TCKコラム

TCK Column vol.47

父と子、そしてホワイトシルバー(全5話)

転機のオールカマー編

1年4ヵ月ぶりの美酒を味わう。
4歳時、掲示板を外したのは12戦中2戦のみ。
堅実な走り、入着で賞金を稼ぎながら昇級していく。
本来ならば、もっと活躍しながら昇級できる逸材のはず……。
明け5歳、馬体に潜む未知のパワーの封印が解かれる日が訪れた。
実感したダイヤモンドレディー賞。大外からの強襲。
華奢な体が一変しだす。最高クラスへの格付け。
転機となる中央参戦。
そこで、中央騎手・岡部幸雄と交わした言葉。
加速する岡部の馬を見せ付けられるレース。
動かないホワイトシルバー、どうしてなんだ……。

急速に増えだした馬体

大井のデビューウイン以降、勝ち星から見放されたように、入着を繰り返すホワイトシルバー。明けて4歳になっても、その入着の繰り返しは続くのであった。
しかし、平成4年4月18日、仲春特別で移籍2勝目を挙げる。大井競馬デビュー戦勝利から実に15戦目、1年4ヵ月ぶりであった。さらに9月16日、スターサファイア賞でも勝利を挙げた。
4歳時の戦績の大きな特徴は、掲示板を外したのが12戦中2戦だけという堅実さ。しかもすべて6着以内。入着を繰り返し賞金が少しずつ増えることで、上のクラスに上がっていく。本来ならもっと活躍をしながら、昇級してもおかしくない逸材なのだが……。
「別にどこかが悪くて休んでいたとか、放牧されていて使っていなかったというのではなく、コンスタントに使っていたのだけれども、勝ちきれないレースが3歳から4歳にかけて続いていた」。
これだという勝ちきれない理由が見当たらない。当初のころから続く調教が思うように進まないこと、馬体が思うように増えないことが原因なのか。
「どうしても入れ込みがすごい馬だっただけに、調教だけでなく、レースでもスタートする前に、気力と体力を消耗してしまうほどだった。パドックでも汗でびしょびしょになってしまって、そこでもう仕事をしてしまっていた。レースで気力を頂点に持っていかなくてはならないのに、レースの前に頂点に達して、レースでは下降してしまっていた」。 4歳においても気性の問題で、馬体に潜む未知の力を封じ込めてしまっていたのである。しかし、その封印が解かれる時がすぐ目の前に迫ってきている……。

ゲート隣の岡部幸雄騎手

平成5年、年明け5歳になるとホワイトシルバーの馬体が急速に増えはじめる。普通なら牝馬の5歳といえば、成長は止まっているはずだ。
「通常5歳といえば成長期のピークは過ぎているにもかかわらず、馬体が20kgも、30kgも増えることは考えられない。だけどホワイトシルバーに関しては、どうしてこの時期に? というぐらいに増えだした。特に飼い葉を食べだしたのが大きかった」。
ホワイトシルバーは大器晩成型なのか。
父ミルコウジはその名前から分かるとおり、ミルジョージ産駒であり、昭和60年の東京ダービー馬でもある。左前脚が内向きであったことなどから、8戦4勝という戦績を残し、この東京ダービーを最後に引退する。ミルコウジ自体が奥手の血統というか息の長い血統でもある。産駒も丈夫な馬が多いのが特徴だ。

荒山がホワイトシルバーの強さを実感しだしたのは、2月2日、オープン戦のダイヤモンドレディ賞だという。
「一番後ろから直線だけで、横一線になっていた全馬を大外ラチから差し切った強い競馬をした。やっぱりこの馬の強さは本物だとね」。
ゴール板横から見るVTRでは、あまりにホワイトシルバーが大外ラチを走っていたので、ゴールした瞬間しか映っていなく、しかも画面の下のほうにわずかに映っただけだという。
「2着チャームダンサーの石崎(隆之騎手)さんは、直線で抜け出して勝ったと思っていたが、内からではなく、はるか彼方の外から差してきたホワイトシルバーが視界に入らなかったようだ。ゴールを過ぎたらなんか外にいたようだとゴール後に石崎さんと会話したことを覚えている」。

次戦、梅見月賞では初の連勝を果たす。前戦のダイヤモンドレディー賞の人気が12番人気、梅見月賞も12番人気と低い人気ながらの勝利であった。この低い人気での勝利は、この年の秋の快挙と呼ぶにふさわしい活躍でも同じように評価されることとなり、ファンもその実力に半信半疑だったのではないだろうか。
梅見月賞以降、卯月賞7着、隅田川賞4着、ブリリアントカップ2着、大井記念7着、クイーン賞6着とオープン戦、重賞路線を歩むが、まだオープン級の牡馬相手では、力の差を感じさせられる結果となった。
「バリバリのオープン級の牡馬とでは、やはり力の差はあった。テンに行ける脚がないので、どうしても後ろからの競馬になってしまう。4コーナーを回るところまでは、かなりいい手ごたえで走ってくれるのだが、直線で追い出したときに、メンバーの強さを実感した。前は止まらないし、周りの追い出しも強い。ホワイトシルバーも今までにない伸びを見せているが、周りがそれ以上に強いということなんだ。直線で真ん中ぐらいまで伸びてゴールというレースが続いていたよ」。
だからといって、先に行ったのでは途中で脚が止まってしまう。後ろから行っても真ん中でゴールしてしまう。「ここで何かきっかけがつかめれば結果は出てくるのだが……」と、そんなじだんだを踏むレースが続く。それでも6月には、入着を繰り返すことで賞金を重ねた結果、最高クラスのA1に格付けされたのである。

盛夏が過ぎた9月19日、ホワイトシルバーは補欠で第39回オールカマー(芝2200m、中山競馬場)に選出される。地方競馬招待レースとなって8回目を迎えた。ほかの地方競馬招待馬は、川崎記念、帝王賞を含む重賞3連勝中で、しかも昨年同レース2着だった大井のハシルショウグン、前走関東盃を快勝した船橋のモガミキッカ、昨年の東京大賞典馬である大井のドラールオウカンであった。
ホワイトシルバーの人気は13頭立ての13番であった。
「オールカマーに行ってから何か変わりだした。人気もなかったけれど、厩舎サイドからは、『せっかく選出された以上は悔いのないレースを』と言われていて、自分自身も挑戦者としてリラックスして挑むことができた」。
結果、レースではしんがり負けではあるものの、ダートと芝の違い、仕掛けどころの違いなど、荒山には実り多いレースだった。
「ゲートでは、隣の岡部さん(幸雄騎手)がいろいろと話しかけてきて、『地方の馬は大変だよな。ゲート試験なんかしなくてもいいのにな』(中央で走る地方馬は必ずゲート試験をしなければならい)とね。道中ではずっと岡部さんの馬と後方で並んで走っていて、向こう正面に入ったところで岡部さんが『さあ、そろそろ行くか』と言って、ゴーサインをかけたのを見て、自分もホワイトシルバーにゴーサインをかけたが動かなかった。岡部さんのゴールデンアイはスーと上がって行ったのを見て、ああこれが力の差なのかと実感した。また、岡部さんの馬を見て、馬が行きたいときは無理に抑えないで、行かせたあげたほうがいいのかなと思った」。
ホワイトシルバーはこのオールカマー以降、とんでもない快進撃を繰り返す。まさしくこのオールカマーが転機となった。
(重賞3連勝の栄冠編へ続く)

ホワイトシルバー 血統表

牝 鹿毛 1988年4月11日生まれ 北海道静内町・富岡弘生産
ミルコウジ ミルジョージ(USA)
センターガーデン
テツトシルバー ティットフォアタット(USA)
ジェッティ(GB)

ホワイトシルバー 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
H2.4.26 帯広 2歳新馬 900 千葉津代士 53 (3) 5 1:00.6
5.8 帯広 2歳 900 千葉津代士 53 (4) 3 57.7
5.24 帯広 2歳 900 千葉津代士 53 (2) 2 57.6
6.7 岩見沢 2歳 900 千葉津代士 53 (1) 4 1:00.0
6.21 岩見沢 2歳 900 千葉津代士 53 (2) 8 59.7
8.21 旭川 2歳 900 千葉津代士 53 (6) 7 59.6
9.5 札幌 2歳 900 千葉津代士 53 (6) 3 56.2
9.17 札幌 2歳 900 千葉津代士 53 (1) 1 56.1
9.27 札幌 2歳 1000 千葉津代士 53 (7) 6 1:03.2
10.9 札幌 2歳 1100 千葉津代士 53 (7) 1 1:09.9
10.31 函館 2歳 1000 千葉津代士 53 (8) 8 1:03.5
11.23 大井 能力試験 800 荒山勝徳 51.2
12.10 大井 2歳 1500 荒山勝徳 53 (6) 1 1:39.9
H3.1.3 大井 3歳 1600 荒山勝徳 53 (10) 9 1:49.6
2.25 大井 桃花賞 1600 荒山勝徳 53 (12) 12 1:45.4
3.21 大井 すみれ特別 1600 荒山勝徳 53 (9) 6 1:46.2
4.2 大井 さくら特別 1700 荒山勝徳 53 (11) 7 1:53.0
5.4 大井 山吹特別 1700 鈴木啓之 53 (6) 4 1:50.8
5.14 大井 紅ばら特別 1700 荒山勝徳 53 (10) 3 1:50.1
6.2 大井 すずらん特別 1600 荒山勝徳 54 (7) 3 1:42.8
7.8 大井 東京プリンセス賞 1800 荒山勝徳 54 (9) 8 1:56.3
7.25 大井 ひまわり特別 1700 荒山勝徳 54 (6) 4 1:49.9
8.11 大井 カンナ特別 1700 荒山勝徳 54 (9) 2 1:50.6
11.18 大井 サラ系一般B3五 1600 荒山勝徳 53 (2) 9 1:45.5
12.23 大井 サラ系一般B3四五 1400 荒山勝徳 53 (4) 6 1:29.6
H4.1.10 大井 サラ系一般C1四 1600 荒山勝徳 53 (3) 2 1:43.8
3.24 大井 九段坂特別 1700 荒山勝徳 53 (6) 5 1:51.9
4.18 大井 仲春特別 1700 荒山勝徳 53 (1) 1 1:50.5
5.12 大井 サラ系一般B2B3 1500 荒山勝徳 52 (5) 6 1:37.3
6.15 大井 オーロラ賞 1800 荒山勝徳 53 (8) 4 1:57.4
7.3 大井 スタールビー賞 1800 荒山勝徳 52 (4) 5 1:55.8
7.23 大井 トロピカルナイト賞 1800 荒山勝徳 53 (2) 3 1:56.4
8.22 大井 サラ系一般B2三 1200 荒山勝徳 53 (8) 3 1:14.8
9.16 大井 スターサファイア賞 1600 荒山勝徳 53 (11) 1 1:43.1
10.7 川崎 エンプレス杯 2000 堀千亜樹 52 (12) 3 2:09.7
11.13 大井 サラ系一般A2 1600 堀千亜樹 51 (5) 6 1:43.6
12.14 大井 ブルージルコン賞 1800 荒山勝徳 53 (7) 5 1:57.1
H5.1.18 大井 ベイサイドカップ 1800 荒山勝徳 53 (13) 9 1:56.6
2.2 大井 ダイヤモンド
レディー賞
1800 荒山勝徳 53 (12) 1 1:56.1
2.26 大井 梅見月賞 2000 荒山勝徳 54 (12) 1 2:08.2
4.9 大井 卯月賞 1800 荒山勝徳 52 (8) 7 1:55.0
5.10 大井 隅田川賞 1800 堀千亜樹 51 (5) 4 1:52.9
5.31 大井 ブリリアントカップ 1800 荒山勝徳 54 (4) 2 1:54.7
6.17 大井 大井記念 2500 荒山勝徳 52 (10) 7 2:40.9
7.7 船橋 クイーン賞 1800 鈴木啓之 55 (3) 6 1:54.1
9.19 中山 オールカマー 2200 荒山勝徳 54 (13) 13 2:15.7
10.27 大井 グランド
チャンピオン
2000
2000 荒山勝徳 55 (13) 1 2:05.9
11.30 大井 東京記念 2400 荒山勝徳 54.5 (16) 1 2:34.2
12.29 大井 東京大賞典 2800 荒山勝徳 54 (5) 1 3:00.4
H6.4.12 大井 帝王賞 2000 堀千亜樹 53 (6) 10 2:05.6
6.23 大井 大井記念 2500 荒山勝徳 56 (3) 2 2:39.8

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。