Café Americano

Café Americano vol.02

第2回「これぞ究極のヘビーローテーション!アメリカ・クラシック三冠」

I want you~♪ I need you~♪

 まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのAKB48。彼女たちが歌う歌詞の一節「MAXハイテンション~♪」は、まさにアメリカ競馬ファンが、三冠馬の誕生を待ち焦がれている気持ちそのもの。ケンタッキー(KY)ダービー・プリークネスステークスを圧勝し、ベルモントステークスに望んだカリフォルニアクローム(California Chrome, 父:Lucky Pulpit)は、惜しくも4着。またもや三冠馬の出現はお預けとなってしまいました。スタート直後に右脚を隣の馬に蹴られ、負傷していたことも原因の一つのようです。優勝したトーナリスト(Tonalist, 父:Tapit)の入線を呆然と眺めながらオーナーは天を仰ぎ、大観衆は大きなため息。テレビ観戦したファンは(私も含めて)頭を抱え・・・。しかしながら、彼の走りは多くの競馬ファンのみならず、ESPN等のスポーツ専門テレビの放送を観た一般スポーツファンをも巻き込んだ、まさしく「Chrome Boom」を巻き起こしました。彼に関わるグッズは飛ぶように売れ、どこの競馬場でも緑と紫の「Chrome Color(クローム・カラー)」を見かけます。そんな彼が出走するベルモントステークスの発走を、多くのファンが我慢しきれなかったことでしょう。オーナーは、この後しばらく彼を完全休養に充てたいとの意向を示しています。次のスタートに向けて、その刃を研ぎ澄ますアート・シャーマン(Art Sherman)調教師の手腕に期待ですね。今年のブリーダーズカップ(BC)・クラシックでその勇姿が見られるでしょうか?

米国クラシック三冠の厳しさ

 歴代の米国三冠馬は合計で11頭(この中には、シービスケットとマッチレースを行なったウォーアドミラルもいます)。過去50年間で絞ると、たったの3頭、すなわちセクレタリアト・シアトルスルー・アファームドであり、1978年のアファームド以降、36年間三冠馬不在なのです。その間、中央競馬では1964年のシンザン以降、彼を含む6頭が誕生、地方競馬ではトーシンブリザードが、現在の南関東三冠にあたる競走を全て無敗で制しています。


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 この、アメリカで三冠馬がなかなか出ない理由は何なのでしょうか。私はスケジュールと、移動距離に厳しさがあると思います。広く知られているように、米国クラシック三冠は1ヶ月間のうちに終了する究極の「ヘビーローテーション」。今年を例に取れば、KYダービーは5月3日、プリークネスSは5月17日、ベルモントSは6月7日。明らかにタイトなローテーションです(少しキツめの南関東の三冠でも開催期間は3~4ヶ月あります)。しかし、そこにはさらに大きな壁があります。カリフォルニアクロームを例に取れば、ロサンゼルス近郊の空港からルイヴィルまで3時間半、1,800マイル(約2,900キロ)を空輸。その後トラックでチャーチルダウンズまで運ばれます。その移動時間とストレスは、なかなかのものでしょう。ダービー終了後、プリークネスSが行われるピムリコ競馬場は、さらに約600マイル(約960キロ)、そこからベルモントSの開催場所・ベルモントパーク競馬場へも、そのまたさらに約210マイル(約340キロ)、合計で約2,600マイル(約4,200キロ)。それを、競馬をしながら移動するわけですから、疲労回復・調整、関係者や競走馬の環境への馴致を考えると、並大抵のことではありません。この移動距離は、大陸内で4つの時差があるほど大きな国土を持つアメリカならでは。

 英国で競馬が発祥した頃は、お互いがバテるまで走るヒートレースが一般的に行われていたそうですから、米国のファン・関係者は距離ではなく、そこにスピード・精神力・基礎体力の比較要素を加えたことで、真に強い馬を求めているのかもしれません。

アメリカ=多様性の国

 アメリカ合衆国は、そのユニークな統治形態や国力、または「人種のるつぼ」として知られています。アメリカの素晴らしさの一つに、人種・文化・宗教・思想の違い等の全てを包み込む「懐の深さ」があると私は思います。人それぞれ違っていることが当たり前。ユニークな個性やファッション、音楽や絵画の出現をアメリカ人みんなが待っているのです。その多様性は競馬にも如実。競馬の種類は、日本は平地と障害競走が主ですが、アメリカではトロッターが二輪馬車を引いて走る繋駕(けいが)レースがまだあるんです!この形態の競走は古代の戦車競走にならったもの。日本では1971年を最後に行われていませんが、これもまた非常に奥が深いそう。また、車のゼロヨンレースのように、クオーターホースが全力で400メートル駆け抜けるレースもあります(彼らは400メートル以下であれば、サラブレッドと互角以上のスピードで走ることができます)。また著名なブリーダーズカップは2日間で13のG1レースを開催。年齢も性別も距離も馬場も、全てをひっくるめた、まさしく競馬の祭典。米国馬はもとより、欧州勢・中東勢・アジア勢にも十分戴冠のチャンスがあります。私も日本に住んでいた時は、平地競走が普通かつ最も人気のある競走だと思っていましたが、世界的に見れば、障害・繋駕・クオーターホース等、多くの種類が存在し、それぞれに熱狂的なファンがいるのです。私の学生時代の英国留学、そして米国への移住は、まさしく開目、Opening of the eyesでした。それらに気づかせてくれたのも、アメリカの大きな懐に飛び込んだからだと思うと、この国には大きな恩がありますね。

その多様性が壁に?統一ルールは必要なのでは・・・?

 アメリカの統治形態は、連邦・州の2つに分けられており、労働基準法や税法なども、連邦法・州法に分けられています。悲しいことに、所得税も連邦・州と2つも取られてしまうのですが、州によっては所得税が無かったり消費税がなかったりします。これだけ違うと・・・はい、ご想像の通り競馬法にも違いがあるのです。馬主ライセンスも州ごとに違うので、他州遠征時はライセンスを再度取得しなければなりません。馬のルールも同様。カリフォルニアクロームが装着していたネイザル・ストラップは鼻呼吸を緩和するテープ(ドーピングではない)ですが、ベルモントSが行われるニューヨーク州では装着が認められておらず、カリフォルニアクロームの出走可否問題にまで発展しました。結果、二冠馬が出走できないという事態は避けられましたが、多様性がもたらした出来事であったと言えます。競馬は、いまや世界を相手に行なうスポーツ。全世界的な共通ルールがあっても・・・と思うのは私だけでしょうか。

 しかし、さすがアメリカ・・・と思わせるのは、人間版のネイザル・ストラップを製造販売する会社が、そのストラップ問題を逆手に取ってカリフォルニアクロームとスポンサー契約を結んだこと。ベルモントステークスを同時中継したサンタアニタ競馬場では、”Chrome”名入りのデザインのネイザル・ストラップが来場者に配布され(スクリーンショットご参照)、ビールを片手にエキサイトしていました。主催者もファンも、エンターテインメントなお国柄が出てますねぇ・・・。


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(写真:Photo Chestnut, Co)