Café Americano

Café Americano vol.12

第12回 今年こそ3冠馬出現か?!米国クラシック戦線もいよいよ大詰め

Congrats, Pharoah & Victor!

 昨年はそのバックグラウンドもあって、カリフォルニア州出身のカリフォルニアクロームの優勝に湧いたケンタッキーダービー。今年、薔薇のレイを受け取った騎士となったのは、ボブ・バファート師が送り出した、ヴィクター・エスピノーザ騎乗のアメリカンフェイローくんでした。ヴィクターは、前年に引き続いての連覇でした。2年連続で西海岸からの馬が勝つのは、なかなかの快挙だと思います。

 アメリカンファラオのバックグラウンドは、応援する側には微笑ましいものでありました。彼の父親であるパイオニアオブザナイルも、同じオーナーのザイアット氏によって所有されており、フェイローくんはセリにかけられたりしたものの、結果として手元に戻って(ラッキーでしたね~)ザイアット氏の生産・所有。オーナーブリーダー冥利に尽きる実績を作ってくれたのではないでしょうか。公募した中から選択したお名前が、スペルミスだったことも有名なお話。そのまま申請して、ジョッキークラブは受理してしまったわけです(ジョッキークラブにスペルミスの義務はありませんから仕方ないですけど・・・)。道理で、American Pharoahと入力するとスペルチェックされるし、Googleで検索してもPharaohしか出てこないわけですね。(笑)私も発音どおりに、彼の名前をフェイローくんという発音に変更しました。

 競走馬のふるさと・ケンタッキー州。その名を冠したダービーが行なわれるわけですから、その盛り上がりもハンパではありません。開催地・チャーチルダウンズ競馬場を擁するルイヴィルでは、ダービーフェスティバルが約2週間行なわれ、街中が華やかに彩られるそうです。「そうです」というのは、私はまだその期間中にケンタッキーを訪れたことがないからで・・・。飛行機代も宿泊費用も跳ね上がるこの時期は、私のような州外からの参加者にはハードルが高いのです(泣)。ダービー前日の金曜日・ケンタッキーオークスの日には、我々も現地の牧場関係者と連絡が取りづらくなるくらいですから、ヒートアップの度合いは相当なものです。

 第2冠目はプリークネスステークス。今年は開催地であるメリーランド州・ボルティモアでは一騒動起きており、一時期開催が危ぶまれる声も上がっておりましたが、何とか開催にこぎつけました。開催がなければ競馬場の売上はおろか、周辺の経済にも大きく影響するわけですから、無事に開催出来て何より。
 レースはアメリカンフェイローの圧勝劇。直前から降り始めた大雨の影響で、ピムリコ競馬場は泥田馬場に・・・。しかし3月のリーベルSでSloppy(不良)な馬場を経験し、圧勝していた彼に心配は不要でした。軽やかに先頭に立ち、7馬身差をつけての鮮やかな逃げ切り。ここまで圧倒的な勝利を見せつけられてしまうと、アファームド以来の「3冠馬の誕生」という言葉が脳裏をよぎってしまいます。私個人の唯一の懸念は、彼のローテーション。3月のリーベルSからアーカンソーダービーまでは4週間空いていたわけですが、その後ケンタッキーダービーまで21日。プリークネスまで14日。そして最後の難関・ベルモントSまでは21日、そしてニューヨーク州までの移動。馬の疲労は、徐々にピークに近づいてきているはずです。特にプリークネスは重馬場を通り越して、力のいる不良となってしまいましたから・・・。ともあれ無事に走り終えて欲しいものです。

3冠レース以外では何が起きているの?

 アメリカの国内は、3冠一色で・・・。それ以外のトピックがあまり出てこないんです。毎日オンラインで発刊されるTDN(Thoroughbred Daily News)でも、3冠以外はほとんど海外のレースレポート。主だったところでは、マイネルフロストが出走したシンガポールエアラインズインターナショナルカップや、東京競馬場で行われているヴィクトリアマイルやオークス、はたまた欧州のG1戦線のレポートを報じるのみ。繁殖シーズンも過ぎて、2歳トレーニングセールのピークも過ぎた今は、あまりレースファンが求める情報が出てこないのです。ですので、海外競馬といえばこの人!という合田さんでも報じないことを、ちょっと書いてみようと思います。それは、お馬さんの輸送に関してです。

 サラブレッドに関わらず、馬種(Equine)を米国から輸出し日本へ輸入するためには、様々な家畜衛生条件をクリアしなければなりません。細かく分けると9つの検査をクリアしなければ、日本へ輸入することはおろか、米国を発つことも出来ません。競馬ファンならば、一度は耳にしたことがあるかもしれませんが、伝貧(馬伝染性貧血)のテストもその一つです。島国の日本では、発見されたら馬業界の一大事で、感染が確認された馬はどんなに優秀な競技馬であろうと有名な馬であろうと、摘発され淘汰されなければなりません。これは、全世界共通のルール。感染すれば、完治の見込みはなく、かと言ってウィルスが変性する特性を持っているので、有効な予防策がないのです。第8回東京優駿を制した駿馬・クモハタも、種牡馬生活中に感染して淘汰されたことは有名な話です。
 伝貧以外にもある血液検査はそうでもないのですが、一番大変なのは生殖器に関わる、あるテストなのです。これは日本の衛生条件では、輸出前30日の間に7日間隔で3回検体を採取し、感染していないことを確認しなければなりません。しかも現在のテスト方法では、結果が出るまでに1週間かかることから、馬齢・24ヶ月以上の牡馬・牝馬を輸出エージェントたちは、毎回ヒヤヒヤしながら結果を見守るのです。今回、3回目のテストをフェデックスの翌日配送では時間的に間に合わない!と踏んだ我々は、私が獣医から最後のテストサンプルを早朝に取得し、ロサンゼルス空港から米国農務省認可の研究所があるサクラメントまで飛び、直接持ち込みを決行!サクラメント空港では、不思議なバッグのオブジェに迎えられ(写真1)、研究所でのお仕事はわずかに1分。受領のスタンプ&コピーをもらった後、州都であるサクラメントはかなりのカントリーサイドなため、何を楽しむわけでもなくその日のお仕事は終了。フライトの時間が近くなるまでスターバックスでお仕事をして、私のサクラメント初訪問は幕を下ろしました。

写真1

因縁?ここでも思い出すなんて。

 レンタカーを返しに行くと、レンタカー会社が提供する帰りのシャトルバス停留所で、顔見知りの殿堂入りジョッキー、アレックス・ソリス(写真2)がティファニーの箱を持ってバス待ち。「おお、アレックス~!何してるの~!?」と話が始まり、少し気分がほっこりしました。ティファニーの箱は、ゴールデンゲートフィールズ競馬場でのレースに優勝した際にもらった賞品で、大井競馬場のサンタアニタトロフィーにレッドアラートデイで参戦した調教師、ダグ・オニールの馬で勝てたそうです。驚くことに、ダグの馬に乗るのは今回が初めてとのことで、結果を残せたと喜んでいました。サクラメントでも、TCKのことを思い出すことになろうとは・・・よほど私とTCKは縁が深いのでしょう(笑)

写真2

 また近いうちに、米国馬を伴って大井競馬場にお伺いしたいと思っています。今年のサンタアニタトロフィーは少しタイミングが遅いですが、年末の東京大賞典・・・ではなく、出来れば暖かい時期の帝王賞を国際G1にして頂ければ馬もスタッフも身体が楽かと・・・。そしてぜひ5年後くらいには左回りコースに変更を・・・。
ここにひっそり、TCK及び地方競馬全国協会にご提案申し上げます。