Café Americano

Café Americano vol.04

第4回 お馬さんが大空を飛ぶ!

ペガサスじゃなくても、馬は空を飛ぶ

 ようやく夏の大井のイベント・サンタアニタトロフィーが終了し、ほっと一息。今年はセイントメモリー号が連覇を達成。サンタアニタ競馬場・ルット社長がプレゼンターとして登場、私も通訳として同行させて頂きました。また、詳しいところはプロの写真が出来上がってきましたら、本コラムでお伝えしたいと思います。

 私が籍を置くU.S. Equine社は、国際馬匹輸送会社として、過去にはグラスワンダー、アグネスデジタル、シンボリクリスエス、最近ではアイルハヴアナザー、ヘニーヒューズ等を日本へ輸送した経験があります。大井競馬場に在籍する馬車用の大きな重種馬も、当社で輸送した仔たちです。アメリカで馬産地として名が轟いているケンタッキー州、それに追随しているのがフロリダ州。その後ニューヨーク州等が続いているので、東海岸が多くの米国産馬を輩出しているということになります。
 アメリカの競りで有名なのはフロリダ・OBSセール、カリフォルニア・バレッツセール、そしてケンタッキーはファシグ・ティプトンとキーンランドセール。キーンランドはブルーグラス空港の目の前に位置し、競馬場と競り場が同じ敷地内にあるのですが、来年2015年のブリーダーズカップ(BC)は、キーンランドで開催されることが正式に決定しました。来年のキーンランドの秋は、BC終了直後にノベンバー・ブリーディングストック・セール・・・。大変多忙な日々を送るであろうことが容易に想像できます(汗)

 さて、来月はキーンランド・セプテンバーセール。4,000頭を越える1歳馬が一堂に会し、競りに上場されます。ここで購買されるお馬ちゃんたちはオーナーたちの期待を一身に背負い、検疫を経て世界各地へ輸送されます。昔の私が興味津々であったように、皆様も馬の輸送がどんなものかご興味あるのではないかと思い、今回は、今年2月に私が初体験したお馬さんの輸送のレポートをお送りしたいと思います。

サンシャイン・ステートから氷の国へ

 ロサンゼルスは、一年を通じて比較的温暖。冬季でもそれなりに気温が高いため、日本にいた時のようにコートを着込まなくても生活できます。おそらく北海道から来られた方なら、暖かくてコートを脱いでしまうでしょう。サンシャイン・ステートと呼ばれるカリフォルニア。その中でもロサンゼルスは恵まれています。
 その愛しきロサンゼルス国際空港を午前0時前に出発し、一路シカゴ・オヘア空港へ。久しぶりのレッドアイ(夜間飛行)では耳栓が大活躍し、安眠したまま明け方5時に到着。空港内は暖かいのですが、外はマイナス10度。外に出て10秒間は冷気が気持ちいいのですが、次の瞬間凍結寸前(写真1ご参照)。私は、昔やったゲームなどでしか見たことがない氷の国に来てしまったのだろうか、ロスの気温に慣れきった私がこんなところで気を確かに持てるのかと、一瞬気が遠くなりながらシャトルバスでホテルに入り、まずは一眠り。

 起床後レンタカーを借りに行ったのですが、東京生まれ東京育ちの私には衝撃的な光景・・・それは、レンタカーにすらツララが・・・。私が指定された車は、ツララどころか氷の塊が(写真2ご参照)。でも、車が温まれば、どうってことはない!と思い、車に乗り込みましたが、車の熱で溶けた水がブレーキの中で凍っていて、ガリガリバリバリ音がして・・・ちょっと怖い思いを致しました。ゲートを出る前には、係員が雪をどけるためのブラシ付きの棒をタダで渡してくれました。必要なのかな・・・と思いきや、これが後日いい働きをするのです。なんといっても、一晩経つと車に10センチくらい雪が積もっているわけですから・・・。一度、雪のおかげで駐車場から出られず、先輩に車を押してもらって離脱!・・・なんてことがありました。ただの出張であるとはいえ、シカゴに住まわれている方の冬場のご苦労が少しわかる気がしました。

写真1
写真2

お馬さんの心の声「え、エコノミークラス!?」

 お馬さんを運ぶには決まりがございまして、シカゴから出発するお馬さんたちは総じて5時間以上の休息を取得しなければなりません。CEEC(Chicago Equine Export Center, シカゴ馬輸出センター、写真3ご参照)で、お休みになられているお馬さんを直撃しました(写真4ご参照)。この寒い中、ご苦労さまです。
 ややお疲れ気味で気が立っておられましたが、お元気です。この待ち時間に、我々はUSDA(アメリカ農務省)と輸出前の最終やり取りがあったりします。厩舎にいるみんなの無事を確認して、いったんホテルへ帰着。お食事を済ませて一眠りしたら、もう出発前準備の時間、午前0時です。

 お馬さんにとって致命的にもなりうる疝痛(腹痛)は脱水症状から起きることもありますので、予防と健康維持にはお水をいっぱい飲んで頂くことは必須。そのため、フライト中に喉を乾きやすくするために、このタイミングでお馬さんに電解質のペーストを食べて頂きます。その間、携行品(馬服、バンテージその他)をチェックして名前のステッカーを貼って、あーだこーだでドタバタ騒ぎ。2月のシカゴは雪もバッチリ降っておりますので、その後馬運車は、真っ白い景色の中をただひたすらにシカゴ・オヘア空港へ向かうのであります。

写真3
写真4

 日本の馬運車は、大型バスのようなスタイルが定型だと思いますが、合理性を追求する志向が高いアメリカでは、輸送する馬の頭数によって大きさが異なります。1頭の場合は、ピックアップトラックに小さな馬用のカーゴを装着して運んだりするのです(写真5参照)。今回は複数頭数のお馬さんたちがいらっしゃいましたので、どデカいトラック+トレーラーになりましたが、中はこんな感じになっております(写真6・7参照)。アメリカ人は、馬に干し草を食べたい放題にあげるので、馬運車には常に干し草が満載です(もちろん長距離輸送の場合はしっかりお水も飲んで頂きます)。CEECからオヘア空港まで、一般道とフリーウェイの揺れに耐えながら約30分の道程。雪が降っているので、運転手は格別気を使っておりました。

写真5
写真6
写真7
写真8

 さあ、空港到着。我々はスタッフと書類のやり取りなどを交わしながら、トラックの現地着を待ちます。到着後、馬運車からストールへの橋が敷かれ、順序良く1頭ずつお入り頂きます。競馬でゲート・インする時と同様に、反応はそれぞれ。「はいはい」という感じで入っていくお馬さんもいれば、「え?なんで?どこ行くの?!」というのもおりますし、「アタシ、ファーストクラスじゃなきゃイヤなんだけど。寝ワラが敷き詰められてない?となりにあの仔がいるってどういうこと?!狭いじゃない!」という感じでツンとしてしまうお嬢様もいらっしゃいます。なだめてすかしてストール(写真8参照)に入って頂いたら、あとは我々も何もできません。彼らは輸送用の飛行機に自動的に運ばれていきます。落ち着いた後はどうということはなく、アテンダントと仲良く、長いフライトを一路日本へ(写真9参照)。シカゴ発は途中で給油の必要があるため、アラスカ州・アンカレッジに着陸。仕切り直して、日本への長い太平洋横断のフライトとなるわけであります。その間も、ベテランのアテンダントたち(獣医さんにアテンドをお願いすることもあります)が、馬とコミュニケーションを取りながら、飼葉の食べ具合・水飲み具合・体温等をチェック。安全・安心輸送のための努力があるのです。我々の物理的な仕事は、飛行機がシカゴを離れた時に終了ですが、その後も状況を追い続け、無事に仕向地に到着するまでモニターし続けます。ちなみに日本へ到着すると、ベテランの皆様がお馬さんたちを出してくれ、入国検疫に向かいます(写真10参照)。その後、3ヶ月の着地検疫を終えて調教されたお馬さんたちが、いわゆるマル外として皆様の前に姿を表わすのです。

写真9
写真10

ぜひ競馬場に足を運んでください!!

 いかがでしたでしょうか。なんとなく好奇心が満たされましたでしょうか?私もまだまだ勉強中です。これらのプロセスを進めていくうちに思うのは、米国に限らず、海外から飛んでくるお馬さんたちは検疫その他を含めて、大変な思いをしてくるんだなーということ。そんなお馬さんたちが、身体を鍛え、芝の上で砂の上で激闘を繰り広げるわけです。経済動物と揶揄される時もありますが、我々を楽しませてくれ、癒してくれ、また明日への活力をくれ、夢を与えてくれる大切な存在です。経済動物などではありません。お馬さんたちが毎日一生懸命走っています。読んで頂いている方、ぜひお近くの競馬場に足を運んでみてください。マル外ちゃんたちに「よく来たな~」と声を書けてもらえれば、運んだ我々も嬉しいです。

筆者:沼本光生
1980年東京生まれ。U.S. Equine, Inc., Sales & Operations Manager
サンタアニタトロフィーが終わって少しリラックス。帰国後の時差ボケと闘いながら、往復160キロの道程を日々通勤。キーンランド・セプテンバーセールの出張が始まる前に、どこかにリフレッシュしに行きたい34歳の夏です。