までで一番重い斤量ながら優勝。続くNTV盃には60.5kg背負い、結果はコンマ1秒差の2着であった。
強豪ひしめく中、南関東を代表するまでになったテツノカチドキが目標としたのは、秋のジャパンカップであった。地方馬に設けられたジャパンカップの出走枠は1頭のみ。この出走枠を競うのが、10月31日の第22回東京記念であった。ここには、報知オールスターカップ3着のロッキータイガーも出走してきた。
ロッキータイガーは、昭和59年11月13日の東京王冠賞で、羽田盃、東京ダービーと勝ち進み、ここで3冠を目指すキングハイセイコーの夢を、直線で外から交わして打ち砕いている。春のころから著しい成長を遂げていたのである。
年が明けた昭和60年。ロッキータイガーは報知グランプリカップ、テツノカチドキが3着だった金盃、ダイオライト記念、テツノカチドキが4着だった帝王賞と勝ち進み、7月3日の報知オールスターカップに出走していたのである。

上昇一途のロッキータイガー、佐々木竹見に乗り変わった大井記念から5戦3勝、2着2回のテツノカチドキの両雄が、たった1頭のジャパンカップ出走枠をかけて東京記念で激突するのである。後に名勝負と語り継がれることになる一戦である。
報知オールスターカップ時点では、ロッキータイガーとこの先、戦うことになるとは思っていなかったと佐々木竹見は言っている。
レース前に発表された馬体重増減は、テツノカチドキがプラス14kg、ロッキータイガーマイナス7kgであった。体質も脚質も正反対の2頭。負担斤量は、テツノカチドキ60.5kg、ロッキータイガー59kg。その差、1.5kg。この差が思わぬ名勝負を演出するのである。
「プラス14kgでも乗っていて重いという印象はなかった。馬は重ければ息の感触で分かるもの。返し馬でも十分に分かる」。
59kgを超えると、馬はゲートで一瞬沈むもの。人間も重いものを抱えて、スタートするときは、踏ん張るものだろう。馬も斤量を背負っていれば同様だ。
テツノカチドキはゲートがあまりうまくはなかった。だから、ダッシュ力がなかったが、それをカバーするに十分なほどの強烈な終いの脚という武器があった。
「直線で交わしてくれ」。
レース前、大山は佐々木竹見に指示を出した。
レースでは、テツノカチドキは好位で先頭をマークする。最後の直線200mで、内テツノカチドキ、外ロッキータイガーとの壮絶なる叩きあいの追い比べとなる。ゴールになだれ込んだ2頭のタイムは同じ2分33秒9。写真判定となり、結果、テツノカチドキはアタマ差で2着に敗れた。
「終いのいい馬だから、大山先生からも『直線で交わしてくれ』という指示だった。それはしょうがないこと。ロッキータイガーといい勝負をしたが、負けたということ」。

レースはレースと割り切る

多くの報道の中で、『先行するロッキータイガーを好位でマーク、3コーナーで交わして、そのまま先頭で流れ込みを考えたが、直線で交わすという指示が頭の隅にあったので、抑えていた。斤量の差があるだけに、あのときに交わしていればよかったと、佐々木竹見は悔いを残した』とされるが、これは事実と違う。
なぜなら佐々木竹見は、調教師の指示どおりに騎乗をし、テツノカチドキの手ごたえもあったので、自身も直線まで待ったほうがよいと判断している。その証拠に、直線でのテツノカチドキの脚はすばらしかったのだ。
「それにしてもロッキータイガーは強かったなあ。勝ちたい一心で行ったが、アタマ差届かなかった。私もうまく乗れたと思ったが、ロッキータイガーが上だったということだけ。やっぱりロッキータイガーのほうが強かったということだ」。
その言葉には達成感と、素直にロッキータイガーの強さを認めるものだった。決して悔いの残るレースではなかったのだ。アタマ差で負けたのなら、斤量の重いほうが強いはずだという声も上がったが、そんな喧騒などをよそに、ジャパンカップの代表にしてやれなかったという気持ちはもちろんあっても、それ以前にこれは勝負だから、レースだからと割り切っている。
当時、5,000勝を達成していた大ジョッキーが、いつまでも過ぎ去ったレースを悔しがったりするものだろうか。レースはレースと割り切れる、それがプロなのではないだろうか。
「テツノカチドキを代表にしてやれなかったのは事実だが、ロッキータイガーがジャパンカップ代表になったことはほめてやるべきことだよ」。

ジャパンカップでは、前を行くシンボリルドルフを猛追したロッキータイガーは2着になった。
「ジャパンカップはテレビで見ていた。あの雨の降る馬場でのロッキータイガーの走りはよかった。テツノカチドキではあの馬場ではあまりうまく乗れなかったと思う。テツノカチドキは、爪は小さいが、大きい馬なので、走りにくくなるのではなかったのかな」。
ここでも多くの報道では、テレビの前で、シンボリルドルフを追いかけるロッキータイガー見て、テツノカチドキを代表にしてやれなかった、悔しかったとされているが、事実は素直にロッキータイガーの強さを認め、レースはレースと割り切り、選ばれた以上、ロッキータイガーをテレビの前で応援していたのだ。

テツノカチドキ 血統表

牡 鹿毛 1980年3月25日生まれ 北海道荻伏・不二牧場生産
コインドシルバー(輸入) Herbager
Silver Coin
フジノアオバ マリーノ(輸入)
ブラツクフオレスト(輸入)

テツノカチドキ 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 着順 タイム
S57.12.4 大井 能力試験 800 赤嶺     53.3
12.24 大井 2歳 1000 秋吉 53 3 1:03.1
S58.1.19 大井 3歳 1200 赤嶺 54 6 1:15.6
2.7 大井 3歳 1400 赤嶺 54 1 1:30.3
2.27 大井 3歳 1400 赤嶺 54 3 1:29.9
3.8 大井 3歳 1500 秋吉 54 2 1:39.1
3.27 大井 3歳 1500 秋吉 54 1 1:35.8
4.16 大井 菜の花特別 1700 秋吉 54 7 1:51.2
4.30 大井 チューリップ賞 1700 赤嶺 54 4 1:50.8
5.27 大井 4歳 1600 秋吉 54 2 1:42.7
7.1 大井 菖蒲特別 1700 赤嶺 54 1 1:48.3
7.16 大井 天の川特別 1700 赤嶺 55 1 1:48.0
8.5 大井 江東特別 1700 赤嶺 55 2 1:47.7
9.13 大井 目黒特別 1800 赤嶺 55 1 1:55.9
10.17 大井 いちょう賞 1800 赤嶺 54 1 1:53.3
11.8 大井 東京王冠賞 2300 赤嶺 57 6 2:46.3
12.7 大井 グローリーカップ 1800 本間茂 54 1 1:54.4
12.21 大井 ディセンバー特別 1600 本間茂 52 1 1:39.7
S59.1.17 大井 新春盃 1800 本間茂 50 6 1:54.2
2.1 大井 ウインターカップ 2000 本間茂 55 1 2:04.9
2.27 大井 金盃 2000 本間茂 51 2 2:04.9
3.27 大井 江戸川特別 1800 本間茂 52 5 1:54.5
4.11 大井 帝王賞 2800 赤嶺 57 4 3:02.0
5.16 大井 大井記念 2500 赤嶺 53 2 2:38.9
6.19 大井 中央競馬招待 1800 赤嶺 56 6 1:53.0
7.9 川崎 報知オールスターカップ 2000 本間茂 55 2 2:07.3
8.7 大井 関東盃 1600 本間茂 54.5 3 1:39:0
9.26 船橋 NTV盃 2000 本間茂 55 4 2:07.5
10.31 大井 東京記念 2400 本間茂 54 2 2:32.6
11.23 大井 かちどき賞 1800 本間茂 55 1 1:50.4
12.25 大井 東京大賞典 3000 本間茂 56 1 3:13.3
S60.2.7 大井 金盃 2000 本間茂 58 3 2:06.6
2.25 川崎 川崎記念 2000 本間茂 58 2 2:08.0
4.18 大井 帝王賞 2800 本間茂 57 4 3:00.8
5.16 大井 大井記念 2500 佐々木 58 1 2:40.3
6.16 福島 地方競馬招待 芝1800 佐々木 57 1 1:48.0
7.3 川崎 報知オールスターカップ 2000 佐々木 57 2 2:06.6
8.1 大井 関東盃 1600 佐々木 59.5 1 1:39.5
9.25 船橋 NTV盃 2000 佐々木 60.5 2 2:05.4
10.31 大井 東京記念 2400 佐々木 60.5 2 2:33.9
12.6 大井 おおとり賞 2000 鷹見 60.5 2 2:07.0
12.28 大井 東京大賞典 3000 佐々木 56 3 3:14.6
S61.2.11 川崎 川崎記念 2000 桑島 60.5 3 2:10.2
3.4 大井 金盃 2000 佐々木 60.5 6 2:07.6
4.9 大井 帝王賞 2000 佐々木 55 5 2:06.7
5.14 大井 大井記念 2500 佐々木 60 1 2:39.4
6.18 川崎 報知オールスターカップ 2000 佐々木 57 2 2:07.2
8.1 大井 関東盃 1600 佐々木 61 4 1:41.7
9.21 中山 オールカマー 芝2200 佐々木 56 3 2:15.8
10.21 大井 東京記念 2400 佐々木 61 5 2:36.6
12.23 大井 東京大賞典 3000 佐々木 55 5 3:19.8
S62.1.28 大井 金盃 2000 石川 60.5 9 2:09.8
2.25 川崎 川崎記念 2000 佐々木 60 3 2:09.8
4.8 大井 帝王賞 2000 佐々木 55 1 2:07.5
6.17 大井 大井記念 2500 佐々木 61 6 2:44.5
7.15 川崎 報知オールスターカップ 2000 佐々木 57 4 2:08.4
9.20 中山 オールカマー 芝2200 佐々木 56 7 2:15.4
11.10 大井 東京記念 2400 鷹見 60 6 2:38.3
12.23 大井 東京大賞典 3000 佐々木 55 1 3:15.8

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。