Café Americano

Café Americano vol.21

第21回 The best is yet to come! BC & 米国競馬への挑戦

興奮冷めやらぬ11月末日に原稿を書いています

 カリフォルニアにも木枯らしが吹き始め、いつも運転中に聞いているラジオから流れてくる音楽は、全てホリデーシーズンの曲となった11月。寒い寒いケンタッキーで開催されたキーンランドノベンバーセールも無事に終了。今年も多くの日本人バイヤーの方が、Old Kentucky Homeで新たな血統を求めて参集。盛況となりました。
 今回もケンタッキーへは夜中のフライトで飛んできたのですが、その日のお昼まで1頭の馬に携わっていました。皆さんも期待を込めて応援してくださった、2014年優駿牝馬(オークス)優勝馬・ヌーヴォレコルト号です。

ブリーダーズカップ・フィリー&メアターフ(Breeders’ Cup Filly & Mare Turf)

 今回ヌーヴォちゃんが参戦したのは、フィリー&メアターフディヴィジョン。ちなみに英語でフィリーは若い牝馬、メアは古牝馬のことを指します。(若い4歳までの牡馬はコルト(Colt)、それ以上はホース(Horse)。種牡馬になると性別はスタリオン(Stallion))
 したがって、米国における牝馬の芝の女王決定戦ともいうべきレースで、様々な国からチャンピオンフィリー・メアの称号を勝ち取るために参戦してきます。国際レーティングにおいても米国の芝馬は若干数字が低いのですが、実力で劣るかというと全くそうではありません。現に、ターフ部門においてはフリントシャーのような欧州から移籍してきた馬が米国馬に負けるケースもありますし、凱旋門賞馬が米国馬とハナ・クビ差の接戦で優勝することもあるわけですから、ダート王国・アメリカの馬と言えども舐めてかかれる相手ではありません。
 今回の一番人気は、東海岸の一番馬・レディイーライ(Lady Eli)。その他にも西海岸代表のアヴェンジ(Avenge)、ペルーから移籍のライアンズチャームなど強豪が多く参戦。実力伯仲、誰が勝ってもおかしくないと思えるメンバー。結果として、ヌーヴォちゃんは11着。ですが、ここに至るまでには外の人間にはわからない大変な努力と苦労があったのです。

樫の女王のご到着

 10月26日未明、ヌーヴォレコルトはロサンゼルス国際空港に日本貨物航空便で到着。午前5時には、サンタアニタ競馬場・輸入検疫厩舎へ入厩しました。すっかり落ち着き払った様子のヌーヴォちゃんは、測ってみると出発前と比較してマイナス2キロ。道中も飼い食いが落ちなかったとのこと、さすがの精神力です。以前から、マネージャーの方に「アメリカの競走馬のようなモリモリの馬体を想像しているんだったら、かなり驚きますよ」と言われていたのですが、降りてきたヌーヴォの馬体は確かに米国馬のそれとは大きな差があり、他馬と比較するとガレて見えました。しかし、オークス優勝時も中山記念優勝時も同じような身体で勝ち越えてきたということは、精神力で、心で走る馬なのであろうことは容易に想像がつくところでした。

 斎藤誠調教師のインタビューで「馬群を割らせてピリッとさせた」と聞いていましたが、「初めて会う人にはいい顔しますから、大丈夫です」とスタッフの方に言われて近づいてみると、5秒で耳を伏せられてしまったので、「これは臨戦態勢だな・・・触らぬ神に祟りなし・・・」と思い、ヌーヴォちゃんには必要が無い限り近づかないようにしました。何よりも、そんなセンシティブなコンディションにいる愛馬に一番気を使っているのは厩務員さんや調教助手さんですから、彼らの邪魔にはなりたくなかったのです(写真1)。

 ドキドキの枠順抽選会(写真2)で引かれた枠は大外の13番。内枠を取りたかった我々としては、真逆の結果となり、さすがにため息が出てしまいましたが、すぐに気を取り直せたのは鞍上が日本の至宝・武豊だったからであろうと思います。私にとってユタカさんとは、今年はレースでは3回目、イベントを含めると4回目のお仕事となりますが、鞍上に迎えるにあたり微塵の不安も感じない騎手はそうはいません。大外枠も、馬群に包まれないメリットもあるわけですから、ポジティヴに捉えようと気持ちが切り替わりました。

写真1
写真2

 その後の調整はウソのように順調に進み、芝=ダート=芝という横切るコースのスクーリング、パドック・装鞍所のスクーリングも何事もなくクリア。追い切りは3ハロンを38秒、ラスト1ハロンは上がり11秒を切るくらいのスピード。日本のメディアではいわゆる「終わった馬」「ピークが過ぎている」「昨年遠征してほしかった」などと書かれていますが、けっして終わってはいない馬だと感じさせてくれます(写真3・4)。大きな期待を抱かせる手応え(助手の相田さんが止めるのに苦労するくらい)で追い切りを終えたヌーヴォちゃんは、悠然と馬房に収まっていました。

写真3
写真4

 ご覧になった方もおられると思いますが、レースは大外枠の不利を解消する日本調教馬のお家芸・ロケットスタート&ユタカさんのリードで非常によいポジションを確保。道中も淀みがなさすぎる展開で、そのまま直線に向いて伸びるかと思いきや・・・。結局ヌーヴォちゃんご本人が競馬をしないままレースを終えることになりました。斎藤先生と一緒に、ヌーヴォちゃんとユタカさんを迎えに行き、話をしている最中に、勝ち馬のクイーンズトラスト(となりの厩舎の欧州馬でした)がフランキー・デットーリ騎手とともにウィナーズサークルで賛辞を受け、お決まりのフライングディスマウントで会場を沸かせているのを横目で見ると、「あの場にいられたかもしれないのにな・・・」とついつい思ってしまうのですが、ヌーヴォちゃんが無事に帰ってきてくれただけでも良かったのかもしれません。(レースのものはないので、パドックでの写真5)

写真5

 レースはBC当日の早いうちに終わったのですが、陣営は悔しがりながらも意外と元気でその後の競馬を楽しんでいました(写真6)。これが競馬にかかわる人たちにとって必要な素養。負けたことを引き摺りすぎない・・・ということ。BCクラシックはアロゲイトがチャンピオンホース・カリフォルニアクロームをねじ伏せるという驚愕の結果となり、今年のブリーダーズカップは2日続けて劇的な幕引きとなりました(写真7)。2日続けてという理由は、初日の最終レースはBCディスタフ。古馬牝馬の女王・ビホルダーと、3歳の若き無敗の女王・ソングバードが火花を散らし、これまた大激戦の末にビホルダーが栄冠を勝ち取ったからでした。

 翌日、ジャパンカップにも登録していたアシュリーラヴズシュガー(Ashleyluvssugar)を管理している厩舎の前を通ると、BCジュベナイルフィリーズのレイが木にかかっていました(写真8)。あのレイが欲しかったなあ・・・と思いながら、また来年以降も挑戦し続けるために、プロモーションを続けていこうと思いました。レース翌日は陣営スタッフみんなで競馬観戦。最後にユタカさん・斎藤先生とともに記念撮影してもらいました(写真9)。

写真6
写真7
写真8
写真9

今回のストーリーはここでは終わらない!

 実はヌーヴォレコルトの挑戦はここでは終わらず、最終目標は香港国際競走。したがってBC終了後はデルマー競馬場へ移動しての調整を行なう予定でしたが、様々な課題をクリアしないと「良い調整」にはならない。いかんせん、検疫上の問題でいわゆる単走しかできないことが大きな問題でした。そのうち、「だったらデルマーにいる間に、もう一走挟んだらどうですか?疲れを残さない程度に」という声が。オーナー・調教師ともに3年間のライセンス交付を受けているので出走させるのは問題なし。デルマーも日本調教馬が出走したことがないということから大歓迎。トントン拍子に話が進み、牝馬限定のG3・レッドカーペットH(芝2,200m)への出走が確定したのでした。

 中間の調整は万全。今回の鞍上に白羽の矢が立ったのは、今まで一番多くヌーヴォちゃんの手綱を取った岩田康誠騎手。思いの外リラックスしてロサンゼルスに降り立った岩田さんと、斎藤先生をピックアップして一路、クルマはサンディエゴ方面へ。

いろいろな初制覇で大団円。

 一泊して、翌朝お二人と一緒にデルマー競馬場へ。ジョッキーライセンス交付後、パドックで人間のスクーリング。装鞍所やパドック、ジョッキールームなどの雰囲気を感じ取って頂いたら、もはや恒例?となった写真撮影(写真10)。全8レース中の7レース目で、前回とは違ってレースまでだいぶ待たなければならなかったので、ある意味BCのときよりも緊張・・・。
 そして迎えたレース(Del Mar:Red Carpet H. https://youtu.be/BQY1eblnLCw)は、ご存知の通り・・・ハナ差で勝利!コース横で見ていた私は、「さすがに届かないか・・・?」と思っていましたが、写真判定の結果はこの差!(写真11)その後の陣営の歓喜が爆発したのは容易に想像がつくところでしょう(写真12)。岩田騎手も久しぶりの重賞勝利。アメリカで勝ってくれて良かったと心から思います(写真13)。

 原禮子オーナー・斎藤誠調教師は、米国重賞初制覇。持ち乗り厩務員の小原さんも、ヌーヴォちゃんを担当して初の勝利が米国(個人的に小原さんの勝ちになったのが一番嬉しかったです)。レーシングマネージャーの安藤さんも専任担当の馬としては初優勝のはずです。私もサポートをした馬たちのなかで、米国重賞は初優勝でした。他にも様々な人たちの「初モノ」が重なり、大変によろしい勝利になったと思います。大団円とはまさにこのこと(写真14・15)。また、当初の目標だった「香港への追い切りとしてのレース出走」も、内容・疲労度合いから、達成したと考えてまず間違いなく、香港での激走が期待されます。

 11月28日月曜日、ヌーヴォレコルト号はロサンゼルス国際空港を発ち、香港へ向かいました。私も香港で陣営のサポートをさせていただきつつ、様々なことを学んでこようと思っております。また12月には、なにがしかのレポートができるのではと思っています。

写真10
写真11
写真12
写真13
写真14
写真15

筆者:沼本光生
1980年東京生まれ。U.S. Equine, Inc., Sales & Operations Manager
http://www.usequine.com
まだまだ今年は終わっていないのですが、ひたすらに出張による移動が多い1年間だったな・・・と思います。関係者として本望といえば本望なのですが、家を空ける日数も数多かったですから、家族を大切にするアメリカの文化からすると、それに反する生活です。普段家にいないので、いる時くらいは奥さんの負担を減らそうと毎日朝・晩の食事を作っているのですが、果たして2人の口に合っているかどうか・・・。