TCKコラム

TCK Column vol.34

記録、記憶、そして運命 コンサートボーイ(全5話)

クラシック3冠2着編

その素質にだれも異を唱える者はいなかった。
ホッカイドウ競馬から川崎競馬へ、そして大井の名門へ移籍を繰り返す。
クラシックにおいては3強の一角として、タイトルに大きな期待がかかる。
しかし、結果がついてこない……。
クラシックにおいては、この馬の祖父も同じ道をたどり、古馬になって開花した。
大器晩成への期待の中、名伯楽はある秘策を試みる。
目論見どおり結果を出すのだが、一方で調整の難しさに悩む。
そんな中、さまざまな運命が味方をし、ついに史上の名勝負を制する。
だれもが待ち望んだ勝利に、6万人のスタンドが沸く……大井の名馬が誕生した瞬間でもあった。

3強の一角

 平成6年7月9日、旭川競馬場のホッカイドウ競馬の新馬戦900mでデビューウインを果たす。

 4コーナーに差しかかったところで、アナウンサーが叫ぶ。
「先頭は9番のコンサートボーイ、リードは2馬身!」
直線に入れば、後続との差はグングンと広がり、アナウンサーは「先頭はコンサートボーイ!」と何度も連呼する。
900mを55秒7。9馬身差の圧勝で走ったコンサートボーイは、だれもがその輝かしい将来を想像するに難くない姿であった。
その後、ホッカイドウ競馬で3勝を挙げ、平成6年11月、鳴り物入りで川崎の鈴木敏一厩舎に移籍した。移籍早々、2歳オープンのローレル賞を勝ち、順調なスタートを切った。

 次戦の全日本2歳優駿では、後に幾度となく対決するヒカリルーファスに破れ4着。
この年、ヒカリルーファスは4戦4勝で、NAR最優秀2歳馬に選ばれた。続く年明け2月の京浜盃では、これもまた、最大のライバルとなるジョージタイセイに破れ2着。
4月12日、クラシック前哨戦ともなる黒潮盃では、先の2戦で先着を許したヒカリルーファス、ジョージタイセイ、そしてコンサートボーイの3頭による勝負をみせ、ジョージタイセイの2着。3着はヒカリルーファスであった。この3頭は南関東の3強としてクラシックへと駒を進めるのであった。

 5月4日、クラシック第一関門の羽田盃。4コーナーまでは3番手につけ、好機をうかがい直線で勝負するものの、先頭を行くヒカリルーファスを捕らえきれず半馬身差の2着。3着はジョージタイセイである。

 続く第41回東京ダービー。コンサートボーイも順調に仕上げられた。だが、またしても今度は前を行くジョージタイセイを捕らえきれない。
「外からコンサート! 外からコンサート! 外からコンサートボーイがやってくる!
ジョージタイセイ踏ん張っている!」
アナウンサーの絶叫の中で、追い込んだが2着。春のクラシックはもう一歩のところだった、黒潮盃から3戦連続して、1着、3着はヒカリルーファスとジョージタイセイが入れ替わりながらも、2着は不動のコンサートボーイであった。

名門への移籍

 なんとしてもタイトル奪取をかけ、3冠最終戦の東京王冠賞を前に大井競馬の名門である栗田繁厩舎に移籍をする。
栗田繁調教師はブルーファミリー、ユートカイザーなどを育て上げた名伯楽である。

 当時、栗田繁調教師の次男で、調教師免許を所得した直後の栗田泰昌調教師が調教補佐として、コンサートボーイを担当することとなった。川崎へコンサートボーイを迎えに行ったのも栗田泰昌であった。ここまで8戦4勝、2着1回。
「東京ダービーでは2着だったが、3歳時点で2400mを上がり36秒7で走る馬はそうはいないからね」

転厩後、最初のレースとなる東京盃。
「転厩直後で馬体重がプラス25kg、初めて500kgを超えた515kgでレースに臨んだ。これでいいところ来ればすごい馬になるだろうと父親と話していた。そしたら、初めての古馬との対決にもかかわらず、3着だったのだからあらためてこの馬は走ると認識した」
パワフルでスピード感に満ちた走り、一流馬として大成する可能性を十分すぎるほど秘めていた。
「パワーを出したときの力強さはすごいものがあった。走る気になったときの力は、押さえが利かないほどだから」

 一方で、調教は難しいといわれていた。
「走る気を出しているときはいいのだが、途中で気を抜くこともあった。パートナーとうまく合わしながら、追い切りをしていた。追い切りの途中でも、急に立ち止まってしまうこともあった。20分ぐらいその場から動こうとはしなかったからね。その気になるまでじっと待つしかない。あるいは馬場へ入るときに3度、4度と立ち上がることもあったね。パワーもほかの馬の何倍とあった」

強い馬ほど動物としての本能が強く、自己主張が強いものだ。

 一方、馬房では馬場と違って、いつも静かで、じっとしておとなしい馬だった。
 11月9日、クラシック最終戦の東京王冠賞。ヒカリルーファスはダービーグランプリへ、ジョージタイセイは故障と、この2頭が不在なため、当然のように1番人気に推されたコンサートボーイ。鞍上は大井最多の勝利数を誇るベテランの高橋三郎騎手。

 直線を豪快なスライドで快速するコンサートボーイ。しかし、夏の上がり馬ツキフクオーの追撃にあう。
「さあ、先頭は内のコンサートボーイだ。ツキフクオー! ツキフクオー! わずかにツキフクオーだ!」

 アナウンサーの声が、馬群の中から突如飛び出してきたそのツキフクオーの追撃を物語る。晩秋独特の陽が落ち始めた黄金色の太陽の光に反射したダートの砂塵の中で、またしても2着に終わってしまう。
(船橋遠征編へ続く)

コンサートボーイ 血統表

牡 鹿毛 1992年4月29日生まれ 北海道門別町・船越三弘生産
*カコイーシーズAlydar
Careless Notion
コンサートダイナ*ハンターコム
*コンサーテイスト

コンサートボーイ 競走成績

年月日 競馬場 レース名 距離(m) 騎手 重量(kg) 人気 着順 タイム
H6.7.19 旭川 2歳新馬 900 堂山直樹 52 (2) 1 55.7
8.18 旭川 2歳 1000 堂山直樹 52 (1) 6 1:01.8
9.8 旭川 2歳 1000 井上俊彦 53 (1) 1 1:02.5
9.29 札幌 2歳 1100 佐々木一夫 55 (1) 1 1:06.5
10.12 札幌 ジュニアカップ 1700 佐々木一夫 54 (3) 4 1:47.5
11.10 帯広 北海道2歳優駿 1800 國信滿 54 (2) 2 2:00.3
11.23 川崎 能力試験 800 山崎尋美 53.0
12.6 川崎 ローレル賞 1600 山崎尋美 54 (2) 1 1:44.9
12.29 川崎 全日本2歳優駿 1600 山崎尋美 54 (2) 4 1:43.1
H7.2.9 大井 京浜盃 1700 山崎尋美 55 (6) 2 1:49.2
4.12 大井 黒潮盃 1800 山崎尋美 56 (4) 2 1:54.2
5.4 大井 羽田盃 2000 山崎尋美 56 (3) 2 2:06.4
6.8 大井 東京ダービー 2400 山崎尋美 56 (2) 2 2:35.4
9.27 大井 東京盃 1200 山崎尋美 53 (7) 3 1:12.5
11.9 大井 東京王冠賞 2600 高橋三郎 57 (1) 2 2:51.3
12.21 大井 東京大賞典 2800 高橋三郎 54 (7) 8 3:03.2
H8.1.18 大井 東京シティ盃 1400 山崎尋美 58 (2) 4 1:26.8
2.21 船橋 報知グランプリカップ 1800 石崎隆之 57 (2) 1 1:51.3
3.5 大井 金盃 2000 石崎隆之 56 (1) 1 2:06.3
4.11 大井 マイルグランプリ 1600 石崎隆之 57 (2) 1 1:39.0
6.19 大井 帝王賞 2000 佐藤隆 56 (5) 14 2:07.1
8.26 大井 アフター5スター賞 1800 石崎隆之 57.5 (2) 3 1:53.6
9.26 大井 東京盃 1200 石崎隆之 57 (2) 8 1:13.3
10.30 大井 グランドチャンピオン2000 2000 石崎隆之 57 (1) 3 2:05.5
11.18 大井 東京記念 2400 石崎隆之 58 (1) 2 2:35.5
12.29 大井 東京大賞典 2800 石崎隆之 56 (4) 2 3:01.4
H9.2.5 川崎 川崎記念 2000 的場文男 56 (4) 3 2:07.3
2.27 大井 金盃 2000 石崎隆之 58.5 (1) 3 2:06.9
4.9 大井 マイルグランプリ 1600 内田博幸 57 (2) 1 1:39.2
5.28 船橋 かしわ記念 1600 内田博幸 58 (2) 3 1:39.1
6.24 大井 帝王賞 2000 的場文男 57 (4) 1 2:04.9
9.24 船橋 NTV盃 2000 内田博幸 57 (1) 7 2:09.1
10.29 大井 グランドチャンピオン2000 2000 内田博幸 57 (2) 2 2:05.7
12.9 大井 かちどき賞 1800 内田博幸 59 (1) 1 1:54.1
H10.10.2 大井 能力試験 1500 的場文男 1:35.3
10.28 大井 グランドチャンピオン2000 2000 的場文男 56 (3) 3 2:06.2
11.12 大井 東京記念 2400 的場文男 59 (2) 1 2:35.1
12.23 大井 東京大賞典 2000 的場文男 56 (5) 3 2:06.0
H11.10.13 大井 能力試験 1500 内田博幸 1:38.9
10.28 大井 グランドチャンピオン2000 2000 早田秀治 56 (5) 6 2:08.7
11.30 大井 東京記念 2400 早田秀治 58 (3) 9 2:38.7
H12.1.10 大井 東京シティ盃 1400 的場文男 58 (6) 8 1:27.3

副田 拓人
1968年「みゃー、だぎゃー」と言いながら名古屋に生まれる。
競馬フォーラム、競馬ゴールド、ラジオたんぱなどを経て、現在フリー編集者。